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怒りやすい人は病気になりやすい? 「怒り」の感情をプラスに好転させる方法

日経Gooday

2016/8/1

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

現代社会はストレスがいっぱいだ。身勝手な上司や話が通じない部下、思い通りにいかない子育てなど“イライラ”の種はあらゆるところにある。物事が思い通りにいかないと「怒り」につながる。そして怒ってしまった自分に落ち込む。「こんな悪いサイクルから脱したい」――そう思っている人は多いだろう。ただ思いに任せて「怒る」のは、百害あって一利なし。最近の研究では、怒りっぽい人は病気になりやすいという研究結果も出ている。「怒り」を上手にマネジメントする方法を紹介しよう。

「混雑している電車内で、スマホの画面に見入っていて乗降者の流れを邪魔している人にイラッとした」「昼食を食べに入った店で、店員のぶっきらぼうな応対にカチンときた」「子どもの言動に、親である自分のほうがキレそうになった」――そんなふうに、職場や家庭などシチュエーションを問わず、あらゆる場面で「怒りっぽくなったな」と感じる機会が増えていないだろうか。

近年、鉄道で駅員に対する暴力行為が社会問題となっているのは周知の通り。タクシーでも、無理な要求を迫って運転手を罵倒したりすることが問題になっている。

実際、現代社会は「怒り」の種がいっぱいある。会社での仕事でも、人手不足で仕事量は増える一方だというのに、身勝手な上司や話が通じない部下に振り回される……などとなるとストレスがたまる。物事が思い通りにいかないと、ついやり場のない「怒り」につながってしまう。そして思いに任せて怒ってしまう自分に落ち込む――。

「こんな悪いサイクルから脱したい――」。そう思っている人は多いのではないだろうか。ただ思いに任せて「怒る」のは、周囲にも自分にとってもいいことはない。しかも、最近の研究では、怒りっぽい人は病気になりやすいという研究結果も出ているという。ここでは、「怒り」を上手にマネジメントする方法を紹介する。

まずは、米国発祥の「怒りの感情をコントロールする」トレーニング法である「アンガーマネジメント」の考え方を学び、怒りと上手に付き合う方法を紹介していく。

◇   ◇

■「怒り」はとても身近で「やっかいな」感情

「『怒り』という感情は、とても身近な感情ですが、扱いがとてもやっかいです。『喜怒哀楽』という感情のうち、扱い方を誤ると最も害のある感情が『怒り』です」

日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんはこう説明する。アンガーマネジメントとは「怒りの感情と上手に付き合うためのトレーニング」のこと。怒りというネガティブな感情をうまくコントロールして、感情を癒したりポジティブな方向に持っていけるようにするための手法だ。1970年代にアメリカで開発された手法で、最近では企業で社員教育などに導入されるケースが増えている。

「『悲しみ』や『怒り』はマイナスの感情で自分自身を苦しめますが、『怒り』は『悲しみ』と違って、他人を巻き込む『攻撃性』があります。相手を怒鳴ったり、子どもに当たったりするといった、他人を攻撃する行動に出やすいのです。駅員などへの暴力が問題になっているように、場合によっては犯罪に到るケースもあります。それなのに、多くの人は自分の怒りについてよく分かっていません。『怒り』の感情をコントロールせず、人とぶつかったりしていては、仕事にも支障がでます」

「重要なのは、怒らないことではありません。私自身もそうですが、ささいなことでつい怒りを感じてしまいます。怒りは感じてもいいのです。『怒らなくてもいいことは怒らない』『怒る場合も表現方法や場所を選ぶ』といった怒りのマネジメントが必要なのです。最近では、怒りっぽい人は脳卒中などのリスクが高くなるといった研究結果(次ページ参照)も出ていますから、健康面でも怒りのコントロールは大切といえるでしょう」(安藤さん)

■現代人が怒りやすくなっている背景とは?

