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無数の紙灯籠が舞い上がる 古都チェンマイの祭り

2016/10/3

(c)akiko tsunoda

 宙を舞う紙灯籠が織り成す、一夜限りの「天の川」――。数ある世界の祭りの中でも指折りの幻想的なシーンが体験できるとされるのが、タイの古都チェンマイでの「ローイクラトン」だ。陰暦12月の満月にタイ各地で催されるローイクラトンは、チェンマイでは「イーペン祭」とも言われ、満月の夜に紙製の灯籠(コムローイ)が何千と舞い上がる場面で知られる。ロウソクの火をはらんで無数のコムローイが空に躍る神秘的なシーンはディズニー映画『塔の上のラプンツェル』の名場面のモデルになったとされる。この祭りをたずねてタイの古都チェンマイを訪れた写真家の角田明子(つのだ・あきこ)さんに祭りの感想とチェンマイの魅力を教えてもらった。

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 祭りにはその土地らしさや文化的背景が凝縮されています。だから、「祭りを見に行く旅」は現地を深く知るうえでおすすめです。もちろん、多くの祭りはスペクタクルだったり、にぎやかだったりと、観光的な楽しみも多いので、退屈することがまずありません。ローイクラトンはあの紙灯籠が空に舞い上がる場面で有名ですが、実際には仏教国タイらしい宗教的な意味合いが強くあります。「祭り=観光的イベント」という先入観に惑わされず、現地に向かえば、タイの風土を深く知るきっかけになります。

■半日かけタイ文化に浸る

 私が訪れたチェンマイの場合、コムローイを上げる会場ではお昼頃から祭りが始まっています。昼から夕方にかけては会場内にあるタイ伝統料理のフリーフードやドリンクを味わいながら、タイの伝統舞踊や民族衣装を紹介するブースを見て回れます。夕方からはピラミッド状に組まれた台座のような場所に大勢のお坊さんが集まってお経を唱えていて、タイの宗教的ムードを感じ取れます。私はこのチャンスに屋外での瞑想を試しました。高僧たちが集まる場でのメディテーションは特別な時間となりました。

 数時間がたって満月が輝き出す時刻になると、いよいよコムローイの出番です。ただ、この紙灯籠自体にも一般的には誤解があるようです。と言うのは、多くの人はたくさんのコムローイが空を埋め尽くすような、割と引いた構図の映像で見知っているせいか、あの紙灯籠それぞれのサイズがそんなに大きくないと思い込んでいる人が少なくないようです。でも、実際には大人が1人では抱えきれないほどの胴回りがあります。大抵は2、3人がかりで持ち上げて、空に放つのです。そんなサイズの紙灯籠が数千も一斉に舞い上がるからこそ、ダイナミックな眺めが生まれるわけです。

(c)akiko tsunoda

■幻想シーンの意外な「現場」

 だから、あの幻想的なシーンは、間近で見ると、かなり印象が違います。幻想的なだけではなく、迫力があり、しかも、ちょっと危ない。つまり、大きな紙灯籠が炎を内に宿して自分の居場所の周りのあちこちから放たれるわけです。中には手違いなのか、本来は真上に上げるはずのコムローイが斜め方向に上がってしまい、こちら目がけて飛んでくるといったサプライズも起こります。これは結構、怖いですから、油断は禁物です。炎を内に宿した紙灯籠は熱気球の原理で自然に浮き上がります。

 空へ放つ瞬間には掛け声のような合図があり、みんなが一斉にコムローイを放ちます。でも、実際には合図より早く上げてしまう人もいて、こういうちょっとゆるいところもタイらしい感じです。この場面はほぼ半日を要するイベント当日のフィナーレを飾る儀式です。時間で言えば、数分間程度の短いものですが、そこに至るプロセスまで含めて全体で祭りを構成しています。お坊さんのお経を遠くで聞きながら、瞑想にふけったり、青空を見上げたりするのも祭りにふさわしい参加の態度と言えるでしょう。せっかちに最後の5分間だけではしゃぐのではなく、時間をたっぷり使って祭り全体を楽しむようにしたいものです。

 紙灯籠を空に送り出す瞬間、下から見上げていると、夜空に吸い込まれていくような気分になります。無数の灯籠が揺らめきながらのぼっていく様に、自然と見入ってしまいます。写真は主に見上げるアングルから撮っていたのですが、静止画である写真ではあの情景を表現しきれていない気がします。動きのあるシーンだけに、一緒に撮った短い動画のほうが雰囲気を伝えているところもあるようです。

(c)akiko tsunoda

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