羽黒山へのスピリチュアルな旅、美食と癒やしの宿水津陽子の ちょっとディ―プ旅

羽黒山山頂の出羽神社に向かう参道を上ると見えてくる「爺杉」と国宝「五重塔」(写真:PIXTA)
羽黒山山頂の出羽神社に向かう参道を上ると見えてくる「爺杉」と国宝「五重塔」(写真:PIXTA)
自分とは異なる世界で生きる人やカルチャーに触れる、ちょっとディープな旅に出てみませんか。日本有数の霊山である出羽三山でのスピリチュアルな時間と、聖なる自然にはぐくまれた美食。ここにしかない癒やしを感じることでしょう。

出羽三山は日本有数の修験の山、現在でも山駆けなど山伏修業が体験できる霊山としても知られています。かつては「西の伊勢参り、東の奥参り」とたたえられた東北の聖地です。

山形県の中央にそびえる標高1984mの月山を主峰とし、峰続きにある1504mの湯殿山、そして414mの羽黒山の総称が出羽三山です。開山は何と6世紀。出羽三山をめぐる「三山詣で」は、過去・現在・未来の三世をめぐって死と再生(よみがえり)を果たす旅といわれています。最近は2~3日かけて三山をめぐる本格的なツアーも人気なのですが、羽黒山山頂の出羽神社には三山の神を合祭した「三神合祭殿」があり、そこに参詣すれば一度に三山詣でができます。

巨木の杉並木に導かれて1時間の参道歩きへ

山頂までは車でも行けますが、羽黒山参詣道の入り口「随神門」から山頂までは約1700m。1時間ほどを歩いてのお参りは、心身が浄化されていくような格別な体験です。

途中には鮮やかな朱の神橋と須賀の滝、樹齢千年の神々しい「爺杉」や平将門創建の国宝「五重塔」が。2446段の石段をゆっくり上れば、樹齢300~500年の大杉が400本以上立ち並ぶ「羽黒山杉並木」(特別天然記念物)が山頂の聖地へと導いてくれます。

羽黒山山頂にある出羽神社の「三神合祭殿」には、三山の神が合祭されている (画像右提供:(公社)山形県観光物産協会)

これはよく知られた鶴岡市側から上るルートですが、実はもう一つ、庄内町側から上るいにしえの参詣道「羽黒古道」があるのです。

「出羽三山奥参り」の表参道口といえば江戸時代までは、鶴岡市の東にある庄内町の立谷沢(たちやざわ)川流域にある清川から羽黒古道へ上がっていく道を指していました。出羽神社の本殿は何度かの移転を経て現在は山頂にありますが、創建の地は羽黒古道の入り口がある蜂子集落の裏山、皇野(すべの)であるといわれています。

出羽三山の開祖、蜂子皇子(はちこのおうじ)は崇峻天皇の皇子で、聖徳太子のいとこにあたります。政争により日本海に追われ、八咫烏(やたがらす)に導かれて皇野にたどり着いたと伝えられています。皇野には羽黒山本社跡や蜂子皇子の墓とされる行者塚など、皇子ゆかりの地や伝説が多く残されています。

いにしえの参詣道「羽黒古道」は全長約3km。地元住民が結成した「羽黒山修験道を守る会」によって復元・整備され、片道約1時間半の道のりです。会ではガイドも行っており、初めてでも安心して歩くことができます。

※入山時期やガイドの予約・問い合わせは「庄内町商工観光課立川地域観光振興係」、電話0234-56-2213

庄内観光協会「Navi庄内町」 http://www.navishonai.jp/

地場食材100%の美食と癒やしの宿

蜂子集落から約10kmのところには、立谷沢川流域の隠れ宿「月の沢温泉 北月山荘」があります。ここは長らく町営のスキー場に付随する山小屋で、月山登山のベースキャンプとして利用されてきましたが、近年は利用者が減少し、一時は閉鎖も噂されていました。再生のきっかけを作ったのが、現在の支配人、兼古哲也さんです。

月の沢温泉 北月山荘。宿泊のほか日帰り入浴も可能(画像提供:北月山荘)

東京で着物や帯など和装の絵付けやデザインの仕事に携わっていた兼古さんは、58歳の時に故郷の庄内町にUターン。庄内町に戻ってからは趣味のカメラを手に立谷沢川流域を歩き、日本の原風景ともいえる美しい自然や文化に触れ、その魅力や可能性に気づく一方で、それが十分生かされていないと感じていました。

立谷沢川は月山のブナの森にはぐくまれた113もの沢水を集める、全国屈指の清流。その清流で育ったイワナや月山筍(がっさんだけ)、ジュンサイなど、この地ならではの食材も豊かです。兼古さんはこうした資源を生かそうと地元農家のおかあさんたちに声をかけて「やまぶどうの会」を設立。北月山荘の活用を町に提案し、「主婦レストランやまぶどう」を2012年にオープンさせました。ランチは一皿110円からというリーズナブルなビュッフェスタイル、メニューは毎朝食材を見てスタッフが相談して決めるため、毎日異なる料理が出されます。

四季折々、旬の地場食材を100%使った料理は評判となり、2年後には北月山荘をリニューアル。それまで、温泉はあっても宿泊施設はなかったのですが、客室が整備されたことでゆっくり滞在して美食と温泉を楽しめるようになりました。

飾り気のない素朴な宿ですが、ここに来ればどんな一流ホテルでも味わえない地域ならではの食が堪能できます。最近の人気は地元産のつくね芋で作るグラタンやコロッケ、スイーツなど。また渓流の王様イワナの塩焼きに加えて、最近始めたヤマメの甘露煮が絶品です。

北月山荘は素泊まり3500円(大人)、夕食と朝食をつけても1万円でおつりがくる低価格ながら、その美食とほっこり幸せ感は全国屈指です。兼古さんや農家のおかあさんの柔和な笑顔と思いやりあふれる接客にも癒やされます。

月の沢温泉 北月山荘 http://kitagassan.navishonai.jp/

写真左:北月山荘の温泉 右:夕食には地元食材を使った料理が並ぶ(画像提供:北月山荘)
深まる秋色。月山の山麓にあり、北月山荘からもほど近い鶴巻池(画像提供:北月山荘)

ぜひ立ち寄りたい「しょうゆの実」の老舗

庄内町の美食でもう一つ、ぜひ立ち寄りたい場所があります。TV番組のご当地調味料ランキングで1位となった「しょうゆの実」を製造販売する「ハナブサ醤油」。1823年創業の老舗は建物も見ごたえがあります。蔵見学ではしょうゆの実を使った料理の作り方を教わることもできます。美しい中庭の奥には、御利益があると噂のコンコン様(お稲荷様)がまつられているので、ぜひお参りを。

ハナブサ醤油 http://www.hanabusa1823.com/  ※蔵見学については事前にお問い合わせください。

1823年創業、老舗「ハナブサ醤油」の外観
写真左:TV番組のご当地調味料ランキングで1位になった「しょうゆの実」はご飯のお供としても大人気。右:中庭の奥には御利益があるといわれる「コンコン様(お稲荷様)」がまつられている
水津陽子(すいづ・ようこ)
 合同会社フォーティR&C代表。経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究などを行う。