多くの人は、できれば「怒りたくない」と思っていると思う。しかし、前ページで触れたように、現代社会はストレスの種がいっぱいある。ささいなことから「怒り」が発生しやすい環境にあるのだ。安藤さんも、「現代社会は、イライラしやすい環境にあるのは確かでしょう。そうなっている要因には大きく3つあります」と話す。

《「忙しさ」が増している》

現代人が「忙しくなっている」ことが、怒りが発生しやすい要因となっている。少子高齢化で人材難の今の時代、職場では少ない人数で多くの仕事をこなす生産性が求められている。「人は減っているのに、仕事は減るどころか増えている」などという職場も珍しくないのではないだろうか。そして、「仕事」だけでなく、子育てや介護もこなさなければならない、となると休まる暇がない。こうした背景による「忙しさ」は、怒りを生みやすい。

《利便性の進化》

「便利さが進んでいくと、人はイライラしやすくなります。便利だからこそイライラするのです」(安藤さん)。確かに、現代社会は、スマホに代表されるように、さまざまな分野で便利な世の中になり、「効率よくできて当たり前」の時代になった。そんな環境だからこそ、当たり前にできることが、なんらかの事情によりできなくなると「なぜ、そんなこともできないのか」と怒りを感じるようになる。

今ほど便利ではなかった時代と比べてみると理解しやすい。「もしも、待ち合わせをするとき、携帯電話を使えなかったら?」「もしも、銀行の営業時間外にお金の入出金をしたいとき、コンビニエンスストアにATM機能がなかったら?」というように、むしろ便利になった後のほうが、それらがないと不都合を痛感してイライラしやすくなるわけだ。

《価値観の多様化》

「自分が信じていることを裏切られたとき、私たちは怒りを感じます。『こうあるべき』と信じてきた価値観が覆されると、それを受け入れることができずに、怒りを感じてしまうのです。現代社会の価値観の多様化も怒りを生みやすい背景の一つです」(安藤さん)

例えば、ビジネスパーソンの場合、ひと昔前までは、「会社の飲み会は、特別な用事がない限り出席するもの」「上司がいるうちは帰るべきではない」「一度、就職したら、定年まで同じ会社で勤め上げるもの」といった一律の価値観を多くの人が共有していた。

ところが、最近は個人的な価値観を主張する自由さがあり、昔のスタンダードを押しつけられる機会も少なくなった。時代の変化にともない価値観が多様化していくことは悪いことではないが、それらに対応できない人ほどイライラがつのり、小さなことでも「怒り」として爆発しやすくなる傾向がある。

■シニア、若者、それぞれ「怒りやすくなる」理由がある

一般に「年齢を重ねると怒りっぽくなる」と言われる。その一方で「キレる若者」が問題になっているように、怒りをコントロールできない若者も増えているともいわれる。安藤さんは、「年齢や世代によって、怒りにつながる理由がそれぞれあります」と話す。

60代以上のリタイア後の世代の場合、「『経済的に豊かになっていると思っていたのに現実は違っていて、それほど余裕があるわけではない』『もっと世の中から大切に扱われていいはずの年代なのに、思ったほど大事にされていない』という理想と現実とのギャップがあって、やり場のない怒りを抱えているケースが少なくない」(安藤さん)

一方、子供や10代などの若者世代の場合、言語の表現能力の低下が「怒り」を増やしている要因の一つになっていると安藤さんは説明する。

「今は、スマホなどのデジタルデバイスを使えば、スタンプや絵文字だけでも会話ができる時代になっています。つまり、言葉を使って自分の気持ちを相手に伝える機会が減っているのです。こういった環境に慣れてしまうと、コミュニケーション能力が落ち、感情の行き違いも生じやすくなります。言語の表現能力が低いと怒ったときに大きな声を出しがちになります。表現能力があれば、適切な言葉を選んで伝えられるわけですが、それができずに大声を出してしまうのです。極端なケースでは手を出してしまいます」(安藤さん)

■怒ることは精神面だけでなく、健康面にもダメージを与える

このように、私たちは、昔と比べて怒りやすくなる環境で暮らしている。ささいなことで怒ってしまった場合、「なぜ、あんなことで怒ってしまったのだろう」「こうなるなら、怒るんじゃなかった」などと、自己嫌悪や後悔で頭を悩ませたり、落ち込んだりすることも少なくない。

驚くべきことに、怒ることは精神面だけでなく、健康面にもダメージを与えることが最近の研究で明らかになってきている。

「米国立老化研究所の研究で、『競争心が強く攻撃的な性格の人は、心臓発作や脳卒中のリスクが高い』という結果がでています」(安藤さん)。米国立老化研究所は、イタリアのサルディーニャ島の14~92歳の5614人の男女を対象に性格テストを行った。その結果により「怒りっぽい」グループと「温厚・寛容」グループの2つに分け、それぞれ調査したところ、「怒りっぽい」グループのほうが「温厚・寛容」グループよりも、心臓発作や脳卒中を引き起こす頸(けい)動脈肥厚が多くみられた(出典=Hypertension;2010:56(4),612-622.)。

