ライバルの模倣防ぐ 一見非合理、戦略全体で合理性
楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」(4)
最終回の今回はクスノキ戦略論の"一番イケてる部分"を紹介します。そのカギは「クリティカル・コア」です。それだけを見ると一見非合理でも、ストーリー全体の文脈では強力な合理性を持つ戦略要素です。
神戸大学教授 MITスローン経営大学院 研究員 小川進氏
例えばスターバックス。同社の店舗は直営です。しかし短期間に店舗網を拡大するにはフランチャイズ方式を採用した方が合理的に見えます。
カギは「第三の場所」という同社の事業コンセプトです。仕事に追われる職場と自宅の間に、ちょっとくつろげる場所を消費者に提供するというものです。日本に進出した当初、戸惑った人が多かったのではないでしょうか。カウンターで注文してもファストフード店のようにすぐに商品が出てこないからです。
しかしそこが肝だったのです。スターバックスは「わざと」時間をかけていたのです。時間に追われるお客が店にいると第三の場所としての雰囲気を壊してしまうので、「急ぎの客」が来ないようにしているのです。
そう考えると直営にこだわる理由が見えてきます。フランチャイズ店のオーナーなら店の利益を少しでも多くしたいと思うでしょう。手っ取り早い方法はお客の滞在時間を短くすることです。そのために商品をできるだけ早く出そうとするかもしれません。しかしそれでは第三の場所を提供することにはなりません。そんな事態を防ぐため、店舗運営を完全にコントロールできる直営方式を採用しているのです。
環境変化を先取りした「先見の明」型の戦略は、変化の全貌が見えてくれば競合の追随を招きます。それに対してクリティカル・コアを組み込んだ戦略はライバルの模倣を避けることができます。そこだけ見れば非合理に見えるのでライバルに模倣する気持ちが起きないのです。その結果、競争優位は持続します。戦略をストーリーとして捉えるからこそ見えてくる卓越した戦略の背後にあるロジックです。
ケーススタディー セブンイレブンのクリティカル・コア 店頭起点の発注
コンビニエンスストア大手の中でも高い収益性を維持しているセブン―イレブン・ジャパンの仕組みを、早い段階で他社がまねなかったのはなぜでしょうか。