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ミュージカル界の若手トップ俳優がテレビ進出する理由

日経エンタテインメント!

2016/6/20

(右)山崎育三郎 やまざき・いくさぶろう 1986年、東京生まれ。子役を経て『レ・ミゼラブル』にマリウス役で出演。『モーツァルト!』で初主演を果たし、第36回菊田一夫演劇賞を受賞。 (中)井上芳雄 いのうえ・よしお 1979年、福岡生まれ。東京藝術大学在学中の00年、『エリザベート』のルドルフ役で鮮烈デビュー。代表作に『モーツァルト!』『二都物語』他多数。 (左)浦井健治 うらい・けんじ 1981年、東京生まれ。00年に『仮面ライダークウガ』で俳優デビュー。読売演劇大賞や紀伊國屋演劇賞など多数受賞経験を持つ演技派。(写真:藤本和史)

『半沢直樹』の悪役でブレイクした石丸幹二を筆頭に、近年、テレビ進出が目立つミュージカル俳優たち。そんななか、ミュージカル界で抜群の人気を誇る若手スター、井上芳雄、浦井健治、山崎育三郎のユニットStarS(スターズ)が、ミュージカルコメディ番組『トライベッカ』をWOWOWでスタートした。なぜ今、テレビでミュージカル俳優たちが求められるのか。本人たちの認識と“野望”を訊いた。

―― ミュージカルコメディと銘打った『トライベッカ』は、一体どんな番組なのでしょう。

井上芳雄(以下、井上) イメージとしてはクレージーキャッツのように、さんざんコントをやって、最後に歌やダンスがあるという感じですね。僕らの番組を作らせていただけることになったとき、普通に歌って踊るだけではつまらない、何か意外なことをやって、ミュージカルに縁のない方々にも「この人たち、面白い」と思ってほしかったんです。そこで福田雄一さんに作・演出をお願いしたところ、コントを中心にやってみようということになりました。

■ミュージカル俳優の特性は?

WOWOWオリジナルミュージカルコメディ 福田雄一×StarS(井上芳雄・浦井健治・山崎育三郎) 「トライベッカ」 AKB48の渡辺麻友、佐藤二朗、佐藤仁美らが共演、笑いあり歌ありの濃厚プログラムが展開する。月1回放送。次回「#3」は6月24日0時(23日深夜)からWOWOWプレミアムにて。7月9日より「“僕こそ井上芳雄”よしお本祭り」も放送

山崎育三郎(以下、山崎) 実は福田さんは大のミュージカルファンで、既に何本かミュージカルの演出もされているんです。テレビ番組をやるにしても、ミュージカルのこともご存知の福田さんなら、きっと僕らの新たな一面を引き出して下さると全てを委ねたら、すごく面白いものになりました。例えば、『キャッツ』のメイクをした男たちが、ただただ屋台で酔っ払ってしゃべっている…なんてコントを撮ったりしています(笑)。

井上 シュールなんだよね(笑)。

浦井健治(以下、浦井) でも、その台本が手元に来るのは収録の数日前なんです。同じタイミングで新曲と振り付けも届くといった感じで、撮影はハードでしたね。

井上 極限状態だっただけに、最後はやりたい放題(笑)。幸い、メディアからの取材がものすごく多くて、注目していただけているんだなと手応えを感じています。

彼らが注目される背景には、昨今のドラマなどでミュージカル俳優の需要が高まっていることがある。歌唱力、ダンス力、演技力と様々な技術を備え、大劇場での演技でスケール感も身につけている彼らは、時間の制約のあるなかで様々な演出を試したい監督たちにとって理想的な人材。とりわけ池井戸潤原作ドラマのような明快な勧善懲悪作品の場合、表現力に幅のあるミュージカル俳優は魅力的だ。2015年ヒットした『下町ロケット』では、山崎育三郎のほかミュージカル界から橋本さとし、石井一孝が出演、ドラマを盛り上げた。

―― 最近では、井上さんは『わたしを離さないで』、浦井さんは『ニーチェ先生』、山崎さんは『お義父さんと呼ばせて』などに出演。映像作品にミュージカル俳優が引っ張りだこの状況をどうとらえていますか。

浦井 そういえば最近、テレビの現場で「ミュージカル俳優さん、活躍しているね」と言われることが増えてきましたね。

井上 ちょっと前まで、テレビに出演する舞台人というと小劇場出身の方が多かったけど、ミュージカルというジャンルが一般に認識されるようになってきた。僕ら自身、台詞劇などいろんな作品に出演することが増えて、多様な芝居ができるようになってきたということもあるのかもしれません。

山崎 舞台をやってきていることでスケールの大きな演技ができたり、体のラインをきれいに見せるような芝居が知らず知らずできるようになっているんだな、というのは外の世界に出てみると感じますね。それに作品に出演するだけでなく、1人でディナーショーやトークショーもやっているので、しゃべりやその場の雰囲気を楽しくするエンターテイナー精神も鍛えられているのかもしれません。

