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リーダーのマネジメント論

「私の後継者は不要」ワークス創業者のベンチャー観 ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏

2016/8/30

 東京大学やインド工科大学などアジアの名門大学から新卒が続々入社するソフトウエア会社のワークスアプリケーションズ(東京・港)。最高経営責任者(CEO)の牧野正幸氏の究極の目標は、人工知能(AI)を活用し、ビジネスパーソンをパソコンから解放することだという。ワークスの今後について牧野氏に聞いた。

5年後、10年後の未来は

 ――ワークスアプリケーションズは将来、どんな姿を目指していますか。

 「今、我々がコンピューターにさわる時間はどんどん長くなっています。その時間をゼロに近づけることが目標です。いわゆるルーチンの業務は、人間の仕事からなくなっていません。それどころか、増えている印象さえあります。これを減らし、空いた時間は『考える』ことに回す。営業部門でも管理部門でも考えたいことはいっぱいあるのです。たとえば人事部なら、社員の最適な配置だったり、優秀な人材を集めるための新しい施策だったり。しかし、日常業務が忙しすぎて、処理を回すことで精いっぱいになってしまいます。我々の目標は、それをいかになくすかということです」

 「2015年、人工知能(AI)を活用した次世代型の統合基幹業務システム(ERP)ソフト『HUE(ヒュー)』を開発しました。人間の業務そのものを人工知能が行う、というのは世界で初めてでした。日本が初、というのはソフトウエアの世界では非常に珍しいことです。文章の語尾を人工知能が直す、というしくみは元からありますが、伝票を自動的に起票してくれる、というような人の仕事を機械が勝手にやってくれるような概念はありませんでした。この製品は、世界中からもっとも優秀な人を集めて開発し、世界中で広げていかなければならない」

ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏

 ――牧野さんの頭のなかで、AIを使った取り組みの広がりは、将来に向けた絵ができているのですね。

 「そうです。今我々は、業務を人工知能化する、という分野でトップにいます。5年後、10年後という意味ではできる限り早く人間の業務を人工知能化していきたい。今、世界中のコンピューターサイエンスの専門家や、データ分析のスペシャリストを集めていますが、最先端の企業として、日本よりもむしろ世界で有名になれると思います」

 「人工知能があれば、ほとんどの日常業務、考える業務以外は自動化できます。『これは自分で考えないとできない』と思っていることも、実はその多くは定型化されているため、自動化できます。たとえば採用の基準。これまでの採用データを分析すると、たいていは一定のルールやパターンを見出すことができます。本当の意味で『考える』というのは、何かのヒントを得ながらこうなんじゃないか、ああなんじゃないか、と考えること。これが人間の仕事です」

後継者は「いらない」

 ――今、トップが「次の後継者をどうするか」という問題について注目が集まっています。

 「本当によく聞かれますね(笑)。私は、極論をいうと後継者はいらないと思います。企業として後継者がいないと困る理由はたったひとつ、顧客への責任です。『後継者がいなくて会社がなくなりました、そのため製品もなくなりました』なんていうのは困ります。顧客に対して継続的に製品なりサービスなりを供給し続けられる、というのが絶対的な条件です。それが成立するならば、後継者はむしろいらない。イノベーションはいらない。もし私が引退して次の後継者を選ぶとしたら、ポイントはサステナビリティな経営です」

 「イノベーションを起こすのなら、別の会社を立ち上げるべきです。私の考え方ですが、創業者がいる間だけがベンチャーです。イノベーションは、創業経営者しか起こせないと思う。創業経営者であれば全権を持っているし、何でもできるからです。創業経営者の次の代がイノベーションを起こすのは、難易度が高い。絶対に今の業績は守らなければならないし、創業者が育ててきた人が全員敵になる可能性が出ます。牧野さんだったらこうした、とかいいだしかねません。だから、イノベーションを起こすなら、別の会社を立ち上げたほうがいい。イノベーターを企業が抱え込んではいけない」

■経営者のマラソンブームは……

 ――経営者のなかでもマラソンやトライアスロンが流行っているようです。なかでも牧野さんは、トライアスロンを始め熱心な一人だという印象です。

 「本当に増えていますよね。あまりに増えたので、やめました。むしろやりすぎだ、と怒ったことがあります。後輩の経営者の集まりで『今週末も多摩川で50キロ走った』とか話しているので、『お前らトライアスロンなんかしないで仕事しろ!』と(笑)。健康維持のレベルならいいと思いますが、それを超えてまでやるなら、何のためにやってるのか、という話ですよね。流行っているからやる時点でダメです。私たちがトライアスロンをやっていた10数年前は、誰もやっていませんでしたよ」

 「トライアスロンで経営につながったことはあるのか、とよく聞かれます。そんなのないですよ。ただ1つあるのは、『自分一人がやった』と自慢できることです。経営って、一人でやっているわけじゃないし自慢できないものです。9割以上は社員がやった仕事で、社員がいなければ成り立たない。『この手柄は俺様のおかげでうまくいった』なんて思えない。しかしトライアスロンは自分の力だけでゴールしたといえるから、自慢できる。視野を広く見れば見るほどわかりますが、経営者が自分でできることはごくわずかです」

牧野正幸氏(まきの・まさゆき)
建設会社などを経て1996年にワークスアプリケーションズを設立。中央教育審議会委員も務める。兵庫県出身。53歳

(松本千恵)

 前回掲載「『中途エンジニアはいらない』ワークスの人材論」、前々回「なぜ東大生はワークスアプリに集まるのか」では、独自の人材採用・育成論について聞きました。

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

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