格安SIMの速度 キャリアと大差 健闘フリーテル
現在では数十社がしのぎを削る、MVNO(仮想移動体通信事業者)の格安SIM。これだけ増えると、「安かろう悪かろう」のSIMも少なからずあるのでは、という気がしてくる。スマートフォン(スマホ)の通信速度についてキャリアに続いて格安SIMでも調べてみた。
キーポイントは「レイヤー2接続」
では、本当に「使える」MVNOを、契約前に見極めることはできるのだろうか。実は、多くのMVNOが公表していない、"不都合な真実"がある。それが、「レイヤー2接続か否か」だ。
レイヤー2接続とは、大手キャリアの電波を利用するが、基地局から先、ネットワークの2層目以降を自社で引き受ける方式。パケット交換(データを区切って送受信する作業)や速度制御は、MVNOのサーバーで行う。「混雑時は特定の人に速度が偏らないようにする、といった制御が、MVNO自身の手でできる」(IIJ)。混雑時も速度を公平に割り振る制御がしやすい。
またMVNOは、大手キャリアの基地局と自社サーバー間の通信速度に応じて、毎月の料金を大手キャリアに支払っている。格安SIMは薄利多売のビジネスなので、各社はユーザー数の増加に応じて、少しずつ基地局と自社サーバー間の通信速度を高めている(これを「増速」と呼ぶ)。レイヤー2接続のMVNOは、ユーザーの動向が見えやすいので、増速も最適な時期に、しかも機動的に行える。
一方、レイヤー2接続でない多くのMVNOは、速度制御などは他のレイヤー2接続のMVNOに任せ、自社ではユーザーの管理や決済だけを行っている。増速の判断や混雑時の対処は、上位のMVNO任せになってしまうか、どうしても遅れるケースが多い。
MVNO13社のサービスを実測
そこで、実際にサービスの速度を測ってみた。朝、昼、夜の3つの時間帯で通信速度を実測。他のレイヤー2接続のMVNOを介してサービスを提供している4社(名前が白抜きになっていないもの)は、ニフティ「Nifmo」を除き、上位のMVNOよりも速度が出ない結果となった。Nifmoは直近3日間での容量制限を設け、使いすぎを抑制していることが奏功しているとみられる。
MVNOのテスト全体を通じての最速記録は49Mbps台で、楽天モバイルとIIJが午前に記録。2社は本来、これだけの速度が出るポテンシャルを持っているが、混雑の影響で昼は1Mbps以下に下がってしまった。
昼に最も速かったのはBIGLOBEだが、同社は画像や動画を圧縮してユーザーに送る「通信の最適化」を行っていることを公表している。この他、編集部の取材では楽天も「状況次第で最適化を行う」と回答した。
フルHD解像度の動画再生には、5Mbps前後の実効速度が必要。全時間帯でこの速度が出たのは、FREETELとUQ mobileだけだった。ただ、2社とも今後、ユーザーが急激に増えると速度が落ちる可能性はある。
ユーザー属性にも依存する
レイヤー2接続か否かに加え、もう一つ見逃せないのが、ユーザー数とユーザーの属性だ。今回、各社の格安SIMで速度を実測したところ、知名度が高くユーザー数の多い格安SIMで、昼休みの時間帯の速度低下が目立った。格安SIMの黎明(れいめい)期に参入したNTTコミュニケーションズ(OCN)とIIJの2社は、ユーザー数が100万人を超えているうえ、属性が「30~40代の男性」に偏っている。そのため、昼休みに通信が集中し、速度が大きく下がる傾向があるのだ。
以上を踏まえると、「レイヤー2接続で、ユーザーが多すぎず、しかも偏りが少ないMVNO」が特に有利ということになる。今回のテストでは、この条件に当てはまるフリーテルが、特に安定した速度を記録した。フリーテルは、月10GBの容量のプランでも2470円(税別)からと、値頃感も十分。また、auの基地局を使うUQ mobileも混雑度が低く、フリーテルと同様に安定していた。月3GBで980円(税別)からと十分に安いが、毎月の容量の選択肢はフリーテルのほうが多い。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2016年8月号の記事を再構成]
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