AKB総選挙、底力みせた指原 「1票の価値」は低下
若手台頭 見えた希望と課題

新潟の夜空に大きな歓声があがった。18日、新潟市のハードオフ・エコスタジアムで開かれた「AKB48 45thシングル選抜総選挙」で指原莉乃(HKT)が2年連続の1位となった。速報2位からの鮮やかな逆転。受賞のスピーチで「私もこの1位で3回目の1位になります。どうか、私を1位として認めてください」とファンに呼びかけた。今回の選挙戦ではアイドルとしては個性が際立つ指原に対し、「2連覇はさせたくない」という心理から渡辺麻友優位の見方もあった。議会選挙でみられる、大きく揺れ動く振り子のように政界の勢力図が一変する「振り子現象」が、AKB総選挙でも続いてきた。過去にだれもなしえなかった2連覇。指原は頭の回転の良さを生かしてテレビのバラエティー番組で活躍しており、人気と知名度で他を圧倒した。底力をまざまざとみせつけた。
ファンの熱気変わらず
1位 | 2位 | 3位 | |
---|---|---|---|
第1回 2009年 | 前田敦子 | 大島優子 | 篠田麻里子 |
第2回 2010年 | 大島優子 | 前田敦子 | 篠田麻里子 |
第3回 2011年 | 前田敦子 | 大島優子 | 柏木由紀 |
第4回 2012年 | 大島優子 | 渡辺麻友 | 柏木由紀 |
108837 | 72574 | 71076 | |
第5回 2013年 | 指原莉乃 | 大島優子 | 渡辺麻友 |
150570 | 136503 | 101210 | |
第6回 2014年 | 渡辺麻友 | 指原莉乃 | 柏木由紀 |
159854 | 141954 | 104364 | |
第7回 2015年 | 指原莉乃 | 柏木由紀 | 渡辺麻友 |
194049 | 167183 | 165789 | |
第8回 2016年 | 指原莉乃 | 渡辺麻友 | 松井珠理奈 |
243011 | 175613 | 112341 |
今回は272人が立候補した。この日の来場者はコンサートが約3万人、開票イベントが約3万人。新潟市が試算した経済波及効果は15億6千万円。創設時からグループを引っ張ってきた高橋みなみが卒業するなど人気メンバーが次々と卒業を発表したり、総選挙への立候補を見送ったりした。AKB人気の陰りが指摘されるが、ファンの熱気はまだまだ衰えていない。
2位は渡辺麻友(AKB)。速報では1位。昨年の3位から浮上したが、元女王としてはやはり1位が欲しかっただろう。受賞後のスピーチにやはり悔しさがあらわれていた。それでも1回目の総選挙からすべて7位内の「神7」を続けているメンバーは彼女だけだ。昨年のスピーチではテレビの中継時間を気遣い、短くまとめた。その気配りに心を打たれたファンも多い。3位に入ったのは松井珠理奈(SKE)。スピーチで「あと5年は卒業しませーん」と現役続行を宣言した。4位の山本彩(NMB)は昨年のNHKの連続テレビドラマ「あさが来た」の主題歌「365日の紙飛行機」をAKBのセンターとして歌い、一般的な知名度も飛躍的に向上した。CM出演も増えている。ファンへの対応も抜群で、握手会で彼女のレーンはいつも長蛇の列。握手人気なら間違いなく、一番だろう。

須田亜香里(SKE)が7位で選抜に返り咲き。前年は18位で3年連続の選抜入りを逃し、号泣でスピーチをした。その悔しさを晴らした。総監督、横山由依(AKB)は11位。次世代エース、向井地美音(AKB)も前年の44位から大きく順位を上げて、13位。ご当地のNGT48からも加藤美南が76位と、プロパーメンバーとして初めてランクイン。この日発表されたNGTのメジャーデビューと二重の喜びとなった。また、人気メンバーで1期生の小嶋陽菜(AKB)がグループから卒業を発表した。
第1党は「AKB」
発表された80位までに各グループから何人ランクインしたのか。「議席数」でみると、第1党はAKBで28人だった。
総選挙にかけるファンの熱意は相当なものだ。投票期間中、CDに付いていた投票権はネットオークションで前年と同じ1枚800円前後で取引されていた。総選挙はこれまでミニコンサートの後に開票イベントという構成だったが、今年はコンサートと開票イベントを完全に分けた。チケットも別々だ。2つのイベントの通し券は大人で1万7600円。イベントの時間も異なるため単純比較はできないが、2つのイベントをみるファンの支出は前年の2倍になった。それでもファンはついてきた。
1票の価値は低下
1位指原莉乃が獲得した24万3011票。前年に自身が獲得した19万4000票から25%増えた。総選挙の規模が拡大するにつれ、年々投票数が増えている。80位でも1万を超え、個人の1票ではどうにもならない数字。ファンにしてみれば「自分ががんばって投票してメンバーの順位を押し上げた」という達成感が薄れてくる。規模の拡大にルール改正が間に合っていない。「規模に見合ったルールの再設定が必要になる」との声が増えている。
今年の総選挙から当日投票券という制度も始まった。昼のコンサートを購入した人に1枚投票券が配られたのだ。前日までの投票に合算された約3万票はどう結果に左右したのか。会場にいたファン20人に聞いたところ、事前に投票していたメンバーと同じという人が圧倒的だった。「コンサートのパフォーマンスをみて決めた」という人も一部にいたが、あまり選挙結果を左右する効果はなかったようだ。ファンが応援するモチベーションをどう保っていくのか、新しい仕掛けが必要になってくる。
若手メンバーの台頭で、ここ数年の課題だった「世代交代」が名実ともに実現しつつある。選抜にも4人が初めて名を連ねた。ただ、コアなファン以外に顔と名前がどれだけ浸透しているだろうか。メンバーの小粒化も指摘されている。2位の渡辺麻友はスピーチで「今、AKBはピンチだと思う」と危機感を強調した。若手メンバーも十分それを自覚しており、「AKBの第2章をひっぱって、AKBを進化させていけたらいい」(武藤十夢=AKB)などのスピーチが相次いだ。昨年12月に創設10年の節目を過ぎたAKB。さらなる飛躍に向けて手応えとともに、課題もみえた総選挙だった。(村野孝直)
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