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自分の苦労を糧に人助け 保活アドバイスを起業

日経DUAL

2016/10/6

日経DUAL

会社員の夫と4歳の娘を持つ長岡美穂さん。大学を卒業後、環境系シンクタンク、政府系研究開発機関を経て、外資系戦略コンサルティングファームのコンサルタントに転身されたという経歴の持ち主です。こと自身の“保活”に関しては思い通りにはいかず……。保活と再就職活動を並行して行う中で、女性が社会で活躍し続けるための社会インフラの貧弱さを実感します。「出産・育児を経て、再度社会で活躍したいと思う女性がチャレンジできない社会はおかしい」。怒りをパワーに変えて突き進む、起業家のストーリーです。「女性起業家 35歳で第一子を産むため、逆算して結婚」に続く、後編です。

(イメージ写真:鈴木愛子)

■現場と経営を学ぶ。保育園のパートで働くことに

結局3カ月ほどの待機期間を経て、娘の保育園が決まりました。認可・認可外にこだわらず探していたというのもありますが、もともと待機児童が少ない地区だったということが大きかったと思います。

私もようやく、本腰を入れて起業準備を再開。パートスタッフとして働ける保育園を探しました。最終的にハローワーク経由での認証保育所勤務が決定。保育士の資格もすぐに取りたかったのですが、起業を思い立ったのが保育士資格の受験申し込みの締め切り一週間後。翌年の受験までお預けに。

週に5日、5時間勤務、現場に入っての保育が始まると、子どもは本当に一人ひとり違っていて、個性や家庭環境なども踏まえて、こまやかな配慮や対応が必要だと分かります。また、保育士自身が意識を高く持って保育に当たることの重要性も学びました。

私の仕事は保育補助でしたが、その運営について見ているとマネジメントという概念が弱い。保育所が掲げている理念は誰も覚えていないし、園側も浸透させようという努力をしていない。もしくは、浸透させる方法が間違っているようにも思えました。

職員や保育士の価値観やスキルはバラバラで、職員間のコミュニケーションはうまく取れていない場合もある。それが職場の雰囲気を悪くし、モチベーションやモラルの低下も招いているように見えました。「良い先生に当たればラッキー、そうでなければ残念」という状況は、保育の質という面から見ても、利用する子ども達や保護者の方には大きな問題です。ついコンサルタントの血が騒いで、色々と改善のお手伝いをしたいくらいだと感じていました。

そんな日常を目の当たりにしながら、保育所での現場経験は4カ月で区切りをつけ、自分の起業のビジョンをいよいよ具体化させていく段階に移っていきました。

■保育業界ベンチャーのアドバイスで、事業モデルをブラッシュアップ

コンサルティング業をしていましたので、起業に対する恐れや特別な意識はありませんでした。保育事業で起業を思い立った時期にたまたま巡り合ったインキュベーションオフィス「01Booster」で、起業家や起業を目指す仲間達に、自分のビジネスモデルを聞いてもらったり、情報交換をしたりして支えてもらいました。

中でも特にお世話になっているのが、01Booster代表の鈴木規文さん。民間学童保育のプロフェッショナルで、保育園や学童施設に強力なネットワークを持っています。私自身、多数の保育施設や幼老複合施設を見学・視察していましたが、鈴木さんやご紹介いただいた保育施設経営者の方々から、具体的な教えを乞うたり、実際の施設を拝見したりする機会を多数いただきました。そのような起業準備期間を経て、徐々に事業内容を固め、2014年春に一般社団法人を設立しました。

並行して、保育士と民間の子育て関連の資格取得にも取り組みました。保育士資格は、保育園経営に必須ではありませんが、保育・教育理論、法律・福祉行政、発達心理、栄養・病気など、保育事業を行うに当たっての知識ベースとして、とても価値のあるものです。また、保育園を開所する際に、私自身を有資格者としてカウントできるというもくろみもありました。

■実体験から生まれたサービスを開発

私は1年半以上かけて、保育園経営のための準備を進めると同時に、 保育園探しのアドバイスをする「保活アドバイザー」というサービスをスタートさせました。これは、通常は保護者が自力で行う“保活”の一部を代行するというサービスで、自分自身が感じた矛盾や壁を乗り越えるために欲しかった支援そのものです。

