夏休みの自由研究にも 立体物「描ける」ペン
5万円を切る製品も徐々に増え、個人でも購入できるようになってきた3Dプリンター。趣味で模型や小物を作るのに使う人もいるという。とはいえ、「ちょっと試してみたい」という人が手を出すには価格が高い。専用ソフトを扱う知識も必要で、まだまだハードルが高いと言えるだろう。
そこで今回試してみたのが、3Dプリンターメーカーの台湾・XYZプリンティングが2016年7月に発売した「ダヴィンチ 3Dペン」。同年5月のComputex Taipei 2016で同社が発表したときは、多くの来場者が代わる代わる試していた。素材となる樹脂(フィラメント)をペンに挿し込むと、ペンの中で加熱され、ペン先から溶けた水あめのような状態で出てくる。この樹脂でいろいろな形を作り、固まれば立体物になるという工作用の製品だ。ペンで"描く"感覚で立体物を作れる……これならちょっとした根気さえあればできるのではないか。しかも価格は税込みで6480円と手頃。アマゾンや楽天市場などの通販サイトや家電量販店でも手に入る。
結論からいうと、普段は造形などしたことのない筆者でも十分に"創作"を楽しめ、不思議なほど時間を忘れて没頭できた。工作好きの大人はもちろん、子どもの自由研究などにもピッタリだ。そこで、この製品を初めて使った楽しさと、確実にぶつかる戸惑い、上手に作るコツなど、発見したことをお伝えしたい。
"小さなゴール"を目指す
さて、何から作ろうか? 工作や造形の類はほとんどしたことがない筆者は当初迷った。フィギュア作りが趣味の編集Hの助言は「ゴールは小さく」。最初から大きな作品を目指すと、途中でうまくいかなくなったときに軌道修正が難しく、挫折する可能性が高いという。「小ぶりな作品から始めた方がいいですよ」(編集H)。コツコツ、小さなゴールを積み重ねていくのが良さそうだ。
そこで、まずは身近なアルファベットから作ってみることにした。大きさは2~3cmくらい。これならゴールが明確だし、望みも高すぎないだろう。アルファベットは自分の頭文字「R」に決めた。
ダヴィンチ 3Dペンには、「ロード」「アンロード」ボタンの2つがあるのみ。電源につなぎ、どちらかのボタンを押すと、赤ランプが点滅して加熱が始まる。
早くも挫折?フィラメントが出てこない
フィラメントを挿し込み、再度、「ロード」ボタンを押すと、ペンに内蔵されたモーターがフィラメントを送り出し始める。内部でモーターが回っている音を聞きながらしばし待つ……が、何も出てこない。早くも頓挫か? 説明書を見ると、「フィラメントの装填には約1分待つ」とある。結構長いが、慌てず待たねばならない。
待っていると突然、溶けたアメのようなフィラメントが出てくる。フィラメントの出し方は、ロードボタンを押している間だけ出てくるモードと、ボタンを2度押すことで、止めるまでずっと出続けるモードがある。どちらも一定の速度で出てくるため、出てきてからは思いのほか余裕がない。集中して「R」の輪郭をなぞり、輪郭の間を線で埋めた。
最初は戸惑ったものの、「R」を作るのは簡単だった。おお~! 樹脂なので光の透ける感じが良い。透け感を堪能しようと、2枚作り、つないで立体に仕立てることにした。が、つなぐのは思ったより難しかった。溶けた樹脂は軟らかいので、線を垂直に伸ばしにくい。
詰まったら渾身の力が必要だ
面倒だったのは、フィラメントの色を交換するとき。フィラメントをパッと引っこ抜くことはできない。出すにも入れるにも、フィラメントを送り出すモーターの速度任せだ。せっかちな人は、1色でできるデザインにするのがいい。また、一休みしていると、ペン先が固まるせいか、フィラメントがスムーズに送り出せなくなる。フィラメントは、ペン先が熱いうちに交換するべし!
