「いいオンナ」とは、あえてポリシーを持たない人紫原明子さんインタビュー(後編)

日経DUAL

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ネットで育った新しい世代の書き手として、「セックスレス」や「ママ友問題」、さらには「お母さんの恋愛」といったテーマに切り込み、多くのウェブ媒体で活躍するエッセイストの紫原明子さん。14歳の息子と10歳の娘を育てるシングルマザーでもあります。そんな紫原さんに、日経DUALの羽生編集長が「離婚」「夫婦関係」「恋愛」などのテーマでインタビューをしました。前編に引き続き今回は「夫婦関係」や「シングルマザーの恋愛」について伺います。

夫婦円満の秘訣は“プロ主婦”に学べ

――紫原さんは女性的な視点に加え、男性目線、例えば、男性から見た“女の価値”みたいなところを的確に捉えていらっしゃいます。なかでも、夫婦関係をいつまでもみずみずしく保つためには、「大丈夫?」や「すごいね!」といった簡単な言葉こそ男性にかけてあげるべき、というのに目からウロコが落ちました。

確かに、私自身も朝「いってきます」と一旦社会に出れば、「大丈夫?」とか「絶対、できるよ!」とか相手が男性であれ女性であれ、一日に幾度となく言っていますが、家に帰って夫に対しては言ったことが一度もない。思わず「あぶない!」と身震いしました(笑)。

紫原明子(しはら・あきこ)『cakes』『SOLO』など多くのウェブ媒体に人気連載を持つ。6月には初の著書となる『家族無計画』(朝日出版社)、8月には『りこんのこども』(マガジンハウス)を出版(写真:鈴木芳果)

いわゆる“プロ主婦”のママ友から学びました。“プロ彼女”()から専業主婦になる感じの方達ですよね。旦那さまが昼も夜も強くいられるための環境を整える努力を惜しまない女性です。彼女達はきちんとプライドを持ってやっている、まさにプロ。例えば、お茶をしているときに旦那さまから電話がかかってきて「いまから帰るんだけど、何か(食べ物)ある?」と言われたら「いまからすぐ作るね」って。私が「何、作るの?」って聞いたら、「イタリア米買ってあるから、リゾット作る」と。旦那さまの好物なんだとか。旦那さまが優先順位の一番で、彼にもそれを感じてもらえるような振る舞いをすることに徹している。尊敬します。

そんな“プロ主婦”のママ友が旦那さまとの電話でよく口にしていたのが「大丈夫?」だったんです。「今日、ごはんいる? いらないの? 大丈夫? 心配だもの、だってあなたの奥さんだから」って…! 一瞬、理解できなかったんですけど(笑)、男性って私達が考える以上にピュアで、キャバクラのような場でもそうですけど、過剰なサービスやもてなしも意外とすんなり受け入れられる。というより、求めているのかもしれないと。家がキャバクラである必要はないですが、たまにはそれくらい甘やかしてもいいのかも。

これはあくまで奥さんが専業主婦の場合の例なので、共働きの夫婦であれば、自分が相手に言ってほしいことをまずは言ってみるとかでしょうか。それがもし一方通行なら、「私も言ってほしいんだけど」と言えばいいかもしれません。

――(夫婦関係が)あぶない夫婦の見分け方ってありますか?

ぜんぜん分からないですね。私自身が離婚したことを知られたくないと思っていたほど幸せそうだった人達から、「私も離婚を考えてるの」と言われたこともあるくらい。奥さんはきれいだし、旦那さまも高所得なうえイケメンだし(笑)、絵に描いたような幸せな夫婦だと思っていたので、本当に分からないです。実際はどうであれ、みんな幸せそうに見せますから。

でも、それがまた女性を苦しめますよね。不幸なときに不幸に見られたくない、というのは女性の強さの源でもあると思いますが、同時に大きな負担でもあります。化粧できないほど落ち込んでいる時だってあるじゃないですか。女性同士で見栄を張り合うのではなく、苦しいときは苦しいと口に出して、助け合っていける世の中であってほしいと思います。

(写真:鈴木芳果)

シングルマザーの恋愛にはマネジメント目線がマスト

――紫原さんの著書(『家族無計画』)のなかでは“お母さんの恋愛”についても触れられています。

そうですね。シングルマザーはシングルなんだから、本来、自由に恋愛していいんです。ただ、相手が生活に溶け込める人かどうか、見極める必要はありますよね。それまでは別に子どもに紹介しなくてもいい。私は子どもに全部見せる必要はないと思っていて、知る必要のないことは知らないままでいいし、そういう恋愛の仕方があってもいいと思っています。再婚するにしても、最初に彼氏としてではなく友達の一人として紹介して、時間をかけて家族になじんでいってもらうというように。何事も子どもにとってソフトランディングになるように配慮しています。

私自身は恋愛ってエネルギー源でもあるけど、タスクでもあるなぁと思っていて。仕事と子どもと2本の柱でもいっぱいいっぱいなのに、プラス恋愛って…。結局、削れるのって睡眠時間くらいだから、体力いりますよね(笑)。時間とか体力を節約するために、子どもと彼氏を会わせる、つまり、子どもと彼を同時進行しがちなんですが、そこは丁寧にやらないと、2つのプロジェクトを合併させるのと一緒ですからね。強引にトップダウンでやってしまうと、必ず下でもめるじゃないですか。マネジメント目線が必要ですよね。

――執筆活動をはじめ、今は本当にお忙しくされていると思いますが、紫原さんがお仕事を始められたのは31歳のときです。同じように30歳を過ぎて、本格的に働き始めようとしているママにアドバイスはありますか。

