漁業に飛び込む若者 15~24歳の漁師、増加続く自治体、研修コースや無償で住居

定置網を引っ張る古田さん(福井県越前町)
定置網を引っ張る古田さん(福井県越前町)

若い漁師が増えている。農林水産省によると、15~24歳の漁業就業者は2015年、6170人となり前年から約6%増えた。「魚が好き」「漁師になりたい」。そう思いながらも漁業とは無縁で育った若者を、各地で迎え入れ、育てる試みが広がっている。

「網起こしへ行きます」。午前3時半、福井県越前町の港から漁船「恵比須丸」が出航した。19トンの大きさで、乗組員は18人。最年少の古田涼さん(18)は、年配の漁師に囲まれ海へと繰り出した。

真っ暗な海を進むこと30分、漁船のライトが海に浮かぶ定置網のブイを照らす。乗組員たちは一斉に腰を上げ、網を引っ張り上げる。古田さんはベテラン漁師の指導を受け、網と格闘していた。

作業開始から1時間、定置網にかかった魚が姿を見せ始めた。ワラサ、シイラ、ビンチョウマグロ。続々と漁船に降ろされていく。しかし、古田さんは不満げ。「ほんのちょっとしかとれてない。全然ダメ」。後片付けをする表情は悔しさに満ちていた。

大阪府出身の古田さん。漁業とは無縁の家庭で育った。漁師を志したのは小学生の時、テレビでマグロの一本釣りを見たのがきっかけだった。漁師への道として見つけたのが、福井県が昨年6月、県漁連などと始めた「ふくい水産カレッジ」。県内外から研修生を迎え、水産関連の座学や実習をコース別に1~3年実施する。古田さんは研修生になり、3月から越前町で漁師見習いをしている。

背景には、漁師の世界とは無縁の新参者が、飛び込みやすい環境が整ってきたことが大きい。世襲が一般的だった漁業だが、後継者不足は深刻。このため、地縁や血縁のない一般の若者を新たな担い手にしようとの取り組みが広がっているのだ。

古田さんと同時期に越前町へ来た埼玉県出身の石川大悟さん(18)は、水族館で働くことも考えたほどの魚好き。「自分がとった魚を人々がおいしいと言ってくれる。達成感がある仕事だ」と漁師を目指すことに。越前町では、研修生へ住居を無償で提供するなど独自の支援もある。「家賃負担がないのは助かる。手厚いバックアップ体制もこの地を選んだ決め手となった」(石川さん)

同カレッジでは5月時点で当初想定の6人を超す計11人(修了者1人含む)の研修生が誕生した。担当の県農林水産部水産課の石田敏一さんは「漁村になじむため、地元の祭りへの参加もカリキュラムに加えた」と話す。

京都府は昨年4月、研修事業「海の民学舎」を始めた。期間は2年間で授業料は払うが、研修後に府内で5年間漁業に従事すれば返還される。現在、16人が研修に励む。府農林水産技術センターの永浜治夫さんは「都会の生活に息苦しさを感じ、漁業の世界へ飛び込む人もいる」と話す。

北海道立漁業研修所(北海道鹿部町)は道内の漁師家庭に生まれた後継者を育てる、全寮制の漁業学校だ。今年は利尻町から4年ぶり、広尾町からは12年ぶりに研修生が誕生した。広尾町は今年度補助金を出し、研修生の授業料を広尾漁協とともに負担する。

広尾町から入学した久野真敏さん(18)は昆布の養殖を目指す。「安定して昆布をとれるよう勉強したい」。同じく広尾町出身の佐々木太士さん(18)は「自分のシシャモを全国に届けるのが夢」と話す。研修所の中村慎一所長は「研修生は地元に貢献したい気持ちが強く、仕事にやりがいを感じている。漁業を盛り上げてほしい」と話す。

現在、漁師の4割弱は65歳以上。進む高齢化に歯止めをかけられるか。海の世界に飛び込んだ若者に大きな期待がかかっている。

■就職相談会もにぎわう

漁師の就職相談会もにぎわっている。全国漁業就業者確保育成センター(東京・港)が開催する就業フェアへの来場者は増えている。漁業についての知識や就業情報の提供、漁師との面談や就業先とのマッチングも行う。10年前、東京で2回開催した時の来場者は計247人だったが、3月の東京会場への来場者は1回で372人にのぼる。

担当者は「スマートフォンなどの普及で、他業種で働く人も漁師の就業情報に触れやすくなった」とみており、「魚が好きで、海の仕事がしたい人が足を運んでいる」という。回にもよるが、来場者の半分は20~30代が占め、全体の75%は初来場だという。「出展団体も増えており、若い漁師が生まれる傾向は今後も続くのでは」とみる。

とはいえ漁師は簡単な仕事ではない。朝が早いのはもちろん、夜明け前から真っ暗な海に出るなど危険が伴い、力仕事も多い。「夢はあるが、きつい仕事でもあるという現実を理解したうえで、それでも目指すという若者でないと、なかなか定着しない」(同センター)

(田村匠)

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