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企業社会に深く浸透してきたロジカルシンキング。その一方でロジカルシンキングに長けた人がつくった計画が実行段階で行き詰ったりするケースも増えてきた。どうやら職場は合理的なだけでは動かないようなのだ。「経営も職場運営も合理性と非合理性の双方を前提とし、考える時代に入った」と人材マネジメントに詳しい永田稔氏は指摘する。永田氏の最新刊『非合理な職場』(日本経済新聞出版社)からその実態を紹介した第1章を転載する。2回目は問題解決プロセスを追いながら、非合理に直面するポイントを見ていこう。

真の問題解決プロセスとは

ロジカルシンキングを習った人は、ロジカルシンキングをマスターした=問題解決力が上がったと思い込みがちである。

しかし、それは明らかに間違いである。

問題解決力というのは、もっと広範な能力であり、単に机の上で問題の解決策を論理的に導くだけではない。

前回紹介したようなケースの問題はロジカルシンキングのみでは解決できない。

真の問題解決力とは、策定した解決策を関係者に受け入れてもらい、どれだけ実行し成果に結びつけることができるかであり、特に組織全体の問題を解決するためには関係する多様な人々を巻き込み、動かし、解決策を実施させ成果につなげる力である。

問題解決のプロセスとは「問題や解決策を共有する」ところから「関係者を動かし成果に結びつける」「成果の再現性を高める」ところまで持ってゆく一連のプロセスなのである(図1参照)。

それでは、以下に真の問題解決のプロセスを解説しよう。

真の問題解決プロセスとは

1 皆で現実と問題を直視し、課題を共有するプロセス
  ↓
2 問題に対し論理的な解決策を導くプロセス
  ↓
3 皆が解決策に納得するプロセス
  ↓
4 解決策を実行するのにメンバーを動かすプロセス
  ↓
5 メンバーが自律的に学び仕事を楽しむプロセス

から成り立つ。

1 皆で現実と問題を直視し、課題を共有するプロセス

このフェーズと次の解決策を導くフェーズを説明するために、ソラ、アメ、カサという問題解決の思考プロセスを紹介しておきたい。

あなたは「ソラ、アメ、カサ」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

「ソラ、アメ、カサ」とは筆者がマッキンゼー時代に習った問題解決のプロセスを表すものである。

この問題解決プロセスは、ソラを見て=状況を理解し、アメが降るかを考え=状況の意味合いを考え、カサを持って行くか決める=どのようなアクションを取るかを決める、という簡便な比喩を用い、問題解決のプロセスを端的に表すものである。

「ソラを見たら、黒い雲が流れてきた(状況理解)。黒い雲は雨雲の可能性が高い(意味合い)。よってカサを持って行こう(アクション)」という流れである(図2参照)。

コンサルティング会社の若手コンサルタントがまず徹底的に指導されるのが、このソラ、アメ、カサのプロセスである。

長い間流行しているロジカルシンキングというと、ロジカルツリーやMECEという概念が頭に浮かぶと思うが、実際の問題解決において重視されるのは、この「ソラ、アメ、カサ」の問題解決の思考プロセスなのである。

コンサルティングの現場では、毎日のように大小様々な問題に直面する。

その際に上司や先輩から、各コンサルタントの述べる意見がこの「ソラ、アメ、カサ」の一連の構成になっているかどうか厳しく問われる。

例えば、以下のような例である。

case:新人コンサルタントが学ぶ「ソラ、アメ、カサ」
 上司のコンサルタント(以下、上司)「それでは、現在問題になっているA商品の売り上げ低下に対する報告をコンサルタントの伊藤さん、お願いします」
部下の新人コンサルタント(以下、部下)「A商品の売り上げはこの5年間、継続的に低下しています。特に、A商品群の中でも低価格品の売り上げ低下が著しいです。この低価格製品はアジア新興国の代替商品の攻勢を受け、売り上げを落としているものと思われます。早急に低価格製品のさらなる価格の見直しが必要と考えます」
上司「ちょっと待って。この資料だと、全国の売り上げしか載っていないよね。地域別やチャネル別の売り上げ推移の数字は押さえている?」
部下「確か、私の手元資料の中にあったはずです」
上司「ちょっと見せて。なるほど。これを見ると、3つのことが言えるね。1つは、A商品の売り上げの低下は地域ごとにばらつきがあること。2つ目は、チャネルではチェーン店での売り上げ低下が著しいこと。3つ目は、あなたが言うように低価格品での売り上げ低下が著しいということだね」
部下「確かにそうです」
上司「それでは、なぜ地域ごとにばらつきがあるのだろう? 可能性として考えられるのは4つかな。該当の地域での需要の低下、チャネルの変化による影響、競合の攻勢、自社の商品力や営業活動の不足。この4つについての事実は集めた?」
部下「すべてではないですが、断片的な情報はあります」
上司「その情報も見せて。なるほど。この断片的な情報からも、売り上げが落ちている地域と大手チェーンの出店状況とは関係がありそうだね。現時点での仮説としては、大手チェーン店が進出している地域でのクライアントのシェアが落ちていることから、大手チェーン店で競合商品が売れているということが考えられるね。この仮説をもっと事実を集めて検証をしてみたらいいと思う」
部下「わかりました。早速、分析してみます」
上司「あと、君が冒頭で言っていた『新興国の代替商品が攻勢をかけている』については、事実で押さえている?」
部下「一応、ユーザーへのヒアリングで得た情報です」
上司「どのくらいのユーザーに聞いたの?」
部下「十数人くらいの方に聞きました」
上司「そのくらいのヒアリングだと、まだ漏れがある可能性があるね。市場全体の縮図になるような集団をつくってヒアリングを行って情報を集めてみてごらん」
部下「わかりました」
上司「ここまでがソラ、アメ、カサのソラの部分だよ。問題の現象面だけでなく、それが起きている原因を構造的に分解し事実をもって把握すること。その際に、原因の可能性や事実の収集の構成が『もれなく、だぶりなく』になっているかを確認しながら行うんだ」
部下「わかりました」
上司「その上で、ソラの状況が把握できたら、そこからの『意味合い』を考える。まだ今回のケースでは十分わからないが、君はさっき売り上げ低下の原因が、新興国の低下価格商品の攻勢と言っていたよね。しかし、今のディスカッションからはそれに加え、チャネル構造の変化による可能性もあるよ。すると、現在、自社が使っているチャネルが今後も適切かどうかの判断も必要になる。今のチャネルを使い続けると、チャネルの衰退とともに自社も衰退する可能性もある。これが意味合いのアメの部分だよ」
 さらに上司は続けました。
「そうなると、必然的にアクションも変わってくるのはわかるよね。さっき君は価格の見直しが必要だと言ったが、それが的を射た解決策だろうか? チャネルの変化の可能性などを考えると一概にそうは言えないね。また、仮に新興国のメーカーが安売り攻勢をかけてきていたとしても、安易にそれに対しこちらも価格を安くすることで本当に勝てるのだろうか? アクションを起こすにも、これらの分析や検討が必要になる。これらの観点を踏まえて、もう一度、ソラ、アメ、カサを考えなおしてくれないか」
部下「わかりました。もう一度、考えなおしてみます」