時間に猶予があって、すぐにお金を稼がなくてもよい場合は、まずはNPOサークルやボランティア団体など、ママ友以外のコミュニティーに所属してみることでしょうか。実はママ友コミュニティーで培われる協調性や共感能力、会話を盛り上げるスキルはすごく特殊で、ママ友コミュニティー以外でもとても役立つんです。こうした力を別の場所で発揮すれば、あなただけの役割ができる。

組織のなかで認められて少し自信がついたら、次は小さな会社で働いてみるのもいいかもしれません。想像力が必要とされる小さな会社で、いろんなことを経験してみる。そこで広報を担当すれば広報経験者、営業を担当すれば営業経験者ですからね。経験者の肩書きが手に入る、キャリアが積めるのは大きいですよね。ママジョブ界では40歳を過ぎるとコンビニか居酒屋のスタッフしか求人がなくなるというのが定説。正攻法でいくとそうなってしまうので、年齢と関係なく能力で評価されるひとつの方法です。

あと、個人的にはPTAもやってよかったと思っています。ある意味、組織ですからね。私生活が大変なときに(笑)、会計を2年間やったんですが、Excelも使えるようになって、人とのつながりも増えました。どんなつながりでも仕事を生むこともあります。働いていること、ネットワークを持っていることが、いざというときに自立を後押ししてくれると思います。

――著書にも登場する「自立とは依存先を増やすこと」という言葉がとても印象的でした。

脳性まひの障害を持ちながら小児科医として勤務される熊谷晋一郎さんの言葉ですね。私はもともと人に頼るのが下手だったんですけど、仕事をするようになって分かったのは、自分が頼るから相手も頼れるようになるということ。どちらが先に行動を起こすかなんだなぁと。周りに頼っていいよと言うよりも、自分が先に相手に頼って「貸し」をつくってあげることが大切だと気付きました。

家族がろくに感謝してくれないなかで(笑)、お金がもらえるだけの仕事をしているとか、自分の存在がなんらかの形で社会に影響を及ぼしていると思えることは、健全な精神の形成に大きく作用します。そういう意味でも自立はいいことですよね。

(写真:鈴木芳果)

―― 紫原さんは33歳とお若いですが、色々なご経験をされているので、離婚についてなど人から相談を持ちかけられることも多いのでは。

そうですね。ただ離婚は本当にケースバイケースだし、お金の問題もまたケースバイケースなので、こうしたほうがいいよという正解はないですよね。結婚は新しい生活をスタートさせたり、プラスにしていく作業ですが、離婚はそぎ落としていくうえに、そのそぎ落とし方が千差万別なので、そこをどういうふうに描くか想像力が問われます。だから、体力を使うし、疲れるんですね。

だからって、離婚=してはいけないもの、ではなくて、自分が楽に生きる方法の1つだと思えばいい。私は離婚で、24時間管理人さんが常駐しクリーニングやケータリングを手配してくれるようなちょっと贅沢なマンションから、広さが3分の1の築40年を超える古いマンションに引っ越しました。でもそこは壁の色はもちろん、好きなように改装でき、現状復帰の義務もないDIY物件。自分の手で自分好みに仕上げた家で好きなように暮らすなんて、想像するだけで楽しい。生活スタイルが変わっても、そうやって新しい価値を見つけられたら、それは幸せですよね。転ばぬ先の杖と言うけれど、転んだ所にも世界は広がっている。

自分と違う生き方が面白いと思える人がいい

――学校を卒業して就職して、月曜から金曜までやらなきゃいけない仕事があって、20代のうちに婚活、できれば妊活もして出産して、再びキャリアアップを目指して…と、多くの女性がしがらみだらけの道を歩むなか、紫原さんは若いうちに人生の大波を経験されたものの、これまでの道のりはしがらみとは無縁です。

みんなよりも早く主婦をやっていたにもかかわらず、一人暮らしの20代の女の子ができるようなことが意外とできなかったり…。自分でもダメだなぁと思うこともありますが、ただ自分が好きなことだけをやってきたし、結婚出産が早かった分、家族を支える大人として、責任を持たざるを得ない人生を歩いてきました。自分が好きで結婚してこうなったし、不本意で今ここにいるという気持ちは全くないので、それは幸せなことだと思っています。

婚活や妊活に急き立てられたり、将来幸せになるためにいま何かガマンしたりすることって、果たして本当に幸せなのか。将来の自分のためだけではなく、バランスよく、いまの自分も幸せにしてあげないとなぁと思います。

――これから先、余生は長いし、結婚は何度でもしたほうがいいかも、とおっしゃる紫原さんですが、理想の男性像を教えてください。

理想の男性像というより、魅力的だなぁと思うのは、生命力の強い人。結果的に好きになる人は、バランスの悪い人だったりしますが(笑)。

――最後に、紫原さんが考える「いいオンナ」の定義って?

ポリシーを持たない、多様性を認められる女性ですかね。自分と違う生き方が面白いと思える人。結婚していないよりしているほうが上とか、自分の親がしてくれたように自分の子どもにもしなければならないというような、女性が長い間とらわれてきた観念に縛られることが無意味だと知っている人、ですね。

“プロ彼女”…芸能人と交際する一般女性で、容姿端麗で料理をはじめ家事もこなし、男性が気持ちよく過ごせるよう努力する「プロのような女性」のこと。

(ライター 毛谷村真木)

[日経DUAL 2016年9月16日付記事を再構成]