親友と金銭感覚が合わなくなりました
作家、石田衣良

学生時代からの親友が、色々な事情でお金持ちになりました。今もよく食事をしたり、遊びに行ったりしますが、金銭感覚は合わなくなってきました。私が高いと思うものを「こんなに安い!」と言うので、たまにムッとします。それ以外のことは昔と変わらず気が合います。金銭感覚の違いを、はっきり伝えた方がよいでしょうか。(埼玉県・60代・女性)
社会の格差がますます広がっていく昨今、あなたのご相談は他にも多くの人が共有するお悩みかもしれません。
昔からの友人は還暦をすぎた今でも気があう。いっしょにいると楽しいのに、ひとつだけずれが生じてしまった。突然、豊かになった友人との金銭感覚の違いにひどく違和感を覚えてしまう。困りましたね。これが気のあわない知人程度なら、もうつきあわなければいいのですが、長年の友だけに迷います。
では、あなたの心のなかでどんな働きがあるのか考えてみましょう。まず前提として、お金もちになった友人への嫉妬がありますよね。かつては同じような経済状況だったのに、自分ではなく友人にだけお金の神さまが微笑んでしまった。その不公平への憤りもある。
しかもお友達は自分の金銭感覚が変わってしまったことに気づいていない。この無神経さは許せない。昔だったら「こんなの手がだせない、誰が買うのかしら」という高級ブランド品などを「こんなに安い!」とひと言で切り捨てる。それではいっしょに買いものをしているあなたの立場がないですよね。
以上のすべてが見当違いで、一方的に悪いのは金持ち風を吹かせだした友人だとしか考えられないようなら、もうつきあいを断つしかないでしょう。でも、自分のなかにある嫉妬をあなたが冷静に認められるようであれば、まだまだだいじょうぶ。
なあにちょっとくらいお金がはいっても、人間の実質なんて変わるものじゃありません。それは少々頭がいいとか、異性にもてるとか、顔の造りがいいなんて、さまざまなプラスの属性といっしょです。細かなことを気にするより、どこがあなたとあうのか、友人のいいところをもう一度数えてみてください。
金銭感覚の違いについては、どこかではっきりと口にしたほうが、ぼくはいいと思います。あなたがずっと我慢するほどの問題でもないですからね。ずばりそのままドライに伝えるのがいいんじゃないかな。
「あなたといるとほんとに楽しい。でもお金の話はあわないから、しないようにしよう。ずっと割り勘で仲よしでいこうね」
これくらいのことをあっさり伝えておしまいにしましょう。だって理屈抜きで気のあう長年にわたる友情関係なんて、めったに得られない宝ものです。たまたまお金がはいったくらいで壊してしまうのは、もったいないじゃないですか。
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[日経プラスワン2016年10月29日付]
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