これは比較的簡単なケースだが、このような会話がコンサルティング会社や事業会社の現場では日常的に行われているのである。

このケースでわかるように、

・ソラとは、表面的な現象だけでなく問題が起きている構造を解きほぐし事実情報で何が起きているかを把握する

・アメとは、ソラの原因構造が今後、時間軸や力関係でどのように変化してゆくのかを考え、自社や業界への影響や意味合いを考える

・カサとは、アメを受け、自社が何をなすべきか、的を射た解決策を考える

という問題解決のプロセスとなる。

しかしながら、現実では、「ソラから直接カサに向かうケース」(状況から直接アクションをとってしまうケース)や、「ろくにソラを見ず、カサを持って行くケース」(状況を見ずアクションを決めるケース)も多い。

例えば、前述したケースは「ろくにソラ(売り上げ低下の真の原因)を見ず、カサ(低価格化への提案)を持って行く」ことを決めている(図3参照)。

しかし、どのようなカサを持って行くべきか、そもそもカサを持って行くべきかは、ソラの状況や、アメがどの程度降るのか、降らないのかによって大きく異なる。

ロジカルツリーやMECEというのはこのソラ、アメ、カサのプロセスを構築するための必要となる思考と考えてよい。

例えば、ソラの状況を把握する際に、一部のソラを見ても天気はわからない。

自分の住まいや行先、ひいては時間軸でのソラの状況変化の情報を「もれなく、だぶりなく」収集する必要があるだろう。

上記のケースで、上司の人が指摘をしたのはまさにその点である。

市場で何が起きているのかを一部の事実のみ(数十人のヒアリング)で判断をするのは、市場全体を表す縮図ではない。関係するソラの全体像を把握する必要があるのである。

また、アクションであるアメを避ける方法を検討するにあたっても、カサだけでなく、雨合羽を着たり車で行くなど、複数の方法がある。場合によっては、日程を変えるというオプションや相手に来てもらうというオプションもある。

これらの方法をもれなく、だぶりなく検討し、その中で今回降ると思われるアメの様子に合わせた対処方法を選択するのである。

ソラ、アメ、カサのプロセスで言うと、この「皆で現実や状況を直視し、何が問題か、自分たちに対する影響を共有するプロセス」はソラ、アメにあたる。

つまり、皆でソラを見、このままだとこういうアメが降るよね、と状況や課題を直視するプロセスなのである。

この状況の直視と課題の共有は、問題解決プロセスのスタート地点ということもあり非常に重要なプロセスである。

このスタート地点で、関係者の状況と課題の共有、合意が得られないとその先に進むのは当然ながら難しい。

しかし、現実では、「状況や問題の共有」でつまずくケースが意外なほど多いのである。

それはなぜか? 人間の認知や意思決定は合理的な面だけでなく、非合理な面を持つからである。

あなたがいくら論理的に問題を解決しようとしても、人間は内に持つ非合理さに無意識に影響されてしまうのである。

永田稔(ながた・みのる)
松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てウイリス・タワーズワトソンに入社。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてMBAを取得。20年近くビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウイリス・タワーズワトソンを退社し、心理学とテクノロジーを融合させた人の能力支援システムの研究開発・商業化を行うヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を心理学者、IT技術者などと立ち上げる。
共著に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書)、『リーダーシップの名著を読む』(日経文庫)、『攻めのガバナンス 経営者報酬・指名の戦略的改革』(東洋経済新報社)。早稲田大学MBAプログラム非常勤講師。

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