長期優待はポイントで 危ういかじを切ったau

日経トレンディネット

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2016年5月31日の新製品・サービス発表会で、長期利用者優遇に向けた会員制プログラム「au STAR」の開始を表明したKDDI(au)。だが、その内容はWALLETのポイントによる還元やギフト券のプレゼントが主で、NTTドコモの「ずっとドコモ割」のような現金値引きは実施されないというものだった。なぜauは現金値引きに否定的なのか。au STARは果たしてユーザーに受け入れられるのか。

長期利用者向けの「au STAR」

au STARは、auの長期間契約ユーザー向けに、新たに提供する会員プログラムだ。同プログラムに加入することで、「au STAR パスポート」「au STAR ロイヤル」「au STAR ギフト」という3つの特典が得られる。

auが新たに提供を始めた長期契約者向けプログラム「au STAR」は3つのサービスから成り立っている。写真は5月31日の「au発表会 2016 Summer」より

「au STAR パスポート」は、auショップの事前予約ができるサービスで、au STAR会員なら契約期間を問わず、誰でも利用できる。専用のWebサイトからauショップの来店時間を予約できるほか、主な要望をあらかじめ登録しておくことも可能。来店前にauショップ側が準備しておくことで、ユーザーの待ち時間を減らす。

近年、キャリアショップの手続きは待ち時間が長いと言われ続けてきた。その原因の1つが、ユーザー側の知識を問わず、一律の対応をしていたことだという。同じ端末を購入するのであっても、スマートフォン(スマホ)初心者であれば店頭で細かい確認をしたいだろう。しかし慣れているユーザーであれば、余計な説明は不要であり、商品を早く渡して欲しいと感じているはずだ。こうしたユーザーニーズの違いをあらかじめ把握して、ショップでの対応を最適化したいというのが、「au STAR パスポート」の狙いだ。

auショップの事前予約ができる「au STAR パスポート」は、契約期間を問わず利用可能。写真は5月31日の「au発表会 2016 Summer」より

長期利用者にはポイントやギフト券で還元

「au STAR ロイヤル」は、auの利用年数に応じて、データ定額料金1000円ごとにWALLETポイントを20~100ポイント(契約年数によって異なる)プレゼントするというもの。長期利用者に向けた優遇サービスの中心となるサービスだ。契約4年目からポイントが付与されるが、対象となるのはスマホと携帯電話回線のみ。データ通信専用の回線(タブレットやWi-Fiルーターなど)は対象とならない。

またあくまでもデータ定額の料金のみが対象であるため、「カケホ」などの基本料金は対象とならない。また、「auスマートバリュー」でデータ通信料が割り引かれている場合は、割引後の料金がポイント付与の対象となる。こうした点にも注意が必要だ。

「au STAR ロイヤル」は、従来のデータ通信容量のギフトに加え、契約年数とデータ定額料に応じたWALLETポイントを毎月付与する仕組み。写真は5月31日の「au発表会 2016 Summer」より

そして最後の「au STAR ギフト」は、いくつかの会員特典が得られるサービスだ。「世界データ定額」の24時間分の料金が毎月1回無料になるなどの特典を誰でも受けられるほか、au STAR会員専用のポイント交換サイトも提供する予定だ。

また、「au STAR ギフト」では、2年契約が必要な料金割引サービス「誰でも割」の更新期限を迎え、更新したユーザーに対して、先のポイント交換サイトや、「au WALLET Market powered by LUXA」で利用できる3000円分のギフト券がプレゼントされるとのこと。ユーザーの継続利用を促すものだ。

「au STAR ギフト」では、「誰でも割」の契約更新時に、auのECサイトなどで利用できるギフト券がプレゼントされるなどの特典が得られる。写真は5月31日の「au発表会 2016 Summer」より

だが、これまで、KDDIの田中孝司社長は「長期利用者を優遇すれば、競争が止まってしまうのではないか」と発言するなど、長期利用者の優遇には否定的な態度を取り続けてきた。それにもかかわらず、auがこのタイミングで、長期利用者の優遇を決断したのはなぜなのだろうか。

なぜ、auは現金値引きをしなかったのか

その大きな理由の一つは、総務省の要請だ。2015年の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、携帯電話キャリアには、過剰な端末割引の抑制、ライトユーザー向けの料金プラン提供だけでなく、長期契約者に対する優遇措置の充実を図るよう要請された。