また、フィラメントが詰まってしまい、どうしても出てこなくなることが1回あった。そのときは、説明書にしたがって、針金でできた付属のクリーニングツールを挿し込み、ノズルの詰まりを取り除く。だがその際、女性の筆者は渾身の力を込めねばならなかった。ペンを開けてみてみると分かるが、フィラメントを送るガイドチューブはモーターをよけるため曲がっているのだ。そこにまっすぐのクリーニングツールを通すには、常ならぬ力が必要だ。この点は、今後ぜひ改善してほしい。もしくは、簡単にできるコツがあればぜひ教えてほしい。
立体といえば動物、犬を作ろう
要領が分かってきたところで、今度はもっと立体的なものを作ってみたい。試みたのは、「木」と「犬」。「木」は、土台として幹と枝を作り、平面の葉っぱを接着してみる。「犬」は、全体の中で最も大きい胴体の形から作り、頭や足を接着しようと考えた。
土台となる幹は、ソフトクリームをグルグルする感覚で作った。丁寧にさえ作れば、意外にしっかりと立ってくれる。問題になるのは、幹から枝を生やすとき。冷えて固まるまで、フィラメントは軟らかいので、まっすぐ立てにくい。役に立ったのは、つまようじとハサミだ。つまようじはフィラメントが固まるまで支えられるし、ペン先が汚れたらぬぐったりもできる。ハサミは樹脂のせん定用に使う。軟らかいフィラメントは、もやしのひげ根のように糸を引いてくる。放置すると糸があちこちに絡んでクモの巣のようになるので、ハサミでこまめに切るときれいに仕上がった。
葉っぱは簡単。何も考えず、樹脂を混ぜるようにペン先をグチャグチャ動かするだけで、表面に立体感が出る。1枚できたら、葉っぱと同じ色の樹脂で枝に接着した。
犬も同様に、胴体、頭、脚、しっぽというようにパーツを作って接着した。このとき思ったのは、ペン先を加熱してフィラメントを溶かすだけの「はんだごて」機能があると便利かも、ということ。フィラメントを重ね付けするとダマになることがあるので、注意が必要だ。
絵心がなくても下絵をなぞればOK
慣れてくると、欲が出てくる。「もっと作品っぽいものを、美しい模様があるものを作りたい!」と思い始めた。ただ、筆者には絵心がない……。
救いとなったのが、下絵を描いてなぞる方法だ。蝶のような複雑な模様でも、写真などにクッキングペーパーやトレーシングペーパーを重ねてなぞれば、簡単に下絵ができた。この上に、透明のガラスやプラスチックの板をおいてなぞる。筆者が活用したのは、透明なCDのプラスチックケース。どの家庭にも、一つや二つ余っているだろう。線をなぞっているときは、軟らかくなったフィラメントがくっついて安定しやすく、乾いたらペリッとはがれる。
ちなみに、ペン先から出てくる樹脂はロードボタンをもう一度押せば止まるが、スパッとデジタルな動きで止まるわけではない。金魚のフンのように、切れの悪いフィラメントが少し出てきて変な形で固まることがある。さっきも活用したつまようじでぬぐうと、きれいにとれた。
蝶は羽や触覚などそれぞれのパーツを作って最後につなぎ合わせた。鳥は、胴体と羽それぞれに、枠線を描いた後、フィラメントの色を変えながら中を塗りつぶしていく。最後に胴体と羽を接着して完成! これはかなり作品っぽい! なかなかの達成感があった。
実はシンプルな形ほど難しい
いろいろな作品を作ってみて気づいたのは、シンプルな形ほど実は難しいということ。最初は立方体やピラミッド形、文字なども作ってみたのだが、シンプルな形ほど線がゆがんでしまう。「HappyBirthday」などクリームを絞り慣れているパティシエなら、初めてでも上手にできるのかもしれないが……。
逆に最も簡単で、達成感が感じられたのは、下絵をなぞって作るやり方。樹脂の透明感を生かして、雪の結晶などをモチーフにしたモビールなど映えるかもしれない。
ただ、細かい模様を描くときは、「愛犬が匂いをかぎに寄ってきた」「わき腹がかゆい」など、一瞬でも気がそれると、フィラメントで描く線の太さや形状が変わってしまうので、集中力が必要。でも、だからこそ積極的に無心の時間を楽しめた。できあがるのは、自分だけの"一瞬の芸術"だ。
なお、付属のフィラメントは3色×1mのセット。何を作るかにもよるが、おそらく、お試し程度の量しかない。別売りの、6色が12mずつ入ったセット(税込み2180円)を買っておくといいだろう。残量を気にせず、自由に創作を楽しめる。
最後に、注意点が2つ。フィラメントに使われているPLA樹脂自体は植物が原料のプラスチックで無害だが、私は樹脂の溶ける臭いが苦手なために、数時間作業を続けたら頭が痛くなった。マスクをしたら軽減されたので、気になる人はマスクを用意しておくのがおすすめ。また使用中はペン先が熱くなるため、やけどに注意してほしい。
(ライター 越智理奈)
[日経トレンディネット 2016年8月16日付の記事を再構成]
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