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厳選日本酒3蔵元巡り 料理と土地を味わう 芝浦工業大学特任教授 古川修

2016/11/7

■能登の海の幸と相性抜群――「宗玄」(宗玄酒造・石川県珠洲市)

歴史ある建屋と近代的な蔵が共存する宗玄酒造(同社提供)

2011年、「能登の里山里海」が「トキと共生する佐渡の里山」とともにに、日本で初めて世界農業遺産に選定された。その能登半島の最先端に位置するのが珠洲市で、能登空港が玄関口となる。空港からは「ふるさとタクシー」という予約制の乗り合いタクシーを利用するとよい。珠洲市内の希望の行き先まで運んでくれる。珠洲市の市街地から数キロ離れたところに軍艦島の愛称で親しまれている見附島があるが、その近くの海岸沿いにたたずむのが宗玄酒造だ。

日本海で獲れる魚介類は、身が締まっていてとてもうまい。そのため、能登の地酒は魚介類に合うものが多い。なかでも「宗玄」は、宗玄酒造の前杜氏、坂口幸夫さんが酒造り以外の時期は漁に精を出す漁業者ゆえ、魚介類との相性は抜群である。

「宗玄」は「開運」と香味が似ているうえ、「開運」よりもさらに深く複雑にした味わいがある。それもそのはず、土井酒造場の名杜氏だった波瀬正吉さんの一番弟子として酒造りを学んだのが坂口さん。1997年に宗玄酒造に杜氏として入り、土井酒造場の酒造りに自分なりの工夫を加えて、独自の深い味わいを出すつくりを確立したのだから。

宗玄酒造の前杜氏、坂口幸夫さん(同社提供)

坂口さんは、波瀬正吉(開運)、中三郎(天狗舞)、農口尚彦(菊姫)、三盃幸一(満寿泉)の能登杜氏四天王の全盛期から、能登杜氏自醸清酒品評会でたびたび優勝を果たした。この卓越した日本酒製造技術と酒造りの情熱によって醸し出される「宗玄」は至福の味わいを持ち、全国の日本酒好きを魅了している。昨年公開されたドキュメンタリー映画「一献の系譜」では、坂口さんを中心に能登杜氏の酒造りが紹介されていて、宗玄ファンはもちろんのこと、日本酒好きには必見である。坂口さんは昨年、杜氏を息子に譲ったが、「宗玄」の酒造りの指導役としては、まだまだ健在だ。

宗玄酒造は、古い歴史を感じさせる建屋である明和蔵と近代的なビルである平成蔵に分かれていて、平成蔵は1998年、坂口さんに設計仕様を任せて新設したものだ。4階建ての蔵は最上階に蒸し米機と放冷機が設置されて、酒造りの最初の工程が行われ、以降下の階にだんだん酒造りが移動していくように酒造設備が配置され、1階が保冷貯蔵庫となっている。明和蔵の玄関を入ると、「宗玄」の各銘柄や能登の特産品を販売するショップがある。宗玄酒造でユニークなのは、廃線となった能登線を活用していること。能登線のトンネルは日本酒を熟成するのに使っており、足こぎのトロッコ列車は観光用に準備しているという。

のと鉄道の能登線のトンネルを利用した日本酒の貯蔵

宗玄酒造を訪問するたびに、坂口さんから必ず利き酒を頼まれる。率直な感想を言い、酒造りについて語り合うのが楽しみだ。私の好きな「宗玄」の無ろ過純米生原酒55%精米には、山田錦と八反錦の2種類の酒米のバージョンがある。以前、できたてのこの両方の日本酒を試飲しながら意見を交換したことがあった。八反錦はキレがよく刺し身に合う。山田錦は余韻が長く続き魚の煮つけなどに抜群の相性を示す。どちらかというと、山田錦の余韻が酒の格調を高くしていて好みだと坂口さんに感想を述べたところ、坂口さんも同じ考えを示していた。酒を利きながら坂口さんと意見を交わすのは宗玄酒造を訪問する最大の動機の一つである。

「宗玄」の品ぞろえ(同社提供)

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