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女性活躍 中小企業トップの「オレ流」挽回策

2016/6/25

 女性活躍推進法が4月から全面施行されたが、地方の中小企業は大企業に比べ制度整備が遅れがちだ。一方、中小はトップの掛け声一つで、企業風土や働きやすさをがらりと変えることができる面もある。女性の採用や育成に力を入れて実績を上げている企業の男性トップに「オレ流」の女性活躍推進のあり方などを聞いた。

■クリロン化成 栗原清一社長

ユニークな仕組みを作ってきた栗原社長(中)

 「1時間単位での有給休暇の取得」「年収が130万円を超えたパート従業員への社会保険料に相当する金額の補填」「在宅勤務」――。大阪市にあるフィルムメーカーのクリロン化成は、女性が働きやすいユニークな仕組み作りで知られる中小企業だ。単体従業員200人のうち、女性比率は4割に上る。

 ただ、1991年から同社を率いる栗原清一社長(72)はこれらの制度について「別に特別なキッカケがあって始めたわけではない」と言う。いずれも、女性従業員が出産や育児の時期を迎えるなかで、「働き続けてもらうには何が必要か、と考えて実践してきただけ」(栗原社長)。

 例えば、2000年に従来6カ月だった産休・育休の期間を1年間に延ばしたのは、出産した技術職の女性社員の要望を反映したから。1時間単位の有給取得も、子どもの病気などで早退しなければいけない母親社員の意見を取り入れたものだ。

 「大企業と比べて一人ひとりが企業全体に与える影響が大きい。その分、一人ひとりに目を配る」と栗原社長は話す。社員と面談したり、就労規則を考えたりする「人材部」の人数は4人。全従業員が200人と考えれば、手厚さがわかる。「優秀な人材に辞められては困る」という切迫感が、大企業とは比べものにならないぐらい強いのだ。

働きやすく、やめない職場

 女性従業員に産休や育休を取りながら働き続けてもらうことが、業務効率を高めることにつながるという手応えもある。数年前、5人の営業所で1人の女性が産休に入ることになった。そこで、職場全員で仕事の内容や重要度を棚卸しし、紙の書類をデジタル化して雑務を減らすなど、少ない人数でも業務をこなす策を考え出したという。女性の復帰後は営業先の拡大に力を割けるようになった。

 栗原社長は「女性だけのテーマだとは考えていない」と話す。男女問わず、介護など様々な事情を抱える社員が働き続けられるよう、1時間有給などは全社員が取得できるようにしている。

 10年からは大阪の中小企業を5社集め、互いに優れた仕組みを学び合う「人材経営の会」も発足した。中小企業にこそ、学ぶべき事例は多そうだ。

(佐藤浩実)

■和賀組 和賀幸雄社長

和賀組の女性管理職と和賀社長(右)(秋田県湯沢市)

 人口減少率が全国一の秋田。「定年退職したOBはすでに臨時作業員として働いていた。これ以上働き手を確保するなら女性しかない」。創業139年の老舗土木建設業、和賀組(秋田県湯沢市)の和賀幸雄社長(57)が女性登用を意識したのは約15年前のことだ。

 しかし「土木建設業界にそもそも女性の『供給』がなかった」。働きたい女性をどうやって見つけようか。考えていたとき目に止まったのが、関連会社でDPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)店の店長をしていた千葉愛さん(41)。和賀組が地盤改良事業に進出するタイミングと閉店が重なり、スカウトした。

 「建設のケも土木のドも知らなかった」千葉さんは、2009年に入社すると建築現場に日参。女性が珍しかった現場で工務店や大工に気に入られ、営業成績も右肩上がり。1年目に1500万円だった地盤事業部の売り上げは5年で1億円に育った。千葉さんは13年から部長を務める。

 後に続く女性の中には、重機を巧みに操り現場監督を目指す20代の「ドボジョ(土木女子)」も。現在、社員33人のうち女性は4人で、うち2人が管理職だ。

 女性が活躍しだすと「社内にいい意味の緊張感が生まれた」(和賀社長)。男性社員は身だしなみや言葉遣いに気を使うように。雰囲気の変化は社外に伝わる。取引先からの印象アップに加え、影響があったのが採用だ。地元の工業高校で土木建設を学ぶ生徒はかつての6分の1。採用できても離職率が高く、いびつな年齢ピラミッドに悩む同業他社は少なくない。

