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上場企業の社外取締役の重要性が高まっている。2015年に企業統治指針(コーポレート・ガバナンス・コード)の適用が開始。上場企業の社外取締役は7000人を超え、取締役数全体の4人に1人に達した。社外取締役の役割とは何か。4月、カリスマ経営者と呼ばれた鈴木敏文氏が会長職を突如辞任したセブン&アイ・ホールディングスなど5社の社外取締役を務める一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄氏に聞いた。

 ――社外取締役の役割とは何でしょうか。

「主に3つあります。経営のアドバイス、監督そして後継者など人材育成に関する助言です。私の場合、企業経営を研究分野としてきましたから、多くの企業や経営者とのお付き合いも多く、そのネットワークから、当該企業の経営者に他企業や経営者を紹介したりして、それが業務提携等に発展したケースもあります。監督というのは、企業風土のゆがみなどをチェックすることです。会計のデータが改ざんされている場合、そこまで見抜けませんが、経営側が無理な売り上げ増加を求めているとか、社内で正論が押し殺されるとか企業風土に問題点があれば指摘する場合はあります」

セブン&アイ・ホールディングス前会長の鈴木敏文氏

セブン&アイ・ホールディングス前会長の鈴木敏文氏

――社外取締役はどのようにして選ばれるのですか。セブンの場合はどのような経緯だったのでしょうか。

「2年ぐらい前ですかね。セブンの事務方が鈴木敏文さんに社外取締役の候補者リストを示したら、鈴木さんが私がいいと言われたそうです。理由は聞いていません。鈴木さんの経営やセブンのシステムに関心があったし、私の知見が役立てればと思いお引き受けしました。他の社外取締役の場合、人材紹介会社が仲介するケースもありますが、私の場合は当該企業の経営者の方から直接要請される場合がほとんどでした」

 ――セブンの取締役会ではどのようなアドバイスをしましたか。

「カリスマ経営者の鈴木さんがいますからね。社内の取締役がバンバン発言することはあんまりなかったと思いますが、私は努めて積極的に発言するよう心がけました。(インターネット通販と実店舗を融合させる)オムニチャネルの開始に伴うリアル店舗スタッフの教育の徹底やグループ間でのカードの共通化とか、かなり具体的な助言をしたりもしました。ほとんどの場合、『そう、ご指摘の通りなんだよね』と鈴木さんも納得してくれていました」

 ――4月に鈴木さんがセブン―イレブン・ジャパンの社長交代の人事案を提案しましたが、否決されました。その時、キーマンといわれたのが、伊藤さんでした。

「ちょっと誤解があるかもしれません。一部メディアには取締役会で私が『無記名投票をやろう』と言ったと報じられましたが、少し違います。事前に事務方が指名委員長の私のところへ投票方式について相談に来たので、『その場合は無記名投票がいいでしょう』と答えました。社外取締役としては至極当然な回答だと思います。もちろん鈴木さんをやめさせようなどと考えていたわけでは全くありません」

 ――結果的にセブンでの件は社外取締役として強い存在感を示しました。社外取締役は今どんどん増えていますが、うまく機能していると思いますか。

「社外取締役のなかには立ち位置が分からないと悩んでいる人もいます。どこまで会社の経営に関与し、踏み込んで発言したらいいのか分からないと。確かに会社ごとに取締役会の雰囲気とか、社外取締役に対するニーズは違いますから。私の場合はこれまで9社の社外取締役を経験しているので、経営側のニーズは把握しやすい。A社で優れている点をB社に伝え、ガバナンス改革や改善につながったこともあったと思います」

一橋大学大学院特任教授 伊藤邦雄氏

一橋大学大学院特任教授 伊藤邦雄氏

――具体的にガバナンス経営で進んでいる企業はありますか。

「私が社外取締役を務めていた企業では三菱商事や東京海上ホールディングスは先行していました。三菱商事では当時の槙原稔会長がガバナンス委員会を設け、日本企業に先駆けていました。2001年ごろだから、ガバナンスなんて言葉は浸透していない時期ですね。その後も社外取締役が中心になって社長を評価するなど、どんどん改革していきました。社長の評価に外部の取締役や委員が関わる。それは社長の通信簿にあたり、ボーナスにつながるから、緊張感を持ってしっかりと具体的に評価します」

 ――課題を抱えている企業も少なくないと思いますが。

「確かにコーポレート・ガバナンス・コードが導入されたから、とりあえず社外取締役を選任したという企業もあるでしょう。大事なことはこのコードを経営側がよく理解すること。そして社内と社外の取締役の間の相互理解を深め、ギャップをなくすことです」

 ――社外取締役の責任も重くなっています。一般的な報酬の水準はどのくらいになっているのですか

「大企業の社外取締役だと、平均で年1千万円ぐらいになるのではないでしょうか。ただ米国では高騰しており、4千万円ぐらいもらっている社外取締役もいるという話を聞きました。ガバナンス経営に積極的なある金融機関トップにインタビューしたときのことですが、その方が『社外取締役は経営者の介錯人(かいしゃくにん)』と表現したことがあります。ドキッとし、『かいしゃく』とは漢字でどう書くのだろうかと一瞬、考えました。社外取締役はそれだけの覚悟と責任を持って務めなくてはいけません。株主の富がかかっているわけですから、まさに真剣勝負です」

伊藤邦雄氏(いとう・くにお)
1951年千葉県生まれ。75年一橋大学商学部卒、80年一橋大大学院博士課程単位取得退学、一橋大学商学部専任講師、84年助教授、92年教授。商学部長、副学長を歴任、2015年から商学研究科特任教授。専門は会計学、企業システム論など。

(代慶達也)

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