スイーツ真壁 俺を覚醒させた山本小鉄さんの金言
WOMAN EXPO TOKYO2016
5月21~22日、東京・六本木で開かれたワーキングウーマンのための総合イベント「WOMAN EXPO TOKYO 2016」。新日本プロレスリングの人気レスラー、真壁刀義さんを招いて「スイーツ真壁が語る! プロレス流"あきらめねぇ心"の作り方」と題したトークセッションを開催しました。NIKKEI STYLE エンタメ!で「プ女子によるプロレス観戦術」を連載中のイラストレーター、広く。さんも参戦。若手時代からトップに上り詰めるまでの経緯など、魂のこもった熱いトークを大勢の「プ女子」に披露してくれました。(司会はNIKKEI STYLE エンタメ!編集長の苅谷直政。なお、真壁さんの持ち味を生かすため、一部汚い言葉遣いがあります)
--第54代IWGPヘビー級チャンピオン、181センチ、110キロ、真壁刀義入場! (来場者にペタペタ触られながら登場) 危ないですから近づかないでください! (名勝負シーンの映像を見ながら)真壁さん、これ痛そうですね。
真壁 痛ぇよ。痛い以外の何者でもないよ。でも、飯伏(幸太)すごい角度で落ちたね。
-- プロレスを観戦したことのある方、どれくらいいますか?
真壁 意外といるねぇ。ほんと物好きだなあ(笑)
--真壁さん、口は悪いけど、根はいい人ですから。
真壁 口が良くて根が悪かったら、それこそ本当に問題だろ!?
-- 真壁さんは本(『だから、俺はプロレスで夢を追う!』徳間書店)も出されています。
真壁 読んだ? あっそう。これにはね、俺の生い立ちや真壁刀義になるまでの経緯が書かれていて、プロレス自体が面白くなるよ。とにかく買って読んでよ。
-- 神保町の書泉の地下、格闘技本のコーナーにドンと積まれています。
真壁 余ってんじゃないよ。売れてるんだから勘違いすんなよ。
--近くには広く。さんの本(『プ女子百景』小学館集英社プロダクション)も並んでいます。
真壁そうそう。広く。さんの本が俺のより売れてるって、そんなオチかよ?
--いえいえ。(慌てて本題に入る)真壁さんのプロフィルです。1972年生まれですから43歳です。
真壁 そう、俺も43ですよ。ヤバくない? ホントあっという間だよ。
--今ではトップレスラーですけど、ここに至るまで結構、挫折もあったりとか。
真壁 挫折というか、ホント、クソみたいなレスラーだったね、昔はね。
--広く。さんはどのあたりからご覧ですか?
広く。 私は2003年ぐらいかな? 星野勘太郎さん(2010年没)が魔界倶楽部で「ビッシビシ」と言っているころだから、結構前ですね。
--04年にはリングネームを刀義に変えました。
真壁 その前は本名の真壁伸也でやってたんだよね。そのころ、うまくいかないことが多くて画数とか調べてね。真壁刀義に変えたんだよ。それでまた、すぐアキレスけんを切ってしまって。
--復帰するときに入場テーマを変えました。
真壁 自分の入場テーマに納得してなかったの。ジュニアヘビー級のころはノリのよいテーマだったんだけど、ヘビー級に転向後はテンポが遅かったり、リズムが合わなかったり。テーマソングって選手の性格とかに合ったものでないと、リング上でいいパフォーマンスができないんだよね。たまたま神奈川県藤沢市の体育館だったかな。試合前の準備をしているときにテレビ朝日の音響スタッフの人が「とうとう、真壁さんに使ってもらいたい曲が来ましたよ」って言うから、何?と思って。会場で流したらこれが「immigrant song」ね。
--古いプロレスファンの方ならご存知だと思いますが、レッド・ツェッペリンの「移民の歌」で、ブルーザー・ブロディが使っていました。
真壁 そう。ブロディってプエルトリコで刺されて死んでるんだけど、俺が海外修業に行ったのもプエルトリコ。かぶってて、びっくりしたよ。それで昔のレジェンドレスラーが使っていた技を必殺技に取り入れたら光るなとひらめいたんだ。当時のプロレスは自爆してけがするような技がはやっていたんだよね。だから、出し方やタイミングによってはフィニッシュに持っていけるんだよと、ブロディの必殺技、キングコング・ニードロップをパクったんだよ。それから、新日本が主催する「WRESTLE LAND」という大会に、「解き放たれたゴリラ」というキャッチフレーズで出たのよ。ならば、チェーンを持ってきた方が凶暴性が伝わるだろ? ブロディのテーマと必殺技のキングコング・ニードロップ、あ、チェーンもあるなと思って使ったんだよね。
-- このチェーン、重さ何キロあるかわかりますか? 5キロぐらい? 10キロ?(多数が挙手) 20キロ? 結構、みなさん、いい線ですね。
真壁 正解は30キロ。なーんてウソウソ。8キロですよ。高いんだよ。 4本で8万円。俺、金属アレルギーだから、特殊なコーティングがされてるんだよ。
--本題に戻ります。名勝負シーンです。(ジャーマン・スープレックス・ホールドの写真を見ながら)ブリッジの足のつま先が立っているのがキレイですね。相当トレーニングしないとできませんね?
