夫婦間の失望・マンネリは子どもに伝わる
子どもの成長とともに訪れる課題に全員が「チーム」として取り組み、自分達らしい家族を形成すること……それが「ファミリー・ビルディング」の考え方です。幼児教育を通して6000人以上の子どもと接し、数多くの家庭をコンサルティングしてきた山本直美さんが、悩める人たちにアドバイスします。
今回のテーマは「夫婦関係の変化」。結婚し、子どもが生まれると否応なしに夫婦の関係も変わるもの。結婚前に持っていた相手への尊敬や愛情が減り、不満や失望を感じることが多くなっている気も……。夫婦の信頼関係はどう育てればいいか、聞きました。
夫婦関係も進化する
こんにちは!チャイルド・ファミリーコンサルタントの山本直美です。
結婚して子どもが生まれると、独身時代や夫婦二人のときと比べ、生活が一変します。「昔はあんなに格好よかったのに……」「あんなに優しかったのに……」と、パートナーに失望することもあるでしょう。
子どもに愛情を注ぐ一方で、夫や妻への愛が薄らいできているような気持ちになってしまうことも少なくありません。
恋人時代は評価していた相手の長所が、夫婦になると一転してネガティブに見えてしまうこともあります。
恋人だったころ : 優しい → 夫婦関係 : 優柔不断
相手は変わっていないのに、こんなふうに受け止めてしまうのは、自分の見方が変化したから。結婚すると、夫や妻が変わってしまったかのように錯覚してしまいがちですが、必ずしもそうではありません。
恋人から夫婦になることで、人生のステージは変わります。
意見がぶつかったり、お互い不満に思うことがあっても、恋人のように「イヤになったからすぐに別れる」ということはありませんよね。たとえ怒っていても、「無意識のレベルでは相手を受け入れている」のが結婚です。実は恋人時代に比べて、男女の関係はすごく進化しているといえるのです。
自分やパートナーの進化、成長を楽しみにできないと、変化を受け入れられずに、過去と比較ばかりしてしまうこともあります。「相手を認めない」のは、実は今の自分を承認できていないことの表れ。新しいステージになじめずに、どこかで「こんなはずじゃない」と思っていることが多いですね。
特に子育て中は、これで合っているのかどうか、誰も教えてくれませんから、不安でついついネガティブになりがち。動物だって、子どもを守るときは命を懸けるのですから、必死になるのは当然のことです。パートナーのことをそれまでのように気にかけられなくなったりもしますが、夫婦関係を良好に保つ「努力」を忘れないでほしいものです。
少し落ち着いてきたら夫婦で日々のことだけじゃなく、ちょっとだけ未来の話をしてみましょう。3カ月後、1年後、3年後、10年後……先のことを考える暇なんてないと感じられるかもしれませんが、未来を想像し、夫婦で語り合う時間を持つことで気持ちに余裕が生まれることもあります。
パートナーと手をつないでみませんか?
このごろ、街を歩いていると、40~50代で手をつないで歩いている人をよく見かけます。昔、老夫婦が手をつないで歩く台所用洗剤のCMがありましたよね。当時、小学生だった私は、夫婦が手をつないで散歩する仲むつまじい姿をうらやましく感じて、とてもすてきな記憶として残っています。
いつも子どもを真ん中にして手をつないでいるのであれば、公園など子どもと手を離しても大丈夫な場所では、夫婦で手をつないでみましょう。
子どもにとっては間接的しつけが大事です。親が「ごめんね」と言っている姿を率先して見せる、手を洗う、部屋を片付ける、早く寝る、嫌な返事をしない、などなど。子どもをしつける前に、自分をしつけるほうがよほど大事。間接的しつけが子どもに影響を与える割合は8割、口で言うしつけは2割ですから、「みんなと仲良くするのよ!」よりも効果は抜群です。
それに子ども達は、夫婦仲がいいのが一番うれしく感じるようです。
親子でも怒ってばかりのときは、もしかしたら手をつなぐなどのスキンシップが足りないのかもしれません。子ども達の小さな手が少し成長して大きくなったと感じられる瞬間や、つないだ手のぬくもりは何とも言えないですね。私のように、何歳になっても手をつなぐ、あのCMのシチュエーションに憧れていた人も多いのでは? 恥ずかしさを捨てて、時には夫婦で手をつないでみませんか。
まずは「安心・安全」が家族の土台に
「マズローの欲求5段階説」からも分かるように、安心と安全が基盤となることで、人は次のステージの欲求に進むことができます。職場も家族も「安心・安全」がまず土台となります。
この段階を、お互いが意識して上がったり、下がったりしながら「安心できるね」といえる家族づくりをしていきましょう。
マズローの5段階説について
母親の欲求段階(山本イメージ)
夫婦間のマンネリはそんなにいけないこと?
子どもの場合、毎日同じことを繰り返すことが、心の安定・安心につながります。ごはんを食べて、寝て、起きるという繰り返しがその子の「生活の基準」を作るんです。
そこから考えると、夫婦間のマンネリも「日常が安定している」ということの裏返し。そんなにいけないことなのかなと、私は思います。何でもない当たり前に過ぎていく日々こそ、かけがえのないものですから。
結婚して一緒に生活をしてみて、期待外れだったこともお互いにあるでしょう。でも、ただ怒りを表して、それで改善できるなら、「マネジメント」は必要ありません。仕事では、面談などで期待値調整をしますよね。失望してあきらめるのではなく、どうしたらできるようになるか、課題設定が間違っていなかったかなどを考えます。問題解決思考が仕事だったら働きますが、家庭になると途端にできなくなるのが不思議です。
そんなときは、「仕事だったらどうしていたかな?」と、考えてみるのがおすすめです。
例えば産前、「子どもが生まれたら、毎日パパがお風呂に入れてくれるはず」と、ママ側が思っていたとします。でも、いざ生まれてみると仕事が忙しくて、平日はなかなか毎日入れるというのは難しい。では、「週末だけお願いする」と決めてはどうでしょうか。
こんなふうに一つずつ、改善点を明確にしていきましょう。想像力を使い、アイデアで乗り切ることも必要です。
たくさんのパパの話を聞いていると、ママとの関係や物事を、上下や勝ち負けで見る傾向があるように思います。ときにはママが強い意見を言うことがあってもいいですし、パパが言うこともあるでしょう。「フェアであること」が大前提の関係性であってほしいものです。こうしてほしいと思う欲求は、ちゃんと相手に言えばいいのです。
上下ではなく物事を見られるようになったら、項目ごとの担当や最終決定者を決めていきます。どちらかに偏ってしまうと負担になりますから、夫婦がお互い、素直に意見を伝え合える関係性を作れるといいですね。
チャイルド・ファミリーコンサルタント。アイ・エス・シー代表。NPO法人子育て学協会会長。1967年生まれ。日本女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。幼稚園教諭を経て、大手託児施設の立ち上げに参画。95年にアイ・エス・シーを設立、自らの教育理念実践の場として保護者と子どものための教室『リトルパルズ』を開設、現在東京・名古屋で「ウィズブック保育園」を開設、運営し、独自の教育プログラムや保護者向けの子育てに関する学びを提供している。著書に『できるパパは子どもを伸ばす』(東京書籍)、『子どものココロとアタマを育む 毎日7分、絵本レッスン』(日東書院)、『自走できる部下の育て方』(学研)などがある。
[日経DUAL 2016年6月15日付記事を再構成]
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