「大晦日にカネをせびりに来たのか」の一言で起業決断ジェイアイエヌ社長 田中仁氏(上)

結果は、見事合格でした。素直に「すごいな」と思いました。合格したこともそうですが、浪人を覚悟したことが、です。人間、ここぞという時は全力でフルスイングしなくちゃダメなんだ、と友人に教えられた気がしました。

私はその頃、遊んでばかりいたために内申点も悪くて、志望していたのとは違う高校へ入ることになったのですが、振り返ると、それも一つの転機になりました。早々に大学進学を諦め、自分は商売の道へ進もうと決めることができたからです。

地元で人気の就職先といえば群馬県庁、次が市役所、それと金融機関でした。役所か金融機関のどちらを選ぶかとなった時に、商売に役立つという意味では金融機関だろうと思い、前橋信用金庫(現しののめ信用金庫)への就職を決めました。

取引先回りで商売の厳しさを痛感

仕事はある意味、泥臭さかったです。排気量50ccのミニバイクに乗って、取引先を回りました。商売の厳しさやビジネスのリアリティーを嫌というほど痛感させられました。

取引先は地元の中小企業。当時はほとんどが手形取引で、親兄弟や親戚などが連帯保証人になっているケースも多かったんです。今はそんなことはないと思いますが、その当時はいったん保証人がハンコを押したら、その後にどれだけ借金が膨れあがっても、その膨れ上がった額の借金が保証人について回っていた。

借金と人間関係の板挟みに耐えきれなくなり、自ら命を絶った取引先の社長もいました。信用金庫に勤めていた4年半の間に、数人の方が命を絶ちました。本当にショックでした。

商売は怖いなとも思いました。生々しくてショッキングな場面に遭遇するたびに、「このままサラリーマンでいた方が楽なんじゃないか」「それでも起業したいのか?」と自分自身に問いかけていました。最終的に決断することができたのは、大晦日(みそか)の夜、取引先のお客様に言われたこの一言がきっかけでした。

「大晦日に金をせびりに来るなんて、お前は物乞いか」

1985年、22歳の時のことです。

田中仁氏(たなか・ひとし)
1963年群馬県生まれ。信用金庫勤務の後、1988年、ジェイアイエヌを設立。2001年、アイウエア事業「JINS(ジンズ)」を開始。06年、大証ヘラクレス(現ジャスダック)に上場。11年、優れた起業家を表彰する「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(EOY)」世界大会に日本代表として出場。13年、東証1部に上場。著書に「振り切る勇気」がある。

(ライター 曲沼美恵)

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