次世代にとってのベスト、問い続ける 羽入佐和子さん
国立国会図書館館長(キャリアの扉)
4月に国立国会図書館の館長に就任すると早速、若手職員300人と同館の将来像を語り合った。「次の世代にとって何がベストか」を考える姿には20年以上、未来を担う学生と接してきた教育者としての顔がのぞく。
可能性を広げることで、予想もしなかった出会いがあるかもしれない――。大学、大学院と哲学を学んだお茶の水女子大。内定を得た公務員ではなく、将来が保証されているわけではない研究の道を選んだ。
母校で教員の職を得ると、「学生のために何ができるか」。副学長、学長としてマネジメントに携わるようになると、「大学のため、日本の教育の将来のために何ができるか」と、立場とともに意識も変化していった。
2009年から6年間務めた学長時代は、国立大が法人化して間もない時期。学部や研究科の利害の枠を超え、もともと少ない職員で効率的に業務がこなせるよう組織改革に取り組んだ。
一貫しているのは、できるだけ多くの視点からものごとを見つめて決断すること。過去の経験や実績にとらわれすぎずに「先を見通し、組織の将来像を描く」トップとしての姿勢は組織が変わっても守り続けている。
議員の調査研究のため、国会の補佐機関として存在する唯一の図書館のトップ。大学付属図書館長を務めた経験などを買われて打診され、「組織運営に携わってきた経験が役立てられたら」と新しい世界に飛び込んだ。
年間4万件の国会対応をする約880人の職員のうち、半数は女性。管理職比率が3割を超えるのは「女性が働きやすい職場だから」と女性活躍推進のモデルとして、発信できると考えている。 好きな本に「神々の夕映え」(渡辺淳一著)と「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー著)を挙げる。共通するのは「生きていくこととは何だろう」と問いかけられること。「この年になっても答えは出ない」と穏やかな笑みを浮かべる。
女性で初めての館長として就任した国会図書館は、2年後に設立70年を迎える"同い年"。100周年をどのような姿で迎えるか。これからも利用者や職員の声に耳を傾け、理想の姿を探っていく。
(横沢太郎)
〔日本経済新聞朝刊2016年8月27日付〕
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