個人的には、このサービスを手掛けることによって、保育所経営に生きるノウハウや実績を蓄積できます。しかも、開始時に必要なのはパソコンと電話だけ。夫と子どもがいるため、起業リスクを最小限に抑えながら、身の丈サイズで始められる事業であることも重要でした。積極的な広告は打たず、告知はホームページのみに。それでも、これまでに都内のご家族の保育園入園をサポートさせていただきました。

「将来的には保育園を経営したい」という思いで活動してきたため、リサーチのために行政を回って得た情報や、法律面の知識も蓄えていました。母親としての気持ちも、保育士の考えや現場の事情も分かります。

既に「自治体の保育事情・制度の解説」「希望条件に沿った保育園マップ・リストの提供」「保育園の見学代行」「書類作成のアドバイス」などのサービスを開始しています。「自治体ヒアリング」「保育所への問い合わせ」「見学代行」などでは、保護者の方が特に聞いておきたいところなども踏まえ、園選びや実際に園に通うときに関する利便性について、ヒアリングや資料などを通じて調査し、報告書にまとめて提出しています。

■あらゆる世代の人が、いつでも自由にチャレンジできる社会をつくる

常日ごろから「現役世代もシニアも、いつでも様々な事情に合わせて人生のペースを緩めたり早めたりしてよいはずだ」と考えてきました。そして、ペースを緩めた後でも、誰もが自由に再チャレンジできる社会にしたい。それが今の会社のビジョンであり、これから私がライフワークとして取り組んでいきたいテーマです。

私自身、自分の人生を自分でコントロールできるようにと、中長期の展望を立てて生きてきましたが、思い通りにいかないこともたくさんありますし、自分の力の限界を感じたり、偶然が幸運につながったりもします。そんな状況の中で、その人の持っている個性や頑張り次第で、またイキイキとした生活を送れるようご支援する社会インフラをつくりたいと思います。

この春、一般社団法人の事業と並行して、東京都港区赤坂にある「creche bebe(クレッシュべべ)」という保育事業にも参画することになりました。8月1日付けで港区小規模認可施設に移行した、この保育所は、企業変革を促すBtoB事業を行っているチェンジウェーブという会社が運営しています。それぞれ別の大手コンサルティングファームのワーキングマザー二人が共同経営しており、そのうちの一人が私の前職の先輩だったというご縁です。

この保育園は、「自らの未来を選ぶ“意思”と“生き抜く力”を持つ『ひと』をつくる」を目標に、子ども達に安心できる環境と可能性を伸ばすアクティビティーを取り入れた保育を行っています。キャリアや学問の面から見てもユニークな人材が集まっているので、いつも刺激的な環境です。今後もっとこの活動を広げていけたらと思っています。

■ライフステージに合わせて「公共政策」を再定義

今現在、国内都市部での保育園不足は疑いようのない事実です。子どもの数は減りますが、まだ保育園の利用率は右肩上がりです。とはいえ、それもいつかは頭打ちになるでしょう。それでも今、目の前に困っている方、つまり、「この1~2年の間、仕事復帰できるかどうかが人生の分岐点になるかもしれない」という方々がいるのです。

高校・大学時代には「40代になったら公共政策に携わりたい」という将来展望を持っていましたが、当時思い描いていた仕事は、日本から数千キロも離れた、貧困や紛争に巻き込まれている人々を助けることでした。しかし、出産・子育てをしながら、改めて今の自分のライフステージを見つめてみて、それはまた将来の夢として温めておき、「まず半径数十キロの人を助ける」ということに今取り組むことにしています。

将来的には、子どもから高齢者までが互いに健康に成長し合える「三世代学び合い施設」をつくりたい、そしてシニア住宅を併設したいとも考えています。多様な人的環境で育つことは、子どもの健全な人格形成にとても重要な要素です。社会が必要としているものを、ビジネスで解決できるよう力を注いでいきたいと思います。

関連URL
長岡さんが代表者を務める一般社団法人ソーシャル・エンパワメント 
http://s-empowerment.org

(ライター 飯田麻衣子、株式会社Waris)

[日経DUAL 2016年7月1日、7月8日付記事を再構成]

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