ガソリンで走るEV!日産、ノート e-POWERで意地

世界に類を見ない「ハイブリッド偏重国」である日本。その波に乗れなかった日産が、国内で売れるクルマを目指し送り出したのが日本専用車「ノート e-POWER」だ。そこには、「集中と選択」の結果、日産が世界に先駆けて送り出した電気自動車「リーフ」の遺伝子が生きていた。
ハイブリッドを逆転? ここで頑張らねば! の日産
「時速60km以下ならば(燃費で)アクアを越えると思います」(日産自動車 高橋誉志隆課長)
久々に日産から一発逆転ホームランか? と思わせるエコカーが登場した。最良モード燃費37.2km/Lで、驚異のライバル越えを果たした「ノート e-POWER」だ。2012年に発売したコンパクトカー「ノート」のマイナーチェンジに伴う車種追加で、その後の試乗会やディーラーでのお披露目攻勢はもちろん、俳優の柳沢慎吾さんをわざわざ招いてマスコミ発表会をするなど、並々ならぬ日産の気合が感じられる。
しかしそれも道理で、正直、最近の日産は日本で投げるタマ=売る車種が少ないのだ。グローバルでは順調に台数を伸ばし、先日は三菱自動車まで傘下に収めたものの、日本国内での販売数は前年比割れで、シェアも減少気味(2015年の国内販売は前年比12.1%減)。
具体的に戦力になる車種と言えば、当のノート以外はミニバンの「セレナ」、SUVの「エクストレイル」ぐらい。実際、日本自動車販売競合連合会による新車乗用車販売台数月別ランキングの1~6月では、いわゆる白ナンバー車販売のベスト30ランキングには、その3車種しか入っていない。頼みの綱の軽自動車「デイズ」シリーズも、燃費偽装問題で揺れる中身共通の三菱車「ek」シリーズとともに、販売急落。「日本で売れる日産車」の開発は急務中の急務だったのだ。
確かに賭けには失敗したけれど

そのうえ問題はハッキリしていた。ハイブリッドカーの欠如、それも台数の出るコンパクトクラスで日産にはその手のモデルがなかったことだ。
今や日本は世界でも類を見ないハイブリッド偏重国。世界で1割以上この手が売れる国はほぼないのに、乗用車販売の約2割(2015年実績/経済産業省「EV・PHV ロードマップ検討会 報告書」)がハイブリッド車で、筆頭メーカーのトヨタに限って言うと約5割がそれ。
ところが日産車は実質「なんちゃってハイブリッド」とも言うべきエネルギー回生度の少ないミニバンの「セレナ S-HYBRID」以外は、500万円近いセダンの「スカイライン ハイブリッド」や、それ以上になる「フーガ」や「シーマ」といった高級セダンのハイブリッドしかなかった。手ごろな価格で売るエコカーがほとんど手元になかったのだ。
それはある種仕方のない、日産の賭けの結果であり、集中と選択の反動でもあった。1999年から始まったリバイバルプランで、改革者カルロス・ゴーン氏は当時の日産車のハイブリッド開発を凍結。開発リソースを電気自動車などに振り分け、2010年には世界に先駆けて「リーフ」を発売。
これがハイブリッド代わりに世界中で売れていればまったく問題なかったのだが、そうは問屋が卸さない。日産は予想以上に伸びたニッポンのハイブリッドの波に乗れなくなったわけだ。
ノートがあればこそ生まれたe-POWER

とはいえ捨てる神あれば拾う神あり。今回小沢が「ノート e-POWERってすごいな!」と思ったのはこのクルマが、その集中と選択の果てに生まれたリーフあればこその存在であることだ。
ノート e-POWERは正確には、ハイブリッドというより"ガソリンで走る電気自動車"だ。見た目はガソリン車だが、タイヤ駆動は100%モータ-、それもリーフ用モーターとインバーターで行い、高くて重いEVバッテリーの代わりに既存の1.2Lエンジンを改造して作った発電機と、補助バッテリーを搭載。
大ざっぱに言えば、街の屋台にあるガソリン発電機を載せたEVのようなものだ。発電はエンジンの最適回転数を中心に使って効率的に行い、それをエネルギー変換効率のいいリーフ用モーターで駆動力に変える。結果、速度域によってはエンジンをときおり動力としても使うトヨタ方式より全体効率が良くなる。
唯一ハイパワーを使う高速域は、エンジンをタイヤに直結できるトヨタ方式のハイブリッド車が有利だが、トータルで見たら日産方式のほうがいい! という理屈。実燃費にどう反映されるかは未知数だが。
一番あなどれないのがコストで、本来、日産方式だとエンジンとモーター、発電機をすべて必要とするため高くなるのだが、e-POWERについてはリーフ用のシステムを流用して価格を抑えたという。実際、ベーシックグレードが177万2280円と、200万円を大きく下回るのはすごい。「他社だったら間違いなく350万円超えでしょう」(日産エンジニア)といい、これはやはりリーフ効果と言っていい。技術的もコスト的にも"リーフチルドレン"とも言うべき存在なのだ。
実力派の急造リリーフエースはどこまで通用する?

走りもモーター100%駆動車らしく超滑らかかつ静かだからすごい。発進は補助バッテリーの充電状態にもよるがほぼEV並みの無音スタートで、ある程度加速するとエンジンが始動。それはまさに街の発電機のごとく、「ブーン」と一定回転から始まるが違和感は抑え込まれてるし、なにより加速が鋭い!
厳密にいうとリーフに比べて、発進レスポンスは弱めだが、絶対的な最高出力は全く同じ109psなので速くて伸びやか。
唯一にして最大の欠点はボディーとデザイン的インパクトだ。おそらく日産はいまさほど余力がない。イチからボディーを開発する予算も時間もなく、結局既存コンパクトカー=ノートの顔とランプ類をちょちょっと変えて、既存EVのパーツを流用して新作ハイブリッドカーとして出すしかなかったのだ。その分、安く提供できるメリットは生じたが、商品全体としてのインパクトは抑えられた。
さらにコイツは日本専用車。グローバルでハイブリッドは売れないし、イチから作っても元は取れないと判断された部分もあるだろう。
燃費性能はすごいが根本的には日本向けのワンポイントリリーフ。日産の意地で追い上げるが、果たしてアクアをどこまでキャッチアップできるかできるか興味深い。
まさに見ものの急造実力派のリリーフエースなのだ。

自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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