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テクノロジーや都市、アートの各分野を代表する有識者が集まり、都市とライフスタイルの20年後の未来について議論する国際会議「Innovative City Forum(イノベーティブ・シティ・フォーラム、ICF)2016」(森記念財団ほか主催)が10月19~20日、東京で開かれる。ICFプログラムコミッティーの一人で森美術館(東京・六本木)の館長、南條史生氏に今開催について、また、これからの時代に求められる創造力について話を聞いた。

新時代を担うクリエーティブ産業

森美術館館長 南條史生氏

森美術館館長 南條史生氏

ICFは2013年、六本木ヒルズの10周年記念事業として始まり、今年で4回目の開催となりました。毎回、都市計画、アートやテクノロジーの専門家が議論を繰り広げます。つまり、これからはクリエーティブ産業の時代だ、と私たちは考えているのです。

かつて日本は自動車や家電を大量生産することで国際経済のトップに立ちましたが、その後、アジア勢に抜かれてしまった。今後はこれまで作ってきたものに対し、新しい視点や価値を加えることで創造性を発揮していく必要があるでしょう。

クリエーティブ産業の定義は国によって様々で、デザインやアートだけでなくIT(情報技術)や映画、食文化まで含む見方もある。さらに、例えば自動車製造において、今までと違う視点で車の作り方を提案することもクリエーティブだといえます。これからの日本、特に東京は、この広義のクリエーティブ産業を核に新たなビジネスモデルを創出し、新しい時代のリーダーシップをとるべきだと思うのです。

そのためにも、世界中から専門家を呼び、定期的に議論を重ねて国内外にアイデアを発信する必要がある。ダボス会議のクリエーティブ版「クリエーティブ・ダボス」をめざすべきだ、という思いから、東洋大学教授の竹中平蔵さん、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授の市川宏雄さん、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ所長の伊藤穣一さんと私が企画委員として集まり、各分野から先駆者を招く国際会議ICFが始まりました。

アリストテレスの時代、様々な物事を分類することから学問が始まりましたが、クリエーティビティーとは分断されたジャンルを超越した境界上から生まれるもの。各分野の垣根を越えてアイデアを集めることで多様性や創造性のある議論が生まれると思うのです。

創造力は宇宙へ向かう

昨年開かれた「イノベーティブ・シティ・フォーラム2015」の会場風景

昨年開かれた「イノベーティブ・シティ・フォーラム2015」の会場風景

今回話し合うテーマの一つは宇宙です。今後20年で、私たちの暮らしは加速度的に変わり、同時に、宇宙にも可能性が広がっています。英ヴァージングループが約2600万円で個人向けに宇宙旅行を売り出すなど、今や誰もが宇宙に行ける時代に入りつつあるのです。

人間がいずれ宇宙に住むようになったとき、宇宙法ともいえる新たなルールや文化がどのような形で生まれるか、非常に興味深いところです。すでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)が宇宙空間における文化芸術の研究をしていて、お月見ならぬ「お地球見」の試みもある。現在、森美術館で開いている「宇宙と芸術展」でも、宇宙を題材にした古今東西の芸術作品を集めています。その中から、火星の仮想住居「マーズ・アイス・ハウス」の模型を出品した建築家チームの曽野正之さんらをICFのセッションに迎えます。

無重力の宇宙空間は長くとどまると人間の体形も変えてしまうほどの極限状態。なぜ、そんな過酷な宇宙へ出て行こうとするのかと突き詰めて考えると、「人間が生きる意味とは何か」という哲学的な問いに行き着く。つまり、画家のゴーギャンが残した永遠の問い「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」に対する答えは宇宙にしかないのかもしれないとも思えてくるのです。

今この時を消費する豊かさ

南條氏は「これからは一人ひとりに創造的な生き方が求められる」と説く

南條氏は「これからは一人ひとりに創造的な生き方が求められる」と説く

現在、注目を集める人工知能(AI)も今回のICFの大きな議題です。AIが発達した未来、労働の多くは必要なくなり、最低生活保障(ベーシック・インカム)が導入されることも大いに考えられます。一方、仮想通貨「ビットコイン」やその中核技術「ブロックチェーン」が経済システムを変え、本当の意味で経済がグローバル化していく可能性も予想されます。多くの人は仕事や経済活動から解放された余暇をスポーツや文化に使うはずです。つまり、富の蓄積よりも「今この時をいかにうまく消費するか」が豊かさとなっていくのではないでしょうか。

そうした社会では文化遺産、歴史遺産を保存するだけでなく、新しい視点や技術を取り入れて活用していく必要がある。地域ごとに歴史的な街並みや伝統工芸などが残るアジア各地において、それらを生かすための議論をしていくことが大切だと考え、ICFでは「未来のアジアのライフスタイル」をテーマにセッションを開きます。

かつて現代美術家のヨーゼフ・ボイスが「誰もが芸術家である」と言ったように、働き方や社会構造が変化する中、これからは一人ひとりに創造的な生き方が求められることになるでしょう。もちろん、その実現には多様性を受け入れる社会の基盤づくりが欠かせません。ICFでの様々な議論が、創造性あふれる都市の未来を考える機会になればと思っています。

◇   ◇   ◇

南條史生氏(なんじょう・ふみお) 1949年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部、文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。国際交流基金などを経て2002年から森美術館副館長、06年から現職。ベニス・ビエンナーレ日本館やシンガポール・ビエンナーレなど国際展のディレクターや審査員を歴任。16年6月、仏政府から芸術文化勲章オフィシエ受章。

(編集企画センター 柳下朋子)

「Innovative City Forum 2016」
 10月19~20日、虎ノ門ヒルズフォーラム http://icf.academyhills.com

 日経ビジネススクールはICF2016の関連企画「TOKYOが担うべき多様性、もたらすべき革新~常識を突破する挑戦者たちと考える」(10月20日、虎ノ門ヒルズフォーラム)を開催します。参加申し込みは日経ビジネススクールのウェブサイト(http://school.nikkei.co.jp)で受け付けています。

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