熟成肉の仕掛け人が挑む 「牡蠣肉」とは?
格之進の高級業態「KABCO」
近ごろメキシコ料理店などで、ステーキとロブスターを盛り合わせた「サーフ&ターフ(Surf & Turf)」という料理をよく目にする。サーフ(波)とターフ(大地)、つまり海の幸と肉を意味し、米国ではオーソドックスなメニューらしい。それが最近新たにアレンジされ、再流行する兆しがあるようなのだ。
そんななか、"和風サーフ&ターフ"ともいうべき「牡蠣肉」を看板メニューにする店「KABCO」が2016年10月27日、六本木にオープンした。しかも、肉料理の人気店が集まるイベント「肉フェス」で2014年から15年の2年間で4回連続総合優勝を果たした「格之進」グループの新業態だという。
「長年にわたって肉の魅力を研究し続け、さまざまな食べ方を提唱し続けてきたが、『牡蠣肉』はその究極の形。肉のこんな味わい方は誰も経験したことがないはず」(同グループを運営する「門崎」の千葉祐士社長)。同社ではこの牡蠣肉を本格的に展開していくため、登録商標として申請中だという。いったい牡蠣肉とはどんな料理で、何がすごいのか。オープン直前の内覧会でいち早く検証した。
名前の通り、カキに肉がのってるだけ?
店舗があるのは、六本木一丁目駅から徒歩2分の六本木グランドプラザ。日本IBM本社ビル、六本木プリンスホテル跡地などを中心に再開発が進められてきたビル群の中の商業棟だ。できたばかりでまだがらんとしている地下通路を通り、エレベーターで3階に上がると、何もないただの屋上。と思いきや、植樹の間に小さな建物が見える。それが店舗のようだ。まさに"都会の隠れ家"。
席に座って千葉社長の解説を聞きながら、「牡蠣肉」との対面を待つ。いったいどんな斬新な食べ方なのかとワクワク期待して待っていると、テーブルに置かれた「牡蠣肉」はただ生ガキの上にローストビーフがのっただけのもの。あまりのシンプルさに一瞬「カキと肉、そのままか!」と心で突っ込んでしまった。
しかし、カキとローストビーフを一緒に口に入れた瞬間、驚いた。肉は非常に軟らかく、絹のような舌ざわり。身が締まった肉厚のカキとほぼ同じ軟らかさで、異なる食感が口の中で一体となって融合する感じ。かみしめると、今まで味わったことのないうまみが広がった。たったひと口ぶんなのにうまみが口の中で一気に広がり、飲み込むのが惜しいほどだった。
聞けば、同店では肉を焼くために、千葉社長がピザ窯の専門店と共同開発した特殊な窯を使用しているとのこと。食材に直火が当たる一般的なピザ窯は中の温度が500℃以上にもなるが、この窯だと直接炎が当たらず、肉の水分を逃がさない温度で焼くことができるという。そのため、カキと同じくらい軟らかくてジューシーな焼き上がりになるのだそうだ。
カキと牛肉の組み合わせは"カキ開け師"との出会いがきっかけ
故郷の岩手県一関市と東京に8店舗の焼き肉専門店「格之進」を展開している千葉社長が「牡蠣肉」を考案したきっかけは、あるイベントでの"カキ開け師"との出会いだったという。
「『カキと肉は相性がとても良い』といわれたが、最初は半信半疑だった。だが日本オイスター協会の人から『カキは毎日ドラム缶2杯分の海水を吸って吐き、そのミネラル分を体内に蓄積している』という話を聞き、牛肉との共通点に思い当たった。牛肉は牧草を通して大地に含まれるミネラルを取り込み、体内でたんぱく質を作り出す。つまり大地のミネラルの結晶が牛肉。となれば、カキと牛肉のコラボレーションが新たな味わいを生み出すのではと考えた」(千葉社長)
またカキは強力な消化酵素を持っている。だから欧米ではステーキレストランの前菜には必ずカキ料理が出て、それを食べてから肉を大量に食べるのが通例と聞き、ニューヨークに視察旅行に行った時の体験がよみがえった。「毎日肉料理を食べて胃袋が悲鳴を上げていたのですが、前菜でカキを食べたときだけなぜかお腹の調子が良く、不思議に思っていた」(同)。消化酵素の働きで牛肉の脂っぽさが解消され、いつもより多くの肉を無理なく食べられることも大きな利点だという。
「格之進でも常識を打ち破る肉の味わい方を提唱してきたが、この店ではさらに肉の新たな可能性の表現にチャレンジしていきたい」(同)そうだ。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2016年11月7日付の記事を再構成]
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