真壁 俺が入ったのは1996年、20年前。新日本プロレスはね、頭のおかしいやつの集団なんだけど、プロレスラーになって業界ナンバーワンを目指すのは当たり前なんだよ。そうでないと世間に胸を張れないなと思った。何せ高校生のころはボンタンのズボンを履いて髪型はリーゼントで肩で風切ってるアホだったんだよ。俺の兄貴は出来が良くて地域で一番いい高校に入って、俺は一番下の高校に通ってたの。出来のいい兄貴と、そうでない弟。周りからはそういう目で見られてたんだよね。親父は東北の生まれで高卒で、学歴社会の中で苦しい思いしながら、俺と兄貴を育ててくれたんだよね。だから、ちょっと踏ん張って兄貴のように大学に行ってみてーなと思ったの。現役の時はパッパラパーだったけど、予備校でいい友達に巡り合って勉強法を教えてもらったのが大きかった。ホント、単純なこと。英語なんか何度も何度も辞書を引くんだよね。ぺったんこな辞書が膨らむくらい勉強すれば頭に入るんだよね。
--繰り返しが大事なんですね。
真壁 徹底的にやることなんだよね。それで、大学(帝京)に入って、女子学生と合コンやるようなチャラいサークルに入りたかったんだけど、体格のいい連中が勧誘してきたの。何かと思ったらサークルでプロレスやってるって。どうせみんなでビデオを見てるオタク系かと思ったんだけど、リングを借りて、学園祭とか町のお祭りとかでプロレスを見せるって言うの。高校時代はボクシングや柔道の県大会、地区大会で実績のあるやつらなんだよね。
-- 真壁さんも柔道をやっていました。
真壁 県内でベスト16まで行ったんだけどね。まあ、一生懸命やっていると花が咲くもんだよ。結局、プロレスラーになりたくて就職活動は全然しないで、体育館の隅でずっとスクワットをやってたの。最初は50回もできなかったのが、1週間後に100回、その次は150回、200回と……半年で1000回できたんだよね。普通の人から見たら、おかしいんじゃないかってことを新日本の入門テストではやるからね。スクワットやプッシュアップ(腕立て伏せ)を300回、500回と。あとはリズム感とか体のつくりとか見るんだよね。
-- 入門テストは1回落ちたんですよね?
真壁 そう、どうしようと思ったよ。でも、諦めが悪いから、もう一回受けよう、1年やって体力付けたら受かるだろうと。そしたら、雑誌で急募のお知らせが出たんだよね。合格者が逃げたんだよ。改めて 360人が書類審査とか現場のテストを経て、俺と高校生ぐらいの子が合格したんだ。彼はすぐに辞めたんだけどね。
--練習は厳しいらしいですね。
真壁 ホントにびっくりするよ。今は許されない拳(ゲンコツで制裁)がすごかったのよ。「てめえ、声が小さーいっ」と殴られる。ほかの誰よりも声を出して、誰よりも腰を落としてスクワットをやっているのに、「てめえ、ちゃんとやれーっ」と、またぶん殴られる。それで、クソっと思ってやると、また「声が小さーいっ」と。とにかく無理難題の押し付け。残れるものなら残ってみろというのが、当時の練習だったんだよね。今となっては何回ぶん殴らたか覚えてないよ。
-- それ、今ならパワハラですよね?