国内でも大阪府立健康科学センターの研究で、怒りを内にためやすい人は高血圧症リスクが高くなるという疫学研究結果が報告されている。秋田、茨城、大阪、高知の4地域の住民を対象に、高血圧者4970人を4年間追跡調査した結果、男性では怒りを内にためることが高血圧発症リスクを1.5倍高めるという(出典=心身医学;2004:44(5), 335-341.)。

また、昨年3月には、米ウォールストリートジャーナルが「怒りの感情は、心臓発作を起こすリスクを通常より8.5倍も高める」という研究結果を報じている。この記事によると、オーストラリアの急性心血管診療所が、心臓発作を起こした300人以上の患者を対象に、発作が起こる前の48時間に「なんらかの怒りの感情を経験していたかどうか」を質問した。その結果、激しい怒りの感情を経験した人は、2時間以内に心臓発作を起こすリスクが通常よりも8.5倍も高いことがわかったという。

このように、「怒り」に振り回されていると、我々の「健康」面においてもマイナスになる可能性が高いわけだ。

■「怒り」の感情をプラスに好転させる

「怒り」の感情は、マイナスの部分だけでなく、実は、物事をプラスに好転させるきっかけになる可能性もある。そのキーワードとなるのが、「アンガーマネジメント」という考え方だ。

アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うためのトレーニングのこと。「怒らなくなる」ことを目的にするのではなく、「怒りの感情とうまく折り合いをつけていくための考え方の習慣付け」であり、アンガーマネジメントを学ぶことで、自分の怒りを理解し、怒りの感情とうまくつきあい、ポジティブな考えを生みだすことにつなげようというものだ。

「最近では、怒りの感情は発奮材料にもなり、モチベーションを上げるエネルギーとなり得るということから、プロのアスリートもトレーニングの一環として取り入れるケースが増えています。例えば、テニスの世界的トッププレーヤーとして名高いロジャー・フェデラー選手も1990年代の後半からアンガーマネジメントを学んでいます」と安藤さんは話す。

かつてのフェデラー選手は、ミスショットをしてしまった後は自分のラケットを投げて激高するなど、明らかに怒りの感情をコントロールできないケースが目立った。その後、メンタルトレーニングとしてアンガーマネジメントを学び、プレー中に湧く強い怒りの感情を、みずからを鼓舞させるエネルギーに変えることができるようになっていったといわれる。その後、4大大会で多くのタイトルを何度も手にしているフェデラーの活躍ぶりは周知の通りだ。

こうした効果のため、アメリカのプロスポーツの世界では積極的にアンガーマネジメントを取り入れているという。「例えば、アメリカンフットボール(NFL)では新人選手にアンガーマネジメントの受講が義務付けられています」(安藤さん)

■怒りには5つの性質がある

アンガーマネジメントは、スポーツ選手ばかりが対象ではない。前述したように、日本でも社員教育に導入する企業が増えている。怒りの感情によって時間や労力を浪費するのを防ぎ、職場の人間関係をよくしてチーム力を高めようという狙いだ。

「怒りっぽい上司のもとでは、部下は委縮していまい、能力を発揮する機会を失ってしまいます。そういった上司の下ではチームで結果を出すことはできませんし、部下も定着しません。実際、上下関係が悪い職場では仕事の生産性が落ちます。これは実感されている方も多いと思います。日本アンガーマネジメント協会が今年3月に実施した調査でも、上司に怒られた後の業務状況について、モチベーションの低下やイライラして仕事に手が付かなくなったといった回答が多く寄せられました」(安藤さん)

アンガーマネジメントの手法は、会社などでの研修を待つことなく、個人がすぐにでも実践できる。そのファーストステップは、「怒りの性質」を知ることだ。安藤さんは「怒りには5つの性質がある」と説明する。

いずれの項目も納得するものばかりだろう。子どもに怒りをぶつけてしまう、駅員への暴力や飲食店の店員につい声を荒げてしまうといった行為は、まさに怒りの性質(1番目)をそのまま映し出している。

安藤俊介(あんどう・しゅんすけ) 日本アンガーマネジメント協会代表理事。1971年群馬県生まれ。外資系企業、民間シンクタンクなどを経て渡米。アンガーマネジメントの理論、技術を習得。「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。企業や医療機関などで多数の研修、セミナーを担当する。主な著書に「怒りに負ける人 怒りを生かす人」(朝日新聞出版)、「イラッとしない思考術」(ベストセラーズ)、「『怒り』のマネジメント術」(朝日新聞出版)など。

(山口佐知子=ライター)

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