気がついたら食べている… その食べ過ぎ、過食かも

パソコンを使いながら菓子パンを何個もたいらげてしまった。月経前に甘いものやジャンクフードが欲しくなり、我慢できなくなる。「どうしてこんなに食べてしまうんだろう。もしかして、摂食障害?」と悩む人に対して、「たまに食べ過ぎるということはよくあること。特に女性はPMS(月経前症候群)によって食欲が増加するという人が多い。ただ、過食の頻度が増え、食べたことを気にして吐くようになると要注意。摂食障害の可能性がある」と、牧野クリニック診療部長の牧野真理子医師は話す。
どうして私たちは食べ過ぎてしまうのか。また、単なる「食べ過ぎ」と、心の病気である摂食障害の線引きはどこにあるのだろうか。
食べ過ぎの影に「脳の疲れ」あり
そもそも食べ過ぎてしまう背景には、「目には見えない脳の疲労がある」と話すのは、メンタルレスキューシニアインストラクターの下園壮太さん。
私たちは、食べ過ぎてもよいのは運動をしてたくさんカロリーを消費したときだけ、と考えがちだが、下園さんは「ストレスがかかったときにも精神疲労によって脳が多くのエネルギーを消費している」と話す。「怒りや不安はそれだけで多くのエネルギーを使う。幼い子どもはわーっと叫んだり泣くことによって発散できるが、大人はそれができないので、感情をぐっと抑え込む。このとき脳は、さらに多くのエネルギーを消耗する」(下園さん)
ストレス時に甘いものが欲しくなったり、食べてストレスを発散したくなるのは、脳がエネルギー源である糖を欲するからであって、人間の本能としてごく自然なこと。罪悪感を持つ必要はない。「私自身も、講演など緊張を強いられるときにはチョコレート1箱をたいらげる」(下園さん)
むしろ心配すべきは、「食べたことを責め、食欲を我慢できない自分に自信を失う」こと。「自分を責め、自信を失うとさらに不安やイライラが拡大し、脳の消耗が進んでしまうという悪循環が起こってしまう」と下園さん(図)。食欲は本能的なものだから、"食べない我慢"はイライラを増幅させるだけだ。

「疲れてクタクタなのに、寝ないでいることを強いられるくらい、ストレス時の食欲のコントロールは難しいと自覚したい。ストレスは目に見えないからこそ、自分で客観的に『今、しんどいんだな』とわかってやることが大切」(下園さん)
でも、やっぱり食べ過ぎることがとてもイヤ……そんなとき、どうすればいいのか。「脳にお疲れさま、というぐらいの気持ちでおいしく味わうこと。また、食欲増加の根本にあるストレスと向き合うことも必要」(下園さん)
なんとなく詰め込むように食べている、という人は、しっかり味わって食べてみよう。幸せを感じることで、前向きにエネルギーをチャージできるはずだ。
1.「ゆっくり食べる」「本当に食べたいと思うものを選んで食べる」「味わって食べる」
ストレスと闘い、脳が疲労した結果、食欲が増している。だからこそ、いつもより丁寧に食べよう。しっかり選び、味わって食べる。「パソコンを見ながら嫌な上司のことを思い出しつつムシャムシャ食べるような食べ方では満足度は低い」(下園さん)。食べるものに意識を向け、とことん味わって幸せを感じよう。
2.「新しい上司?」「彼との関係?」「友達の不用意な発言?」…最近どうして食べ過ぎるのかをよーく考える
「背景にあるストレスをコントロールしないかぎり、過剰な食欲は元には戻らない」(下園さん)。最近、食べ過ぎてしまうという自覚があるなら、どうして食べ過ぎるのか、イライラや不安の原因を考えてみよう。苦手な人と距離を置いたり、休息する時間を増やしてみる、誰かに相談することも、ストレスコントロールに有効だ。
この人たちに聞きました

牧野クリニック(東京都・中野区)診療部長。北里大学医学部卒業。オーストラリア・メルボルン大学医学部大学院修了。医学博士。心身医療内科専門医、日本心療内科学会登録医、優秀専門臨床医。摂食障害の治療にも積極的に取り組む

メンタルレスキュー シニアインストラクター。1982年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。心理幹部として多くの隊員のカウンセリングを手がけ、2015年に退官。現在、講演や研修会、カウンセリングやコーチングなどを手掛ける
(ライター 柳本操、構成:日経ヘルス 太田留奈)
[日経ヘルス2016年10月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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