■現場で突然「歌ってみて」

井上 テレビドラマは現代のものが中心で、等身大の演技が求められることが多いと思うけど、作品によってはシリアスで、背負うものがとても大きな作品もあるじゃないですか。この前僕が出演した『わたしを離さないで』はそういう作品だったので、舞台で自分より大きな“時代”を背負うことの多い僕はフィットしていたのかなと思います。それと、映像の方って台本を見て、「このセリフ長いなあ」っておっしゃることが多いのに気づきました。僕ら舞台俳優は長台詞に慣れているので、耐性があるのかなと思いますね。

山崎 でもまだまだ、(映像の現場では)落ち着きませんね。『下町ロケット』のときなんて、現場でどこにいたらいいのか分からなかった(笑)。

井上 僕も、「ミュージカル俳優なら歌ってみてよ」といきなり言われたことがありますよ(笑)。

(写真:藤本和史 ヘアメイク:宮内宏明 スタイリスト:宮崎智子)

浦井 ミュージカルを全く見たことがない人もいますからね。観劇って、お金も時間もかかることなので仕方ないですよ。でもミュージカルはミュージカルでしか表現できない芸術だからこそ、体験するとその印象や感動は強烈なんです。僕は映像の現場で 「あの芝居であの役をやっていた人だね」と覚えていただけていることも多くて、すごくうれしい。劇場に行くことで人生が豊かになると感じてくれる人が増えたら、という思いで、僕らはStarSを通してミュージカルをアピールしているつもりです。

そのStarSは所属事務所やレコード会社が仕掛けて生まれたのではなく、彼ら自身の熱い思いが周囲を巻き込んで誕生した、珍しいユニットだ。そもそもは2011年に帝国劇場100周年を記念したテレビ番組の座談会があり、井上が相手に浦井と山崎を指名したのが誕生のきっかけだという。

――井上さんがお2人に声をかけた理由は?

井上 彼らが年下で、僕が威張れると思ったから…というのは嘘ですが(笑)、当時、この2人も芯となる役で作品を担う立場になりつつあったし、ミュージカルが心から好きでやっているというところが自分に似ていて、これからも一緒にこの世界でやっていくんだろうなと思ったんです。それまであまり話す機会がなかったから、初めてちゃんと話したんですが、座談会が盛り上がったんだよね。

山崎 次に行動したのが僕で、「何か一緒にやりませんか」「絶対やるべきですよ」ってしつこく2人にメールしたんです。

浦井 で、僕はその展開を楽しませていただいて。

井上 お客様か!(笑)

浦井 (笑)。それからシングルのリリース、そしてシアター・オーブや日本武道館でのコンサートにつながっていったんですよね。

井上 やりたいんですって言い出したら周りの方々が次々「いいね」と言って、支えてくださって。とんとん拍子で進みました。

浦井 その結果、まさかコント番組にたどり着くとは思ってなかったけれど(笑)。

井上 まあ、3人の相性も良かったんだよね。

山崎 僕らのようにユニットを組むのはミュージカル界で初めてで、業界内でも注目されていることはひしひしと感じていました。そんななかで武道館コンサートが実現して、開演前に舞台袖で「行くぞ!」と声をかけたときには、3人にしか分からない高揚感があって。そういう経験を通じて、絆が深まっていったんだと思いますね。

■舞台への関心を高めたい

――では、今後のヴィジョンは?

浦井 今回の番組が皆さまにどう見ていただけるのか、楽しみでもあり、不安でもありますが(笑)、それが第2弾に続くようになったら素敵だなというのがひとつ。さらに、それをStarSの次のコンサートとリンクさせていくことができたらと思いますね。僕らの“第2章”が華やかになることで、初めてミュージカルに足を運ぶ方が増えていけばいいなと思います。

山崎 僕たちが一番輝く場所はやっぱりライブだと思っていますし、応援してくださっている方に感謝を伝える場でもあるので、まずは次のライブをやりたいですね。日本武道館でまたできたらいいなという気持ちはあります。

井上 僕らは普段それぞれに(ミュージカルの舞台で)一生懸命頑張っていますが、StarSとして3人で活動しているときは、自分の名前を出すより、とにかく3人で人目を引いて、ミュージカルに興味を持つ人を増やしていけたらいいなと思っています。『日経エンタテインメント!』を読んでいても、昔はシアターガイドのページがあったけどそれもなくなっていたり、エンタテインメントという世界の中で、舞台の存在は小さく見られがちです。そんななかでも自分たちが活動することで、ミュージカルも僕らも、注目される存在であり続けたい。それ無茶だよ、と思えるようなことも含めて、どんどんやってみたいと思いますね。やってみてダメだったら、逃げればいいから(笑)。

浦井 逃げないって(笑)。

井上 ダメだったら解散して、またソロで頑張ればいいだけなんです。失うものが、僕らにはないんですよ。その強みがあるので、どんどんいろんなことに挑戦していきたいなと思います。

(ライター 松島まり乃)

[日経エンタテインメント! 2016年6月号の記事を再構成]

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著者:井上芳雄
出版:日経BP社
価格:1,728円(税込み)


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