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若手リーダーに贈る教科書

アマゾン創業者は癇癪と罵倒で知られるが 「悪いヤツほど出世する」ジェフリー・フェファー著 村井章子訳

2016/9/3

国内で一日に刊行される新刊書籍は約300冊。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍は、徹底的なデータに基づき具体例を挙げながら、数字の裏付けもなければ効果測定もないリーダー論の「ウソ」を、スタンフォード大学ビジネススクールの教授が暴く。美化されがちな「リーダー論」について、今一度考え直してみたくなる一冊だ。

ジェフリー・フェファー氏  courtesy of Jeffrey Pfeffer

著者のジェフリー・フェファーは、行動経済学を専門とし、本書の他にも『「権力」を握る人の法則』など、これまで14冊の著作があります。経営学の第一人者として知られ、ロンドン・ビジネス・スクール、ハーバード大学ビジネススクール、シンガポール・マネジメント大学などでも客員教授として教鞭をとる傍ら、複数のソフトウェア企業や上場企業、非営利組織の社外取締役も務めています。

「リーダーシップ」と聞いたときに、何を思い浮かべますか。グーグルで検索すると、「研修」や「新常識」といった言葉が一緒に出てきます。書店にもネットにも、「リーダー」を語り、育成し、指南するための情報が溢れています。しかし、そこで語られるリーダー論はどのようなものでしょうか。まるでリーダーが英雄であるかのように、美談に染められてはいないか、と著者は問題を提起します。

現状は、誠実で謙虚で信用できて部下思い等々、多くの人がリーダーの資質と考えるものを持ち合わせていないリーダーが大勢成功しているだけではない。実態はもっと悪い。第1章で論じたように、そして読者が毎日のようにテレビで見かけるように、理想のリーダーといわれている人たちは、実際そのように見えてしまうのである。これは、人々がリーダーの発する自信満々な雰囲気やオーラに魅せられてしまい、彼らが実際に何をしているかをチェックしようとせず、彼らの部下になることがどういうことかを考えようともしないからだ。
(276ページ 第8章 リーダー神話を捨て、真実に耐える)
アマゾン創業者のベゾス氏

例えば、FBIの初代長官を務めたジョン・エドガー・フーバーは、冷酷な支配者であり、数十年にわたってFBIを私物化しました。「大統領から議員にいたるまでありとあらゆる人間を恫喝しただけでなく、違法な盗聴や監視に関与し、上司である司法長官を脅迫していたことも、あきらかになっている」と著者は指摘します。

アマゾンの創業者にしてCEOのジェフ・ベゾスも、癇癪(かんしゃく)と罵倒で有名です。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツも、「謙虚だとか、誠実だとか、部下思いだといった理想のリーダー像からはどう見てもほど遠い」ようです。彼らのビジネス以外の面についてはここでは言及されていませんが、世の中では成功したければ「自分らしさを抑えること」のほうが、「自分らしさに忠実であること」よりもずっと大切になってしまいます。

誰も生まれつき医者や弁護士やゴルファーや大工だったわけではない。私たちは仕事上のスキルだけでなく、自分の仕事や職場やさらには組織の価値観や文化も吸収する。だから好みや価値観も仕事を通じて形成されると言えるだろう。社会心理学では、態度は行動に従うという原理がある。医者になって長く働いたら、医者として毎日やらねばならないことが好きになるだろうし、多くの面で医者としての役割をよく果たせるようになる。
(137ページ 第3章 自分らしさ――「本物のリーダー」への過信と誤解)

「リーダーというものは、ひたすら組織を成功に導くために、また組織で成功するために必要な行動をとらなければならない」と著者は述べます。つまり、地位が上がれば上がるほど、個人的な信条や好みに基づいて行動する自由はなくなります。同時に、自分の仕事から学び適応するプロセスは止まることはありません。「真の自分」にこだわる必要も、就職や昇進を機に変わってしまった人を嘆く必要もないでしょう。それでは、こうした変化も含め、リーダーに納得いかない場合はどうすれば良いでしょうか。

リーダーがのべつ悪しきふるまいをするようであれば、とりわけ自己利益の追求にかまけるようであれば、部下はどうすべきだろうか。それに、たとえ誠実でよきリーダーであっても退任することがあるし、経済状況が変われば方針を変えざるを得ないこともあり、いつまでも頼りになるわけではない。となれば、どうすべきか。私の答は、こうだ。会社が何十年も前からやってきたこと、アダム・スミスの時代以来経済の基本原則とされていることをやりなさい。それはつまり、自分のことは自分で気をつけ、自分の利益は自分で守ることである。
(256ページ 第7章 自分の身は自分で守れ)

「自分の努力と勤勉は必ず認められ、評価され、報われると期待している人は、そろそろ自分で自分をだますのをやめなければならない」と著者は警告します。もし、いま互いに助け合う職場環境や部下思いのリーダーに恵まれているのであれば、存分にその貴重な瞬間を謳歌しつつも、「世界は往々にして公正ではない」ことをわきまえる必要があるようです。厳しい言葉にも聞こえますが、新しいサービスや技術が次々と出てくる激動の時代には、会社と共倒れをしないためにも、このことを頭に留めておく必要があるのかもしれません。

最後に著者は、働く環境やリーダーの行動を変えるために「ときには悪いこともしなければならない、と知る」などの実践的な6つのヒントを示します。現在語られている多くのリーダーシップ論と実際のリーダーの行動のズレを認識し、安易な「リーダーシップ商売」にのせられない知恵が身につく一冊です。

編集者からのひとこと 堀川みどり
著者は組織行動論を専門とし、スタンフォード大学ビジネススクールに長く勤める著名教授。『悪いヤツほど出世する』とはそれらしくないタイトルだと思われるかもしれませんが、原題も”Leadership BS (Bullshit)”と、なかなか過激です。フェファー教授のメッセージは、もちろん「悪いヤツになって出世せよ」ということではなく、リーダーは誠実で立派な良識人であるはずだという神話を捨て、「現実を見よ」「自分の身は自分で守れ」ということ。他人や周りの環境任せにするのではなく、自分のキャリアに自分自身で責任を持て、というのは、出世にかかわらずとも、大切な教えであるように思います。
氏の担当講座はスタンフォードでも大人気とのこと。村井章子さんの、明瞭でテンポ良く読みやすい訳文とともに、お楽しみいただけると嬉しいです。

(雨宮百子)

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