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転職して初めて気づく「大企業病」5つの症状 ミドル世代専門転職コンサルタント 黒田真行

2016/8/12

大手から中小企業に転職した方々とお会いしていると、長年、同質化した高効率集団で働いてきた方が感じる、異質異能集団やトップダウン型組織でのストレスや居心地の悪さを非常によく耳にしますが、上記のような構造的な環境の落差によるものが大きいようです。

求人票に記載された「職務」や「ポジション」「年収」「勤務時間」などの情報だけではつかみきれない罠が、こんなところに隠れています。住み慣れた世界から新しい環境に入ると、居心地の悪さを感じるのは当然ですし、どんな大企業であっても、もともと創業期は中小企業であったはずだと考えると、これは決して「良しあし」の問題ではなく、企業に成長ステージのギャップによって生じる構造課題です。事前にある程度情報収集するか、事前にギャップを想定しておくしか解決策はないのではないかと考えています。

3.「戦略レイヤー」のギャップ

事業運営上のタームで「戦略」という戦争用語由来の言葉が頻繁に使われていますが、まさにここにもギャップがあります。

大企業における戦略は、マクロかつ長期的な計画に基づくものが多く、まさに超大国の参謀本部が使用する「戦略」に似ています。逆に、中小企業やベンチャー企業が用いる戦略は、ニッチなセグメントや特定領域に一点突破で使われるケースが多く、小国の軍隊やゲリラ部隊が使う場合に似てくるのではないかと思います。

大企業出身者には「それは戦略ではなく戦術なんじゃないか?」と見えることであっても、単にレイヤーが異なるだけで、中小企業にとっては堂々たる戦略として機能していることも多々あります。大手企業出身者に起こりやすいのが、このレイヤーのギャップによる悲劇です。そもそも兵力(要員数や武器=開発力、販促費や広告宣伝費)がまったく異なる組織において、従来型の戦い方や過去の成功体験にこだわってしまうと、勝てる戦いにも負けてしまうということも起こります。

「転職直後に一気にシェアを勝ち取るために社長に直談判して、20人を採用して営業組織の拡大をしたが、あっという間に市況が変わり、部下をリストラして自分も退職することになりました。あれは大企業時代のパワーゲームのロジックを持ちだした私の失敗です」

率直に自分の非を認められたBさん(42歳)は、大手通信機メーカーから同業の中堅企業に営業本部長として転職され、一時的に業績を急拡大したものの撤退を余儀なくされた経験を持つ方でした。ひとくちに戦略といっても、企業規模が小さいほど、戦況、兵力によって目まぐるしく変化するため、教科書通りの「理想論」や「あるべき論」が通用しない、必要とされないという現状になりやすいのだと痛感します。

また、大企業出身者でごくまれに、“無意識のうちに”大きな予算や大人数の要員を動かす戦略が“優位”で、規模の小さな組織の戦略は“劣位”だという錯覚を持っている方がおられます。「戦略の粒度・影響度」と「戦略の質の優劣」はそもそも無関係ですし、もちろんそれで転職がうまく運ぶケースは少なく、論外のパターンです。

4.「相場情報」の乖離(かいり)

転職市場において、企業規模の違いによる条件のギャップは、かなり大きく存在しています。ある大手ハウスメーカーで建築資材の購買部門の次長をしておられた50歳の方とお会いしたとき、「早期退職制度を利用して転職を考えているが、年収が2割から3割くらいはダウンしても仕方がないと思っています。現在の年収は約1500万円です」というお話がありました。

ご本人からすると、確かにかなり思い切って譲歩した条件で、それによっていくらか選択肢は広がるのですが、1500万円の年収から3割ダウンの金額は1050万円。しかし中小企業観点で言えば、資材購買の責任者に年収1000万円以上の報酬を支払える会社はきわめてまれで、「取締役でも年収800万円なのにとんでもない」と言われるようなケースが非常に多いのが実情です。

大手企業出身者が限界ギリギリまで譲歩したはずの年収は、中小企業経営者にとっては想定年収の2倍に相当するというくらい相場の乖離は激しいと思っておいてよいでしょう。ただ、年収額によって変化が激しい所得税率を考えると、実際の可処分所得は、額面年収のギャップよりかなり小さくなるので、もし、今後そういう場面に直面した場合は、所得税などを差し引いた可処分所得で検討していただくのも一策だと思います。

5.「自己信頼」のゆらぎ

最後のギャップは自己信頼のゆらぎです。

大企業を初めて一歩出たときには、やや過剰気味に自信を持っていた方が、転職の失敗を経験した後に、逆ブレして必要以上の自信喪失に陥ることがあります。同質の価値観を持つ集団の中で、自分の市場価値の座標や仕事の進め方についての常識が安定していた時間が長かったほど、想定外のことだらけの体験が続くと混乱を招き、方位磁石に狂いが生じる可能性が高いようです。しかし、それは大企業というシールドの堅牢さやそこに滞在した時間から考えると誰にでも起こりうるリスクでもあります。

挫折感を感じることがあったとしても、必要以上に自分を責めたり自信を喪失したりしてしまうと、意思決定の基準がぶれ、また別の失敗を招いてしまう原因になってしまうことにもなりかねません。もし企業規模の違いによるギャップを体感することになった場合には、ぜひ冷静にその乖離度合いや原因を分析し、次の前向きなチャレンジにつなげていただきたいと思います。優秀な人材が多いゆえに同世代競争も激しく、成功しても失敗しても影響度が大きいぶん、絶えず重大な責任にさらされてきたことが、大企業で働いてきた方が持っているタフさです。

同じような体験を持つ友人・知人や、信頼できる転職エージェントなど、客観的な情報を多く集め、それを材料により満足度の高いセカンドキャリアを自ら切り開いていただきたいと考えています。

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役
ミドル世代の適正なマッチングをテーマに、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営している。1965年生まれ、兵庫県出身。1989年、関西大学法学部卒業、株式会社リクルート入社。2006年から13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。13年リクルートドクターズキャリア取締役・リクルートエージェント企画グループGMを兼務した後、14年ルーセントドアーズ株式会社を設立。
35歳以上の転職支援サービス「Career Release40」
http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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