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経営層・管理職クラスのビジネスパーソンであっても、転職に臨む際、ご自身で最初に作成したレジュメ(職務経歴書)では強みがまったく伝わらない、というのはよくあること。特に、「やったこと」だけが並べられており、「成果」が不明瞭なことは多いものです。自身の成果をどう伝えるか? ――実際にエグゼクティブの転職支援を手がけているコンサルタント、中村一正さん、渡部洋子さん、山室広幸さんの声も交えてお話しします。

「このプロジェクトを手がけました」だけでは通じない

「これまでの在籍企業では、○○や△△のプロジェクトを手がけました」

キャリアコンサルタントとの最初の面談において、ご自身の実績を語る際、手がけたプロジェクトの概要だけを話して終わる人は少なくありません。それが世間にも広く知られた商品やサービスなどである場合、ご本人はことさら自信満々に「あれは私がやりました」と語ります。しかし、その実績についてキャリアコンサルタントが深くお聞きすると、歯切れが悪くなってしまう方もいらっしゃいます。

「私たちコンサルタントは、その方のお仕事ぶりを具体的にイメージできるように、細かなプロセスをお聞きします。例えば、『最初は何人のメンバーからスタートされたのですか』『そういう会議は本社の会議室で行うのですか』『提携先はどのように選んだのですか』『社内調整や取引先との交渉で苦労したことは』といったように。そうした質疑応答を重ねるうちに、『実務は部下たちがやったんだな』『プロジェクトを回していたのは上司で、この方は事務手続きを担当していたんだな』といったことがわかってきます。当然ながら、採用側の企業も同じようなことを突っ込んで聞きますので、『このプロジェクトを手がけました』だけのアピールでは評価されにくいといえます」(中村一正さん)

携わったプロジェクトでの実績をアピールするのであれば、「その中で自分はどんな役割を担ったのか」「自分の職責において、具体的にどんな成果を上げたのか」まで伝えないと、採用側は納得しないというわけです。今後、転職を視野に入れている方は、担当してきたプロジェクトにおいて、これらの点を明確に整理しておくことをお勧めします。

日本人の美徳「謙遜」でチャンスを逃す人も

一方、渡部洋子さんが目の当たりにした転職希望者の事例をご紹介しましょう。

Aさんは、国内大手企業の経営企画部門に在籍し、ある会社に対するM&A(合併・買収)からその後の統合までのプロジェクトを手がけた方でした。Aさんは某企業に応募し、採用面接に臨みました。面接担当者がM&Aおよび統合業務の経験について「それは大変だったでしょうね。Aさんは具体的にどんなことをされたのですか」と尋ねたとき、Aさんはこう答えたのです。

「いやいや、部下たちが大変優秀でして。おかげさまで、皆さんに助けられて何とかやり遂げることができました」

Aさんはご自身の役割や行動を語ることなく、結局、採用を見送られてしまいました。日本の大規模組織においては、「チームワーク」を重んじ、「自分が自分が」でなく「みんなで力を合わせて」を価値とする風土が根付いている企業も多くあります。Aさんはその価値観にもとづいて、自分個人をアピールすべき場面でも「謙遜」の姿勢を見せたせいで、チャンスを逃してしまったのです。

「多くの人が関わるプロジェクトは、組織の総合力によって目標達成に導かれていることも現実的にあります。しかし、その人の力があってこそ前進したこと、突破できたこともあるはず。Aさんの場合であれば、M&A先の企業のどんなメンバーと、どのようなプロセスを踏んで関係を築いていったかを語ることで、Aさんならではの強みを伝えることができたでしょう。経験したことを振り返り、自身の能力を客観視すること、それを言語化しておくことはとても大切です」(渡部さん)

相手企業が確かめたいのは「成果の再現性」

自身の仕事の成果を具体化して第三者に伝えることは、外資系企業を経験した人は慣れていらっしゃいます。昇格にあたって「コンピテンシー・インタビュー(適性面接)」が行われ、これまで取り組んだこと、自身の強みなどを伝える機会があります。この場では、上げてきた成果をさらに高いレベルで再現できるかどうかがチェックされるため、試される側も相手を納得させられるだけの素材を準備し、アピールします。

一方、日本企業1社に長く在籍していると、そうした機会を経験したことがなく、自己アピールの仕方がわかっていないケースが多いようです。しかし、採用面接においては、国内企業・外資系企業にかかわらず、自己アピールを適切にできるよう準備しておくことが重要。山室広幸さんは「『成果の再現性』を意識してほしい」といいます。

「例えば、人事スペシャリストが前の会社で新たな人事制度を構築した経験をアピールする場合、外部の専門コンサルタントの協力を得たのか、自身で設計から導入まで手がけたのかで、その経験の価値は大きく変わってきます。私が見てきた会社では、『コンサルタントに頼るのが嫌い。すべて自社内で行う』という主義の経営者もいました。そうした企業に応募する場合は、外部業者をコントロールするマネジメント力よりも、自身で推進する実行力をアピールしてこそ『前職での成果を自社でも再現してくれそうだ』という評価を得られるわけです。応募先企業に合わせ、その会社での『再現可能性』を伝えることを心がけていただきたいと思います」(山室さん)

また、キャリアコンサルタントたちが口をそろえてアドバイスするのは「自身の業績を過大評価も過小評価もせず、事実をありのまま具体的に伝えるべし」ということ。

「採用選考に臨む際には自分を大きく見せたくなりがちですが、等身大の自分でいたほうがいい。大上段に構えた状態で採用されたとしても、入社後に苦労します。等身大の自分を受け入れてくれる会社を探すべきであるし、本当に成果を上げてきた方であれば等身大でも十分迫力があるのですから」(中村さん)

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は11月18日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
波戸内啓介(はとうち・けいすけ)
リクルートエグゼクティブエージェント社長
1989年リクルート入社。営業部門、企画部門責任者を経て、リクルートHRマーケティング関西など、リクルートグループの代表取締役社長を歴任。2011年リクルートエグゼクティブエージェント代表取締役社長に就任。
 株式会社リクルートエグゼクティブエージェント(http://www.recruit-ex.co.jp/)

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