売れる高額ドライヤー 口コミとリアル体験が追い風
1万円を超える高額なヘアドライヤーの売れ行きが好調だ。
「従来のヘアドライヤーは3000円未満のただ髪を乾かすだけの商品が過半を占めていた。しかしここ数年、1万円を超すような高付加価値商品が登場し、人気を集めている。髪の毛や頭皮のケアができるなど、プラスアルファの価値訴求が消費者に響いているようだ。2015年度には、販売数の20%を占めるようになっている」とGfK Japanのアナリスト、高柳由香氏は言う。
家電量販店でも高価格帯のヘアドライヤーが伸長しているという実感があるという。ビックカメラの広報担当に聞くと「店頭でも、確かに1万円を超える高額なヘアドライヤーに注目が集まっている。特にパナソニックのEH-CNA97は人気がある」。
EH-CNA97は「EH-NA97」の量販店専用モデルで、違いは型番のみ。実売価格は1万円台後半だった(9月1日に新モデル「EH-NA98」が発売された)。
なぜ高価格なドライヤーが支持されるのだろう。パナソニックの担当者に話を聞いた。
高額であってもニーズに応えれば支持は得られる
EH-CNA97は、風量・風圧・風温といったヘアードライヤー本来の「乾かし性能」が高い上、乾かしながらキューティクルの密着性を高める機能を持つことをうたう。ぬれた髪を早く乾かし、同時にヘアケアも行えるというのだ。
この特徴が「ブラッシングの摩擦ダメージを抑えたい」「紫外線からの影響を低減したい」という女性のヘアケアニーズに合致し、購買意欲を刺激した。「購入するのは7割が女性。特に20代から40代の忙しい女性を中心に売り上げが伸びている」(スモールアプライアンス商品部ビューティ・ヘルスケア商品課ビューティ商品担当課長・久保清英氏)
9月1日に発売された新モデルEH-NA98はこれらの機能をさらに強化。前機種と比較して、水分を多く含むマイナスイオンの発生量を約20%アップ。「事前の調査では、"しっとり感"や"まとまり""指通り"といった評価が高くなった」という。
同社は、微粒子イオン「ナノイー」を使った美容家電「ナノケア」ブランドを展開している。ヘアドライヤーもその一ラインアップとして開発され、2005年に初めて市場に投入された。以来、機能の追加・強化を繰り返しながら新モデルをリリースし続けている。
「高額商品であっても、女性の美に対するニーズに応えることができれば支持は得られると考えた。狙い通り、発売当初から出荷台数は毎年40万台前後で推移した。出荷台数70万台超に急伸したのが2010年。それ以降も順調に推移している」。
「ネットのクチコミ」と「リアルな体験」
出荷台数が伸長したきっかけはクチコミだ。大手コスメサイトで話題になり、2009年に美容部門で受賞。その後もクチコミが広がっており、2015年には同部門で殿堂入りを果たした。
「ユーザーに聞くと"つやがでる""サラサラに仕上がる""しっとりとする""まとまる""指通りがいい"という評価が多い」(スモールアプライアンス商品部ビューティ・ヘルスケア商品課主務・小谷香織氏)
これらのクチコミが新規顧客獲得の呼び水となり、新たなクチコミを生む循環ができた。
このクチコミを後押ししたのがリアルな体験だ。小谷氏によれば「店頭で少し風を当ててみるだけでもその効果を体感できる」という。「この"髪質改善"効果の高さが認められ、購買に結びついているのではないか」と分析する。
その効果を多くの人に体験してもらうために、同社が用いたのが店頭以外にも体験できる場をつくることだ。パナソニックの美容家電を使ったセルフエステ&パウダールーム「クリュスタ」を活用するだけでなく、旅行会社やホテルとタイアップして、美容家電付き客室に泊まるプランなどを用意した。
「販売店店頭などパブリックな場所では試しにくい美容家電も、クローズドなスペースであればじっくりと試すことができる」(小谷氏)
「たとえコモディティー化されたカテゴリーであっても、ユーザーニーズに応え、ユーザーが効果を実感できる訴求をすれば、高価格モデルでも売れるという手応えを感じた」(久保氏)
他ジャンルでも上位モデルへの買い替え傾向が
サイクロン掃除機で掃除機市場を変えたダイソンも、美容家電市場に打って出た。
同社が4月に発売したのは、羽のないヘアドライヤー「Dyson Supersonic」。ダイソンの公式ストアで4万8600円(税込み)と、強気の価格で勝負に出る。
GfK Japan・アナリストの高柳氏は、「ここ最近の家電製品に全般的に言えることだが、購入時にはやや良いものが選ばれる傾向がある。実際、プラスアルファの価値訴求が相次いだ扇風機などのカテゴリーでは、上位モデルへの買い替えが促進されている。ヘアドライヤーについては3000円未満のモデルが4割強を占めているが、ステップアップ訴求が期待できる。ダイソンなどのメーカー参入も追い風になり、高価格帯の拡大基調は続くと見込まれる」
(文 秋葉けんた/写真 大橋宏明)
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