野菜ソムリエが地域おこしの助っ人に 農産品を活用日経BPヒット総研 渡辺和博

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エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、野菜ソムリエ。農産品を地域おこしに活用する活動を積極的に始めている。

野菜に関する知識や料理法などの知識を持つ野菜ソムリエが地域おこしの助っ人として組織だって動き始めている。全国各地の自治体と連携して地域野菜のブランディングやプロモーションにひと役かっているのをはじめ、生産地と消費者をつなぐ活動も広げている。

東京・人形町の老舗飲食店が並ぶ一角に「野菜ソムリエの定休日食堂 育 hagukumi」はある。普段は「とり鈴」という焼鳥屋だが、定休日である日曜だけまったく別のコンセプトのこだわり野菜のレストランとなる。季節の野菜やくだものをテーマに、食材の魅力を伝えるようにその日だけのメニューを考え出して提供している。ある種の実験食堂だ。

これまでに、大分県産の原木しいたけや福島県産の献上桃などをテーマに取り上げてきた。2016年11月6日のテーマ食材は和歌山県・九度山町産の柿。柿の実を使ったつみれなどほかではみられないユニークな料理を提供した。

人形町の焼鳥屋を日曜だけ借りて営業している「野菜ソムリエの定休日食堂 育 hagukumi」と、主宰する田上有香さん(右端)、運営スタッフ

この「定休日食堂」を主宰する田上有香さんによると食堂を開いたのは「野菜ソムリエとして野菜のことを内輪で勉強するだけでなく、広く一般の人に味わってもらう場所が必要だったから」という。テーマ選びに関しては「『有機野菜だから良いとか、珍しいから良い』というものではない」という。どのような作られ方をしたどのような価格帯の野菜でも、それぞれにふさわしい使われ方楽しみ方があると考えているからだ。

田上さんの本業は、飲食業というよりも野菜を通じて地域のブランド価値を高めるプロモーション業だ。これまでに、青森県のJA十和田おいらせや福島県などと関わってきた。

全国の支部がネットワークで地域と連携

野菜ソムリエは一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が制定した民間の資格。日本野菜ソムリエ協会は、01年に日本ベジタブル&フルーツマイスター協会として発足。当初は主婦や料理好きな人が趣味の習い事の一つとして取得することが多かった野菜ソムリエだが、現在は、入門編にあたる「ジュニア野菜ソムリエ」、中級の「野菜ソムリエ」、上級編にあたる「シニア野菜ソムリエ」の3段階に分かれている。飲食業界や食品業界に従事する人が野菜に関する知識をまとめて身に付けるために取得することも多いという。16年4月現在で約5万5000人が資格を取得している。

日本野菜ソムリエ協会のホームページ。設立15年で資格所得者は約5万5000人

日本野菜ソムリエ協会は全国5カ所の支社のもとで、資格取得者や勉強中の会員を対象にVMC(ベジフルメンバーズクラブ)と呼ぶスキルアップ講座を有料で開いている。この講座のテーマに地域の野菜の活用法が取り上げられることが増えている。先に挙げた「野菜ソムリエの定休日食堂」でテーマ食材になった和歌山県産の柿は、16年9月のVMCセミナーのテーマになっていた。

柿をテーマにした講座の内容は、品種ごとに特徴の解説と食べ比べやレシピ提案など

こうした地域活性化に関して食材の知識を持つ野菜ソムリエに何ができるのか、今後の展開を日本野菜ソムリエ協会の福井栄治理事長に聞いた。

「来年度の協会全体のテーマの一つが地方創生で、あらたに2つのアプローチを始めます。現在、協会とパートナーになっている自治体は18ある。これらの地域と『食と農』を考えるシンポジウムを実施することで、その地域に外部から人を呼んでくる仕組みを考えたい」という。既にこのプログラムを東京都練馬区とスタートしている。地域食材を使ったご当地の料理を開発し外部にアピールしていくという。

日本野菜ソムリエ協会の福井栄治理事長。日商岩井時代に有機野菜を扱うビジネスを手掛け、オイシックスを経て協会を立ち上げた

もう一つのアプローチが、青果物ブランディングマイスターだ。地域の農業ビジネスに対するプロデューサーを育成し、地域産品の価値を高めることで地域の農家の収入を2割増やすことを目標に掲げている。現在20名のブランディングマイスターを育成しており、農家を支援し、高収益をあげるスター農家を育成することが最終的な目標だと福井理事長は言う。

既に岡山県赤磐市などとのプログラムに着手している。

このほか、地域産品を売るためのマルシェ(市場)を全国30カ所で展開する計画もある。

地域産品の価値を高め、それを消費者の手元まで運ぶいわゆる出口戦略をどう立てるかが地方創生の一つのカギだと注目されている。さまざまな自治体が相乗りする今回の日本野菜ソムリエ協会の動きは、農業の分野で知識と組織力を持ったまとまった勢力になる可能性があるといえそうだ。

渡辺和博(わたなべ・かずひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。86年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や特産品開発の講演やコンサルを実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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