がんで手術、復職で自信取り戻す クレディセゾンがん治療と仕事の両立に取り組む企業最前線(第3回)

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がんにかかったとき、社員が治療をしながら働き続けたり、治療後の復職を支援するといった取り組みを行う企業が増えつつあります。最終回の今回は昨年、東京都の企業表彰で優良賞を受賞した株式会社クレディセゾンの取り組みを紹介します。

クレディセゾンの社員数は2063人(2016年3月末現在)。そのうち80%を女性が占めます(女性社員の平均年齢は36歳)。同社の健康管理に対する意識は非常に高く、その復職プログラムは明文化されたわかりやすいものでした。

話をお聞きしたのは戦略人事部人事企画課長兼キャリア開発室課長の三浦弘路さん、同じくキャリア開発室統括産業医の矢地孝さん、キャリア開発室保健師の手島恵子さんです。

(右から)クレディセゾン戦略人事部キャリア開発室の三浦さん、矢地さん、手島さん

戦略人事部は4つに分かれていますが、その中のキャリア開発室(昨年受賞時は健康管理室)が全社の健康管理を一手に担っています。さらにキャリア開発室の中は制度や企画を担当するセクションと健康管理室に分かれ、健康管理室の産業医や保健師が所属。社員の健康管理を実施しています。

また社内の安全衛生管理については、本部に全体衛生委員会と、前述した健康管理室があり、各事業所の衛生委員会は本社や管理部門、日本全国に広がる10支社に設置されています。

8割が女性社員、早くから多様な働き方が根付く

キャリア開発室の三浦さんは言います。「女性が8割の会社のため、女性が長く働き続けるための制度設計、例えば育児をしながらの短時間勤務や育児休職などに、法令よりも早くから取り組んできました」

職場の中に短時間勤務の社員や、土日勤務・夜間勤務ができない社員が普通にいたところから「お互いさまの精神」ができあがってきたそうです。何らかの事情やハンディキャップにより勤務に制約がある社員も含め、すべての社員の活躍を願うという風土が、同社には根付いているようです。

支援制度の整備は、2000年ごろから増え始めた心身の不調に対応するため、メンタルヘルス対策を本格的に始めたのが発端でした。08年に「復職支援プログラム」を策定、運用を始めました。

復職の目安・ステップをきめ細かく規定

このプログラムは、身体疾患やメンタル疾患で1カ月以上休職した社員を対象に運用しています。

〈ステップ1〉休職後、復職希望があった場合、後述の「復職の目安」を参考に、同社所定の書類を基に主治医の判断を仰ぎ、所属部署に連絡します。

〈ステップ2〉同社所定の「復職可能診断書」、復職前2週間分の生活記録を記入した「自宅課題及び実行記録」、「復職願」を記入、提出してもらいます。

〈ステップ3〉産業医と復職予定の5日~10日前を目安に面談し、主治医の判断と併せ、復職の可否や就業の配慮事項などを確認、所属部署に連絡します。

〈ステップ4〉復職となります。就業配慮に従う勤務が大切です。

〈ステップ5〉復職後のフォローは欠かせません。1カ月ごとに、面談やチェックシートで就業上の配慮事項を検討。原則3カ月間のフォローアップを行い、徐々に通常勤務に戻ります。

保健師の手島さんは言います。「復職後は時間短縮勤務の復職が多く、最大3カ月まで時短勤務が可能ですが、その後の3カ月は残業制限、出張制限やシフトに配慮し、体調を見ながらステップアップしていきます。随時、所属部署へ連絡し本人面談もします。復職してからも連絡を取り合う関係は続いていきます」。復職した社員への手厚い配慮がうかがえます。

復職支援プログラムを適用した社員のほかにも、1週間以上休職した社員の情報は把握しているので、プログラム対象外でも休職社員への配慮があるようです。その際、産業医と連携を取り、面談も行うのでとても心強い体制となっています。

下記は、この復職支援プログラムで定める「復職を考える目安」です。

事細かに記載された14項目にわたる目安は、健常者には普通にできることですが、罹患(りかん)者は治療後の日常生活や外出時において、できているつもりでもできないこともあり、改めて認識することで自分を振り返るいい材料になるものが多いようです。罹患者は早期復職を願うあまりに無理をしたり頑張りすぎる傾向があるので、体調だけでなくメンタル面、第三者の判断にも配慮したすばらしい目安だと思います。

復職によって自信を取り戻す

ここで、がん罹患後、復職した成功事例を紹介します。

Aさん 40代女性、乳がんに罹患。抗がん剤治療後、手術を受け、3週間ほど休職し復職。復職後の放射線治療は仕事と治療を両立。復職は罹患前と同じ職務(デスクワーク)。

Aさんは手術後すぐに復職したいという希望があったため、放射線治療の期間中は2時間の時短勤務を適用しました。治療は朝一番に予約を入れ、通院治療後は毎回、時短勤務に従事。その後、1カ月に1度面談しながらステップアップし、通常勤務に戻りました。

社員の平均年齢が若く活力ある同社は、病気をしても早く復帰してガンガン働きたい人が多いようです。しかし、手術や治療を終えて1~2カ月休んだ社員は、主治医からGOサインが出て、本人もやる気があっても、実際は入院によって体力が落ちています。就業規制が残業配慮(禁止)だけの場合でも、復職1カ月は2時間時短勤務からスタートし、2カ月目から1時間時短、3カ月目から通常勤務というように体を慣らし、仕事も思い出してもらうように配慮するそうです。

統括産業医の矢地さんは、復職した社員から「会社に来ると楽」と話をされることが多いといいます。「仕事をすることは自己表現なので、仕事によって自信を取り戻すことができるんです」と矢地さんは話します。

とは言え、休んでしまったというネガティブな気持ちからポジティブな気持ちになるのに時間は必要で、その間は働きたい気持ちを抑えるよう促すなどきめ細かい配慮をします。時短勤務から少しずつ復職し、「やっぱり大丈夫、できる」という自信をつけて通常勤務に戻っていく社員を見るのがうれしいそうです。

社内イントラネットには、社員が健康診断の結果を閲覧できる健診システム「Health Data Bank」があります。社内報にもその検索の仕方などを掲載し、全社員に周知されているようです。

健康診断の事後措置と、健診システム「Health Data Bank」について周知する社内報

大きながんを患った後に復職した社員はマネジャークラスにも数人おり、治療しながらの勤務や、治療後の復職が当たり前になっています。

同社に根付いた「お互いさまの精神」という企業風土は、個々の社員に向き合う産業医や保健師、人事担当のチームによって支えられています。がんは病気の一つであり特別なものではない。職場に戻ることで自信を取り戻せる、そう実感できる取材でした。

太田由紀子(おおた・ゆきこ)
産業カウンセラー。出版社、放送局勤務後、産業カウンセラーの資格を取得。傾聴によるカウンセリングを行う。日経Gooday「がんになった妻から夫へのお願い」、日経ビジネスオンライン「メンタルリスク最前線」など多数のコラムを執筆。
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