真壁 そう。着々と誰を訴えようかと考えてるよ(会場、大爆笑)。笑いごとじゃないよ。今だから笑えるんだからな、この野郎。当時のことはだいたい覚えているけど、細かい記憶がないのよ。人間ってね、思い出したくない、ツライ記憶を捨てちゃうんだって。俺、昔から自分が正しいことをやってるのに難癖つけられるのが一番嫌でね、最大限のストレスなんだ。(赤ちゃんが泣きだす)。ねっ、そうだろう? 子供は俺のことわかってくれるんだよ。とにかく、一番強くなって、そいつらを早く潰してやりたい、ねじ伏せたいと思ったんだよね。
--厳しいトレーニングに耐えられたのは、目をかけてくれる先輩の存在も大きかったそうですね。
真壁 一生懸命てっぺんを目指して頑張っていると必ず背中を押してくれる先輩とかいるんだよね。それをみんな見逃してはダメなの。俺のときはね、山本小鉄さん(10年没)。みんな知ってる? (お客様うなずく)。スキンヘッドの竹刀を持ったオジサン。レジェンドレスラーの前田日明さんも、小鉄さんの愛車、キャデラックのエンジン音が道場(世田谷区上野毛)に聞こえると縮み上がったらしいよ。
広く。 「鬼軍曹」と言われていましたね。
真壁 俺が入ったころはとっくに引退して仏の小鉄さんだったけどね。健康管理のためにトレーニングに来ると、面白い昔話をしてくれるの。こっちは朝から晩までトレーニングをやって、頭くらくらしながらちゃんこ番をやってるだろ。先輩の練習着などの洗濯や道場、合宿所の掃除とか雑用もあるしね。でも、小鉄さんが来ると楽しいのよ。ある日、練習で先輩に難癖をつけられて、道場の外に追い出されたんだよね。「入ってくるな、この野郎!」って。こっちは「すいませーん、開けてくださーい」と、子どもみたいに扉を叩くんだけど全然駄目で。モタモタしているとまた難癖をつけられるから早く準備しなきゃと思って風呂に行くと小鉄さんがいてね。二人とも真っ裸。小鉄さんから「オイ真壁、どうした?」と声をかけられて、「何でもないです」と答えたら、「何でもないわけないだろ、バカヤロー!」といきなり怒られて。「実は、誰よりも一生懸命やっているのに、なぜ難癖つけられるんでしょうか。意味がわかりません」と言ったのね。そしたら小鉄さんが「真壁、お前、誰よりも強くなれ。誰よりも強くなったら、お前のこと文句を言わないぞ」と。それで、ハッと気づいたんだよ。俺、先輩の言うことを聞いて練習さえやっていればデビューできてスターになれると思っていたけど、それは大きな間違いで、言われたことだけをやっていたらダメなんだよね。誰よりも強くならなきゃいけないって根本を忘れていたんだ。先輩の罵声とか厳しいトレーニングに付き合えば大丈夫って、守りに入っていたんだよね。そう思ったら次の日に考えが変わったね。「よし、だまされたと思ってやってみよう」と。やらされてるんじゃなくて、ねじ伏せるためにやるんだと思ったよね。誰よりも声を出してバンバンバンバン練習をやって、いつかコイツらやっつけてやろうと思いながら。そしたらね、スパーリングで先輩にボロ雑巾のように扱われていたのが、3年たって1人、2人ときめ、6年ぐらいしたら誰からも誘われなくなった。筋力とか根性とかすべて整ったんだよね。小鉄さん、これを言いたかったんだなーと気づいたね。
-- ちょっとした気づきを与えてくれる先輩とかいると助かりますよね。
真壁 そうそう。そういうことなんだよね。
--海外修行から戻ってヒールに転向されました。
真壁 自分から進んでヒールの道に行ったのよ。そのころ会社がプッシュしていたのが中邑真輔、棚橋弘至。まあ、花が咲かないんだよ。キレイすぎてお客に響かない。だったら、反体制側について上り詰めてやろうと思ったの。反骨心というか、負けてたまるか、だよね。
--そのころは新日本の業績も良くなかったですね。