 和賀組は毎年1人を安定的に採用でき、しかも辞めないため社員の3分の1が30代以下と若い。勤務歴30年の総務課長、近藤真紀子さん(48)は「雰囲気が明るくなり、働きやすくなった」とほほ笑む。

責任と権限、人材を確保

 和賀社長は中小企業の女性活躍は「まず責任と権限を与えることが重要」と語る。一方で、人材に限りがある中小にとって、最大の壁はやはり妊娠と出産だ。同社はワークライフバランスの点からも、チームで一つの現場を担当し、監督が休んでもサブが引き継げる環境作りを意識している。

 「女性社員に『社長それは絶対やめたほうがいいですよ』と言われることもあり、視点が違う女性が職場にいることの重要さを感じる」と和賀社長。さらに女性活躍を推し進めるためには、0歳から子どもを預けられる環境整備が欠かせないとして、国の保育政策も注視している。

(山田薫)

■西山酒造場 西山周三社長

女性従業員と一緒に酒蔵に立つ西山社長(中)(兵庫県丹波市)

 「体重を使ってもっと下に押していって」。6月中旬、日本酒「小鼓」で名高い西山酒造場(兵庫県丹波市)を訪ねると、西山周三社長(43)が発酵するもろみをかき混ぜる「かい突き」の作業を蔵人に指導していた。蔵人は20代の女性従業員。業界では男性の蔵人が一般的だが、同社では全9人の蔵人のうち6人が女性だ。6代目の西山社長は「女性活躍に興味がある大手酒蔵や異業種が見に来る」と話す。

 「ものづくりに活気がない」。2007年7月、父から継いだ時の危機感は大きかった。職人気質の男性蔵人が黙々と酒造りに励む日々。酒蔵だからとつくる商品も日本酒のみだ。一方、女性社員は伝票入力など単純作業が主で、結婚や妊娠を機に辞めていく社員が少なくなかった。

 社長就任前、5年間テレビ局で営業経験を積んできた西山社長。女性社員が熱心に取引先を回る様子を見てきた。酒造りの世界に戻ってからも、経営塾や異業種との交流会に積極的に参加した。「女性の感覚を酒蔵に取り込めばものづくりを明るくできるはず」。約5年前から女性の採用に動き始め、短時間勤務ができるよう新たにパート従業員制度を導入。現在は全従業員54人中35人が女性だ。管理職も半数が女性という。

感覚生かす、データ化追求

 女性蔵人と取り組んだ一つが酒造りのデータ化だ。従来は品質に多少のばらつきがあっても、手作業では仕方がないと割り切ることが多かった。例えばかい突きもこれまでは各蔵人が勘を頼りにかき混ぜていたが、突く回数や時間などを細かく測り記録していった。

 品質を安定させ、工程を誰でも再現できるようにした。「データ化は女性ならではのきめ細かさが生きた作業だ」(西山社長)。女性従業員が増えるなか商品開発では「甘酒ヨーグルト」といったノンアルコール商品のヒットが生まれた。最近は東京などの都市や中国など外国からやってくる意欲的な女性社員も多い。

 16年4月期の単体売上高は前の期比15%増の5億円だった。西山社長は「トップが徹底的に女性活躍に取り組めば、優秀な女性従業員が自然と集まってくる」という。丹波で挑む酒蔵の挑戦は続く。

(杉浦恵里)

■女性活躍の「見える化」、好循環

 建設業や酒造りなどの職人の世界は長らく「男の世界」とされてきたが、地方の中小企業で積極的に女性登用が進められている。規模が小さい分、トップの掛け声一つで会社が動く面は確かにある。ただ、男女にかかわらず社員に無理を強いるものなら定着しないはずだ。

 女性が活躍しやすい制度を整えた結果、秋田の和賀組では部門売上高が5年間で約6倍になり、兵庫の西山酒造場ではヒット商品が生まれ売上高が2ケタ増となった。企業の規模が小さい分、女性の活躍がそのまま業績にも大きく反映され、社内全体に成果が共有される。今回登場した企業に共通するのは、子育て中でも働きやすいよう、1人が休めば別の誰かが柔軟にカバーできる体制を整えている点だ。小所帯の中小企業が実現できることを、大きな組織で決してできないことはない。

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