また、総務省の要請により、キャリア間のユーザーの奪い合いが難しくなったことから、今後ユーザーはキャリアをひんぱんに変えないことが予想される。従って、通信以外のサービスを増やすことで客単価を高める必要があり、auとしても長期利用ユーザーの継続利用に力を入れる必要が出てきたのだ。

加えて、田中氏は「現在、スマホを使いこなそうとする人と、スマホはもういいという人の二極化が進んでいる。(社員に)チャレンジの気持ちが弱まっていると感じるし、ユーザーの声を聞いて個々のニーズにきちんと対応しているだろうかという反省もあった」と話していた。これまでは新しいスマホを購入したいというユーザーへの対応を優先するあまり、長く利用し続けたいといったニーズに応えていなかったことへの反省もあるようだ。

auはスマートフォン市場の変化を受け、これまで応えきれていなかった顧客の要望に応えるよう方針を変更。au STARも、これまで軽視されていた長期利用者に向けた施策の一環になるという。写真は5月31日の「au発表会 2016 Summer」より

だが、au STARの内容を見ると、先行するNTTドコモの長期利用者優遇施策である「ずっとドコモ割」と比べ、やや見劣りする。例えば、ずっとドコモ割の場合、契約年数に応じてデータ通信料金が直接値引きされるが、「au STAR ロイヤル」は現金による値引きではなく、ポイントが付与される仕組みになっている。

またNTTドコモでは、「ずっとドコモ割コース」を選んで2年間の契約更新をした場合、3000ポイント分のdポイントがプレゼントされるが、「au STAR ギフト」では、なぜかポイントではなく、汎用性の低いギフト券のプレゼントとなっている。全体的に、NTTドコモと比べ提供されるサービスがユーザーにとって利用しづらいものなのだ。

特に、「au STAR ロイヤル」で、現金による割引がない点は、発表会当日記者からも質問が相次いだ。「がっかりした」という声も上がるなど疑問を抱く人が多かった。なぜauは、ユーザーにとって最もメリットがある現金による値引きを提供しなかったのだろうか。

NTTドコモの「ずっとドコモ割」では、データ定額料金に対してポイントではなく、契約年数に応じた現金値引きを提供している。写真は4月14日のNTTドコモ新料金発表会より

現金値引き派をサービスで満足させられるか

この点について田中氏は、いくつかの理由を挙げている。一つ目は、同社の調査によれば、現金による値引きよりもポイント付与の方がユーザーニーズが大きかったということ。2つ目は、家族で契約している場合、現金値引きの恩恵が受けられるのは家族の代表者だけだが、ポイントであれば家族全体で恩恵が受けられるということだ。

また田中氏は、囲み取材の中で、「ダム・パイプになって安い回線だけを提供する生き方と、スマホを活用し、アドオンサービスを付けて一律にならないようサービスを提供する生き方がある。この二極化が進んでいるが、僕らは後者を選びたい」と語った。あくまでも安さによるユーザーの獲得は追求せず、サービスの拡充を進めたい考えであることから、現金による割引よりもポイントなどによる付加価値施策を取ったということのようだ。

囲み取材で田中氏は、現金値引きよりも付加価値の充実を図る考えを示した。写真は5月31日の「au発表会2016 Summer」

とはいえ、au STARの仕組みを見る限り、実際のところは、総務省が求める長期利用者向け施策を実現する上で、経営に与えるダメージを最小限に抑えたいという意図が感じられる。現金値引きは全てのユーザーに対してまんべんなく適用されるため、確実に収入が減る。だが、ポイントやギフト券であれば、ユーザーがそれらを利用して初めて値引きが発生する。換言すれば、使われない分の値引きは発生しないので、現金値引きと比べて経営に与えるダメージは少なくてすむ。

NTTドコモが16年4月14日に「ずっとドコモ割」の拡充を発表した際、その影響によって、700億円の減収を見込むとしていたが、田中氏は、au STARの提供が業績に与える影響は「織り込み済み」と話した。いくらかの減収効果があることは確かだろうが、それが経営に大きなダメージを与えるほどではないと考えているようだ。

家電量販店でも対応が二分しているように、ポイント付与と現金値引き、どちらにユーザーメリットを感じるかというと、判断は確かに難しい。だがauは今回、現金値引きを求めるユーザーの声には「応えない」という判断を明確に示した。今後、そうした人たちが不満を募らせるのは確実だ。それだけに、auには「割引じゃなくてもいい」と思わせるだけの施策を打ち出すことが強く求められることになるだろう。

佐野正弘(さの・まさひろ)
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

[日経トレンディネット 2016年6月8日付の記事を再構成]

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