高すぎる ワイモバイルのAndroid One
戸田覚のPC進化論
ワイモバイルがAndroid Oneブランドのスマートフォン(スマホ)「507SH」を発売した。日本では初登場のOSなのだが、これまでのAndroidとは何が違うのだろうか。
Android Oneは、グーグルがメーカーと協力して開発するスマホのブランドで、いち早く最新バージョンのAndroidにアップデートできることがコンセプトとなっている。開発元であるグーグルは、発売後18カ月間で最低1回のメジャーアップデートと、発売から最低2年間までの毎月のセキュリティーアップデートを保証するとのことだ。一方で、ハードの開発や販売までグーグルがかかわる「Nexus」シリーズとは違い、ハードはメーカーが工夫して独自の機能を搭載できる。
ワイモバイルは手ごろな料金で使える一方、量販店などに店舗を構えているため、「格安SIMは不安」というユーザーの支持を得ている。このモデルも、スマホ初心者に注目されると思われるが、実際に初心者向けかと考えると少々疑問が残る。日本市場でこんなサービスに魅力を感じるのは、初心者ではなくテッキーなユーザーだろう。
ワイモバイルのウェブサイトを見ると「選りすぐりのGoogleアプリをプリイン」と書いてある。アプリもグーグルのものを中心に厳選し、シンプルさを極めているわけで、この点でも初心者向きとは言えない。Y!mobileオンラインストアでの価格は新規、一括払いで税込み5万1948円(8月29日時点)。果たして、新しいスマホとして人気を博すことはできるのだろうか?
外観は悪くないが太いベゼルが気に入らない
さっそく本体から見ていこう。液晶は5型と、最近のスマホとしてはコンパクトなサイズで持ちやすい。デザインもスッキリしており、本体の前後のガラスは角がアールを描いているので手触りがいい。
ただ、本体は8.8mmと厚く、外観に目立つポイントがないため、ちょっと野暮ったい印象を受ける。安っぽさは感じられないが、高級モデルとも思えないといったところだ。最大の特徴が「Android One」のロゴだというのは少々残念である。
しばらく使ってみて何となく違和感を覚えたのは"腰が高い"からだろう。下の写真を見ていただけると分かるが、本体に対して画面がかなり上に位置しており、しかもボタンは画面上に配置されている。つまり、本体下の広いベゼルがまったく機能していない。そのためボタンの位置に違和感を覚えたわけだ。この位置のほうが押しやすいという人もいるだろうが、他のスマホに慣れていると使いづらい。また、太いベゼルは見た目にも不格好だ。
防水やワンセグよりおサイフケータイが欲しかった
507SHはシャープ製の端末だけに、国産モデルらしい特徴を備えている。防水とワンセグだ。防水はキャップレスと称されているが、それはmicroUSB端子とイヤホンジャックだけ。カードスロットにはしっかりとキャップが付いているので、売り文句と合っていない。
防水とワンセグ、どちらも便利な機能なのだが、それだけで選ばれるほど魅力があるわけではないだろう。フィーチャーフォンや古いスマホからの買い換え用として存在感を発揮したいなら、おサイフケータイを搭載してほしかったと思う。
また、指紋センサーなどは搭載せず、無線LANもIEEE 802.11acに対応していないなど、機能をチェックしていくとエントリークラスに近い。
CPUはSnapdragon 617で、そのパフォーマンスもウリになっているが、ベンチマークの値はエントリークラススコアだった。ただし、実際に操作してみて遅いと感じることはなかったので、参考程度にとどめてほしい。
カメラはいいが液晶が残念すぎる
507SHのカメラは1310万画素だ。さっそくGalaxy S7 edgeと比較してみたが、"何とか合格"といったところだろう。高級機であるGalaxy S7 edgeの写真のほうが美しいのは当然だが、507SHの写真も十分なクオリティーで、スマホのカメラとして問題ないといえる。
ただ、撮影時のプレビューや写真の表示が美しくないのは気になった。解像度が低いからか、画像に"切れ"が感じられないのだ。シャープ独自のIGZOとはいえ、有機ELが登場した今となっては、1280×720ピクセル程度のHD液晶ではまったく魅力を感じない。
液晶の美しさがウリのシャープ製ということで、もっと高解像度で美しい画像を期待していただけにちょっと拍子抜けだ。
Android Oneの魅力は何なのか?
最近のAndroidは、バージョンが上がっても機能的にはあまり変わらない。いまどきアップデートを心待ちしているのは一部の好事家だけだろう。購入したときのバージョンで問題なく使えればそれでいいと考えるほうが一般的だと思う。アップデートによってアプリが利用できなくなる可能性もあるので、エントリーユーザーは少し様子を見てからアップデートするか、特に不満がないなら使っているバーションを継続したほうが無難だ。
セキュリティーが毎月アップデートされるのは魅力だが、そもそもキャリアで販売される端末には無料のセキュリティーアプリがプリインストールされていることもある。どちらが良いかは微妙なところだ。
また、グーグルのアプリがプリインストールされていることが魅力のように思うかもしれないが、それらはどれも無料で手に入るので、特徴とはいえない。特徴とうたうからには、独自の使いやすいアプリをそろえてこそだろう。
個人的には、無駄なアプリのない端末に最新のOSを搭載するモデルがあってもいいと思う。だが、その場合はターゲットが上級者に絞られるだけに、コストパフォーマンスを徹底的に上げる必要があるとも思う。格安モデルにするという意味ではなく、スペックの割に安くするということだ。507SHのスペックで5万円超というのはどう考えても高すぎる。あと3000円も追加すれば、ファーウェイの「P9」が買えてしまうじゃないか。ほとんど素の端末なのだから、半額以下が妥当なところだろう。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2016年7月21日付の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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