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昇進面接で面接官は何をチェックしているか 出世する人は人事評価を気にしない(5)

2015/1/20

PIXTA

課長の手前までは「できる人」が出世する(下)

~組織における人事評価と昇進のルール

◆昇進面接で面接官は何をチェックしているか

私自身が担当している昇進面接の例を話してみよう(現在も数社で役員/部長昇任の面接官を担当しているので、多少脚色はさせていただく)。

面接に際して、面接官の手元には過去の人事評価履歴、小論文、昇進テストの結果などが並ぶ。それらをもとに、1人あたり20~30分程度の面接を行う。面接官が1人だけということはほとんどなく、2人から3人で同時に面接を行う。もちろんそれは複数の視点でチェックするためと、不正をなくすためだ。

私の場合、面接時に特に気をつけていることがある。

候補者が口にする「思い」を信用しない、ということだ。

何しろ相手は課長や部長、役員に昇進する候補となる優秀な人々だ。普段は多くの部下を従え、コミュニケーションも優れているし、素晴らしい実績も持っている。だからこそ昇進面接官の前に座るわけだ。彼らに対して、「もしあなたが昇進したあとで何をするか、抱負を聞かせてください」とか、「自分の長所と短所を簡単に教えてください」なんて聞いてみても、非の打ちどころのない素晴らしい答えが返ってくるだけだ。

では、どうやって昇進審査をしているのか。

あなたが私の前に座らないことを祈りつつ、ネタばらしをしてみよう。

私が昇進面接の現場で、必ずたずねる問いがある。

「あなたの自慢話をしてください」

そう尋ねると、99%以上の人が、「いや、特に自慢することはないんですが……」と言いつつも何かを話しはじめる。アイスブレイクとしての質問だと思う人もいるのだろう。

目の前にどんな困難があったのか。

困難に立ちはだかられたときにどう思ったのか。

何をどうしてその困難を乗り越えたのか。

それらを控えめに、かつ有能感にあふれた形で話す姿はたしかに昇進候補者としてふさわしいものだ。それらを聞きながら、面接官としての私はメモを取る。

そして次の問いを投げかける。

「なるほど。ではその時〇〇という行動をとったのはなぜですか?」

「その行動をもう少し具体的に教えてください。どんな順序で何をしましたか?」

「行動のあと、さらに何かする必要が生じたと思うのですが、何をしましたか?」

◆「思い」ではなく「行動」に能力は表れる

実は、最初の問いはアイスブレイクでもなんでもない。いきなり本質的な質問をしているのだ。あなたが何をしてきた人なのかを教えてください。そう尋ねているのだ。

思いを聞く気はない。行動だけを聞きたいのだ。

困難を困難と把握するために何をしたのか。

困難を乗り越えるために何から始めたのか。

どんな順序で何をしてきたのか。

その行動から、昇進候補者にリーダーシップがあるのか、チームワークを保てるのか、責任をとれるのか、成長のための自発的活動ができるのか、という判断基準の裏付けを探していく。

裏付けがとれる行動を聞けなければ、さらにどんどん質問をする。

職務経歴書を見ながら、「この時何をしましたか」とたずねる。

目標管理シートの結果を見ながら、「この目標を達成するために部下にどんな指導をしましたか。具体的にどんなことを言いましたか」と聞く。

小論文の内容を踏まえながら、「この小論文を書いたのはいつで、それはどんなシチュエーションでしたか」と、内容ではなく、書くためにとった行動をたずねることもある。

なぜそんな質問をするかといえば、とった行動に嘘はつきづらいからだ。

何を考えたのか、という質問には簡単に嘘で答えることができる。こんな答えが望まれているのだろう、ということがわかるからだ。

でも、行動の正解はわかりづらい。

本当にそうしていないのであれば、想像で一つ正解を答えられたとしても、次には間違ったことを想像して話してしまう。本当に経験した行動しか、筋道立てて話せないものなのだ。

◆なぜクレーム客に直接足を運んだ課長を昇進させなかったのか

例えば、こんな昇進候補者の答えを聞いたことがある(もちろん詳細は省く)。

「自慢、というほどではありませんが、常に顧客満足を高めることを意識してきました」

「具体的には?(顧客満足を高めるための行動が聞けるだろうか?)」

「理不尽なクレームをおっしゃるお客様がいました。担当者では対応しきれなくなったので、私が直接出向きました。そして、当社としてできる範囲の中で、私個人の裁量で誠意をもって対応し、満足してお帰りいただきました」

私はこの人を落とした。私と一緒に答えを聞いていたもう一人の面接官も同様だ。基本的に面接官同士は採点前の意見交換はしないが、採点後の評価基準すりあわせは行う。面接は一日では終わらないことが多いからだ。そのすりあわせで、もう一人の面接官と私の見解は同じだった。

もしこの人が主任や係長への昇進候補者だったら通しただろう。あるいは課長昇進候補者でも、通したかもしれない。

でも、この人は部長昇進候補者だったのだ。

私が下した判断は【顧客満足を“高所から”実現する行動がみられない】【部下に対してクレーム対応を指導する行動がみられない】というものだった。

彼は、私たちにどう答えるべきだったのだろうか。そもそも、部長候補になるレベルの人が、昇進面接の場で、一顧客への対応を答えたこと自体が間違っている。それは、部長手前の役職に就いているにもかかわらず、部下を育てることができていない、と証明しているようなものだからだ。

ちなみにこの部長候補者は、直近3年ほどの人事評価の結果が素晴らしく高かった。そして、私たちが落としたとき、人事部門からあらためて確認すらあった。

「○○さんが落とされるなんてありえない、と現在の部長がクレームをつけているんですが……」

私は答えた。

「その部長にアセスメントをしたほうがいいですね。あるいは、これは想像でしかありませんが、その部長はマネジメントの仕事をしていないんじゃありませんか? アセッサーの私たちに確認するのもいんですが、その部長の部下たちに、三六〇度評価的なヒアリングをしてみてはいかがでしょう」

結果として、その部長が更迭された、ということはなかった。ただ、彼が(私たちが落とした)部長候補者を高く評価していた理由は判明した。その部署はどちらかと言えば閑職で、優秀な人材があまり回ってきていなかった。だから部長は、とにかく頑張ってくれている人を高く評価していたのだ。そして自分が定年するまでに、頑張ってくれている彼を部長に就けてあげたかったのだ。

そんな気のまわし方は不要だった。閑職であれ部長ポストに昇進したい人は、他の部署にいくらでもいたからだ。それに自部署を閑職にしてしまっていたのは、ほかでもないその部長自身のマネジメント力不足だったのだから。

やがて部長は年齢通りに退職し、私が落とした部長候補者は別の部署に異動した。私は今でもその会社で部長昇任アセスメントを担当しているが、その人はいまだに面接候補に挙がってくることはない。彼を成長させるためにアセスメント結果のフィードバックもしたはずなのだが、もしかすると彼は、大所高所からビジネスをマネジメントするより、直接顧客対応をしたい人なのかもしれない。それはそれで、悪い選択肢ではない。

[日経Bizアカデミー2015年1月20日付]

日経Bizアカデミーのアーカイブ記事のうちの人気連載を再掲載しました。次回は6月25日(土)に公開します。平康氏の書き下ろしの新連載も合わせてご一読ください。

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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