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「女性活躍」掲げれど 音速の人生設計、まるでF1 女男 ギャップを斬る(水無田気流)

2016/6/5 日本経済新聞 朝刊

 「平成28年版男女共同参画社会白書」では、依然として変わらぬ女性の無償労働負担、低水準の女性管理職者割合、そして今なお第1子出産を機に6割の女性が離職するなどの現状が浮き彫りになった。

 生産年齢人口の急速な減少を受け、「女性活躍」が喧伝(けんでん)されているが、肝心の女性を活躍させ得る環境は未整備なまま。この状況を打開せず、女性「だけ」に就労も出産も高水準な育児も家事も介護も…という活躍を求めても達成は極めて難しい。

 たとえば34歳までに子どもを2人以上産み育てつつ就労継続すべしという、政府推奨の理想的ライフコースを再現すると、次のようになる。

 まず、22歳で大学を卒業するまでにファミリーフレンドリーな会社に内定をもらう。そこから3年間血眼で婚活し25歳までに伴侶候補をつかまえる。結婚相手との平均交際年数は4年、結婚準備に半年から1年かかることから逆算した年数である。

 そして交際3年以内にプロポーズにもちこみ、28歳で婚約、29歳で結婚。直後に妊活し30歳までに妊娠。排卵は1年間12回だが、最短で職場復帰するためにベストな出産時期は自治体が来年度の保育所募集を締め切る前の8~10月であり、排卵3回分しかチャンスがない。

 このように31歳までに第1子を出産、妊娠中から保活して託児先確保、32歳で職場復帰。さらに第1子は1年以内に卒乳し排卵を回復して33歳で第2子妊娠、34歳で第2子出産。これらをこなしつつ、妊娠予定の30歳までにマタハラにあわず大手を振って産休・育休を取得し得る程度のキャリアを確立せねばならない。

 いったいこれは何のF1レースだろうか。いや、F1ならばチームのサポートがあるが、上述の白書が示すように女性は孤軍奮闘だ。弱小チームでも超人的能力で成果を出せるのは、トールマン時代のアイルトン・セナくらいではないか。

 2013年には女性が35歳を過ぎると妊娠・出産しにくくなるとの啓発目的で検討された「女性手帳」が、当の女性たちからは「余計なお世話」と立ち消えとなった。往年の名レーサー、ナイジェル・マンセルではないが、女性たちの内心は「走ってない奴は黙ってろ!」だったに違いない。

みなした・きりう 1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。

〔日本経済新聞朝刊2016年6月4日付〕

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