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叱ってほしい部下、叱れない上司 ~叱りは必要か?
入社3年目ぐらいまでの若手社員に「理想の上司は」と聞くと、意外にも「叱ってくれる上司」と答える人が少なからずいます。また、中堅社員に「上司に感謝していることは」と聞くと「きちんと叱ってくれたこと」という答えが多く返ってきます。
一方、上司に「部下を叱っていますか」と聞くと「あまり叱っていない」と答える人が多いもの。管理職研修で「部下を叱るのが苦手な方は」と聞くと、7割の参加者が手を上げます。
部下は叱ってほしいのに、上司は叱らないという構造に見えるのですが、実情は簡単な話ではありません。
今回は、叱ることについて考えます。
部下を叱るのは難しいですよ。最近の部下は、叱られることに慣れていませんから。先日、体育会系の男子社員を叱ったら泣き出してしまい、その後、しばらく落ち込んで仕事になりませんでした。他部署の管理職に聞いても、似たり寄ったりらしいです。もっとタフになってほしいですね。
また、叱ったら総務部に「パワハラの被害を受けている」と申告した部下や「上司のせいでメンタル不全になった」と訴えた部下もいるそうです。
私達の時代は、上司から日常的に「顔を洗って出直してこい」などと言われていましたが、それでも、なにくそと奮起して仕事をしたものです。部下にもそうあってほしいです。
注意しても、素直に受け入れず、口答えする部下も多いです。本当に叱るのは難しいですよ。
【部下に求めること】
*もっと精神的にタフになってほしい
*叱られたら奮起してほしい
*注意は素直に受け入れてほしい
きちんと叱ってくれる上司はありがたいです。最近、そういう上司は少ないと思います。部下のことをよく見ていないし、部下に対して、愛情を持っていないのではないでしょうか。
誤解しないでほしいのは、怒ると叱るは違うということです。入社したばかりの頃、感情的ですぐ怒る上司についたことがあります。そういうことを求めているわけではありません。
求めているのは、自分が正しくない行動をしたときに、きちんと指摘して気づかせてくれることです。
入社3年目になった頃、仕事に慣れ、少しモチベーションが下がっていた時期に、必要なチェックのプロセスを省略したことがありました。その時の上司は「できることをやらないなんて、君らしくないぞ」と言ってくれ、その言葉で我に返った覚えがあります。いまでも感謝しています。いつも、そんな上司のもとで働きたいと思います。
【上司に求めること】
*部下のことをもっとよく見てほしい
*感情的に怒るのはやめてほしい
*きちんと指摘して気づかせてほしい
叱るということについて、上司と部下のイメージには大きな距離があるようです。埋めていきましょう。
最近は、優しいタイプの上司が多く、叱らない傾向があります。叱った後の気まずい雰囲気がイヤ、落ち込まれたり、逆ギレされたりしたくない、という気持ちはわかりますが、叱らなければ、再発を招き、職場全体の秩序も乱れます。
それに、部下は、きちんと叱ってくれる上司を求めています。だから、叱ることは必要です。
ただ、部下の求める「叱り」は、上司の皆さんが思っているものとは異なります。部下が求めているのは、正しくない言動をしたときに、きちんと指摘することであり、上司目線で言えば単なる「注意」に近いものです。上司の皆さんが過去に受けたような厳しい叱責とは違いますし、感情的に怒ることとも別のものです。
以上の点を踏まえた上で、改めて「叱り」を考えてみましょう。叱るには2つのポイントがあります。
1.部下に対する期待をベースに
部下を全否定している状況で叱っても効果はありません。部下に対する期待値、あるいは部下の良い状態と比べて叱ります。
2.やったこと、やらなかったことに対し
やったことだけでなく、やらなかったことも指摘します。本人の力量からすれば当然できることをやらなかったとき、部下に対する期待をベースに、「君らしくない」というようにピシリと指摘します。これは、本人のプライドを活用した指導であるため、受け入れやすいというメリットがあります。また、やらなかったことを指摘することで、ハッとさせ気づかせることができるという利点もあります。
上記のように叱ったにも関わらず、再発した場合は、上司がイメージするような厳しい叱責をしてもよいでしょう。段階を踏むわけです。そうせずに、我慢に我慢を重ねたあげく、いきなり爆発では、部下も受け入れられません。まずは、ピシリと叱り、再発するようなら、厳しい叱責へと進んでください。
*部下の求める「叱り」はきちんと指摘すること
*部下に対する期待をベースにする
*やらなかったことを指摘する
*段階的に叱る
自分を正していくためには、他者からの指摘も必要です。ただ、きちんと指摘してくれる上司は少ないもの。このことに対し、部下ができることは、ひとつしかありません。
それは、上司が指摘しやすい部下でいること。提案したいのは叱られ上手になることです。
叱られれば、気分はよくないでしょう。叱られて感謝するのは、後になってから。その時は、なかなか素直になれないものです。
でも、そんなときこそ、人間としての器の大きさを示すときです。おそらく、100%自分が悪いということはないでしょう。しかたがなかったという理由はいくつも出てくるはずです。しかし、部分的であっても自分に非があるならそこは認め、再発防止を誓い、最後は感謝で締めるというようにしたいものです。例えば、「わかりました。今後はきちんと確認します。ありがとうございました」というように。
上記の中には、謝罪のセリフは入っていません。入れてもよいのですが、謝罪は必須ではありません。
上司は、謝罪してほしいわけではなく、直してほしいのです。そして、最後に感謝の言葉を添えられると、とても清々しい気持ちになります。
実際のところ、上司も叱るのはイヤなのです。叱った後は、よい気分ではありません。部下が落ち込めば「もっと違う言い方があったかもしれない」と悶々とします。だから、感謝の言葉が聞けると救われるのです。
いま、叱られ上手な部下は、とても少ないもの。だから、叱られ上手は意外に評価されます。
なお、これは上司から叱られたときだけでなく、同僚や後輩から苦言を呈されたときも同様です。わずかでも自分に非があれば、そこは認め、再発防止を誓い、感謝する。それができるのが器の大きな人です。
*一部であっても非があれば認める
*再発防止を誓い、感謝で締める
*苦言を受け入れられる器の大きな人間になる
*叱られ上手になる
上司は愛情を持って部下を叱り、部下は感謝する。そのような関係が理想です。
[2013年4月17日掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。
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