真壁 自分が憧れたころのプロレスはタイガーマスクとか長州さんや藤波さんの対決など、ドロドロした人間模様があって、引き込まれたんだよね。だったら、俺が何とかしてやろうと。後楽園ホールって2000人ぐらいで超満員だけど、当時は閑古鳥が鳴くありさま、リングサイドの席が空いてたんだよ。なぜかといったら、てめえらがくだらないプロレスをやるから客が来ないんだと。そこから敵だよね、中邑、棚橋は。案の定、功を奏して日に日に客が増えてきたよ。当時はインディー(独立系団体)にも行っていたから。
広く。アパッチに観戦に行ったら、メジャーの真壁さんが来たとびっくりしました。
真壁 そのころは金を払って見るだけの価値のないレスラーだったね。金村キンタローが「ん、真壁は呼んでへんよ」と言ったら、会場に爆笑が起きたんだよね。ホントにイラッときて「笑いやがったな」と。でも実際にクソだったのは俺。笑われて当然だったと思うよ。アパッチのチャンピオンをボコボコにして観客の心を揺さぶればのし上がれると思ったんだ。まあ、ヒールに転向してベビーフェースを引きずりおろしてやろうと思ったのは正解だったよ。
--おっと、残り時間5分。これだけは聞いてくださいという質問が……。お好きなスイーツは?
真壁 オイオイ、ずいぶん端折ったねぇ。モンブランだね。何年たっても変わらないよ。知ってるよね? 俺が好きなのは不二家のモンブラン。120円ぐらいだったかな。子供のころはぜいたく品だから、家族の誕生日やクリスマスぐらいしか食べられなかったよな。その反動があっての今なんだよね。自分で金を稼ぐようになって、たらふく食ってやると思ったんだ。
--たくさん食べるとカロリーが気になりますけど、解消法は?
真壁俺、43でしょ。成人病が気になるの。他人事じゃないよ、大事なことなんだから。一番気をつけてるのは消費すること。簡単なのは散歩、ウオーキングです。
-- どれぐらい歩けばいいですか?
真壁 2~3日。そんなわけねーだろ!? まあ、20~30分、近所を回るくらいで、ちょっとしゃべるとキツイかな、というぐらいがいいんじゃない。脂肪が燃焼するぐらいがいいんだよ。
-- 質問のある方いらっしゃいますか?
真壁 (シーン……)おう、雰囲気読めよな。
広く。じゃあ、次に狙ってるタイトルは?
真壁 やっぱりプロレスラーである以上、IWGPヘビー級を狙わないと意味がないよ。(まだ獲っていないIWGPインターコンチネンタルの)白いベルトも狙いたいね。俺が言いたいのはね、ファンの記憶に残る試合をしたいってこと。コイツ、ヤバイよ、すごいよねっていう試合だね。それを目指しながらプロレス人生を駆け抜けていけば次が開けると思うよ。
--ほかにいらっしゃいますか? 後ろのお母さん。
お母さん スイーツ真壁のTV番組が終わって残念なんですけど今後は?
真壁 ブログやツイッターにもちょくちょく載せてるので、見ておいてね。食レポとかイベントで「スイーツ」は限りなく続けていくからこうご期待です。
-- 7月から真夏の祭典、「G1CLIMAX」が始まります。
真壁 出るよ。(目標は?)当然、優勝しかねえだろう。1カ月のシリーズって、相当キツイからね。特に8月の両国国技館3連戦は決勝まで進む最終決戦。これを見たらほかのプロレスを見られないよ。それぐらいすさまじいものがあるから。ぜひ見に来てよ。あと一つ、言いたいことがある。ものごとを最後まで貫くには意気込みだけでは絶対ダメ。準備が完全なら間違いなく貫ける。夢を持つのに年齢は関係ない。必ず準備していれば結果がついてくるから。努力はウソをつかないからね。
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ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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