基幹社員の休業、代替要員どう確保業務カバー全社挙げて 枠広げ人材育成に弾み

休業者が出た拠点に横浜から異動した佐々木きらさん(右)と今津啓司支社長(東京海上日動火災保険)
休業者が出た拠点に横浜から異動した佐々木きらさん(右)と今津啓司支社長(東京海上日動火災保険)
育児や介護で休業する総合職の基幹社員は、仕事を分担する同僚に負い目を感じることが少なくない。管理職も代替要員の確保に四苦八苦で、こうした負の連鎖が休業取得を妨げてきた。しかし、代替要員確保に全社的ルールを定め、個々の職場に負担が集中しないよう組織対応を徹底している企業もある。休業者が出ることを、むしろ職場全体の人材育成につなげる好機にしている。

「部内で調整してくれ」。ある製造業で中堅の男性基幹社員が半年の育児休業を申請した時、上層部から上司のA部長に下りてきたのは、そんな言葉だった。

部外からの人繰りがつかず、上層部と男性部下との板挟みになったA部長は、「休業期間の短縮交渉」をする羽目に。結局3カ月に圧縮したが、上層部に「もっと指導しなければ」と嫌みを言われ、男性社員との間にもわだかまりが残った……。

基幹社員の休業入りを妨げる最大の要因は代替要員を確保する難しさだ。東京都が昨年9月、男性社員が育児介護休業などワークライフバランスを重視する上での課題を聞いたところ、従業員の48.2%、事業所の64.7%が「代替要員不足」と答え、2位を引き離してトップだった。

解決策は何か。まずA部長が直面したように、代替要員確保を部内で進めようとするなど対応策の矮小(わいしょう)化をやめることだ。トヨタファイナンスと東京海上日動火災保険はその好例で、対応する部局範囲を大きく広げ、代替ルールを明確化している。

「グループの垣根を払えば3人育休入りしても吸収できる」と話す亀田由樹さん(右)と水沢賢治さん(東京都江東区のトヨタファイナンス)

トヨタファイナンスは2011年、休業発生時の「要員体制の基本的な考え方」を全社に示した。内容は(1)正社員での補充は原則しない(2)グループ・部・部門と範囲を広げて人員調整し、それで無理なら派遣社員を補充する、というシンプルなもの。以来5年、会社の意思は現場に浸透し、出産退職が非常に多かった社内の雰囲気は一変した。

与信を扱うクレジットセンター東京室のグループマネージャー、水沢賢治さんは「東京室には3グループ70人が所属し、半数強が基幹社員。現在は女性3人が育児休業中」と話す。最近では男性も2人休業を取った。「人材のやりくりの分母は単独グループではなく常に70人。70人なら欠員を吸収できる」という。

時間ではなく仕事の質を評価する考えが広がったことも雰囲気を変えた。育児休業経験者で主任の亀田由樹さん(34)は「東日本大震災の緊急対応をやり遂げた経験から、仕事手順の工夫で人数や時間不足に対応できると気付いた」と話す。

一方、東京海上日動火災保険には「短期ジョブリクエスト制度」(通称・お役に立ちたい)という、エリア総合職が対象の1年間の遠隔転勤制がある。これを基幹社員の代替要員の確保に役立てている。もともとは、全国約650カ所に散らばる拠点で、退職者補充などが難しい場合のための制度だった。

イントラネットに、欠員のある拠点名と応募に必要な職能、地域紹介を流し、全国のエリア総合職から希望を募り、定期異動に反映する。現在は21拠点の情報が流れていて、12年のスタート以来62人が一時異動した。15年から60歳以上が対象の「シニアお役に立ちたい」も始め、2人が異動中という。

岩手エリアでの育児休業発生に対応し、横浜中央支店から岩手県北上市の岩手南支社に副主任として赴任中の佐々木きらさん(29)は「慣れた環境をリセットし成長したいと思い応募した。被災地の大船渡市を担当し、代理店が天災対応特約をもっと勧めていればと悔やんでいるのを見て、学ぶことの多さを感じる」と話す。佐々木さんは希望して赴任を1年延ばした。

この2社は休業者の代替が、周囲の人材開発のチャンスになると考えている。

東京海上日動岩手南支社長の今津啓司さんは、「海外PL保険など、横浜では普通でも岩手になじみが薄いノウハウが、彼女の異動で持ち込まれた」と話し、外部からの刺激を好感している。トヨタファイナンスのクレジットカード部門のグループマネージャー、山田和哉さんは、エリア総合職が育児休業入りした時、休業者の仕事をエリア総合職への転換を控えた河野有沙さん(24)に振り、仕事の枠を広げさせた。

育児・介護休業を巡っては、休む人と残る人の感情的対立や、取得条件・取得期間の長短ばかりが問題視され、全社的な人事管理をどうするかという問題の本質的な解決は先送りされてきた。これでは休業の取得促進という法の狙いがゆるぎかねない。この2社の対応は、労働生産性の向上や人材育成と、社会的な要請である少子化対策を両立させており、同様の課題に悩む多くの社員と企業の参考になる。

(礒哲司)

[日本経済新聞夕刊2016年9月21日付]

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