新シュー&エクレア、「インスタ栄え」で勝負
次々に登場する新しいスイーツ店。最近の特徴は「味と同じくらい見た目を意識した新作が増えている」ことだ。狙っているのは交流サイト(SNS)での支持と拡散。実際に作り手側がビジュアルを意識している3ブランドのスイーツを紹介する。
「食べてみたい欲求よりいい写真が撮れる商品を優先」
最近、パティスリーの集客ツールとして大きな影響力を持っているのが、インスタグラムやFacebookなどのSNS上にシェアされる写真。アップする人も、たくさんの「いいね!」がもらえるように、おいしく見えるベストショットを選ぶ。若い女性の間では「食べてみたいという欲求ではなく、いい写真が撮れる商品を購入する」という声もあるほどだ。
インターネット会社トレンダーズが2015年9月に行った「お料理写真」に関するSNS調査によると、料理の写真を投稿する際に65%の女性が「より見栄えをよくすることを意識したことがある」と回答。同社の「女性のInstagram投稿」調査では、79%の女性がインスタグラムで見た「その食べ物/飲み物を"食べてみたい"と思った」と答えている。
この傾向を意識し、見た目を重視するパティスリーが増えている。中でも、華やかなデザインで注目を集めているのが、シュークリームやエクレア。シュー生地や、クリームのバリエーションだけでなく、皮の上に飾り付けるチョコレートで絵を描くなど、近年はアート作品のようなビジュアルのものが増えてきた。
今回はその中から、本場フランスから上陸したパティスリーのシュークリーム&エクレアを取り上げる。演出は三者三様。どこも味はもちろん、「見た目」にもこだわった人気店だ。
ラインアップは200種類 毎回違う味に出会えるエクレア専門店
鮮やかな色使いで人気のエクレア専門店が「レクレール・ドゥ・ジェニ」だ。
エクレアの語源であるフランス語の「エクレール」は「稲妻」という意味。「それぐらい早く食べないと中身が飛び出してしまうから」「細長い形が空を切り裂く稲光に似ているから」など諸説ある。エクレアはフランスのパティスリーの定番商品で、細長いシュー生地を焼き上げ、中にはクリームを、上にはチョコレートや糖でコーティングするのが一般的だ。
宝石のように展示されたエクレアのみが並ぶ専門店「レクレール・ドゥ・ジェニ」のクリストフ・アダンさんは、パリの名店「フォション」で洋菓子部門のエグゼクティブ・シェフとして勤務していた2004年に、次々とカラフルなエクレアを開発。12年、パリ・マレ地区に「レクレール・ドゥ・ジェニ」をオープンした。日本には14年10月、日本橋・横浜の高島屋に出店。現在はパリ市内に8店舗、日本では5店舗、香港、ソウルにも進出している。
「鮮やかな色使い、絵画の転写など視覚的に特徴のある独創的なエクレアが特徴で、常時約10種類のエクレアを販売し、季節に合わせた味わいのエクレアを展開しています」(高島屋 洋菓子担当バイヤー 野山真由美さん)
エクレアにはすべてナンバリングがされており、ラインナップは約200種類。そのなかから店頭には約10から12種類をラインアップ。季節ごとに種類を変更して展開している。
「定番では『キャラメル ブール サレ』(432円)が人気です。季節限定商品はよく選ばれていて、日本の歳時記に合わせた商品『こどもの日』や『ひなまつり』『母の日』商品も人気です。1人あたりの購入数量は3本~4本。同じ商品ではなく、すべて違う商品を買われる傾向にあります」(野山さん)
違う製品を選ぶのは、それぞれのビジュアルが目を引くということ。実際、シェフも視覚を意識しているという。
「まず視覚から様々な情報が入るので、シェフはエクレアのビジュアルを重視しています。撮影にもこだわりがあり、ビジュアルを美しくみせる向きや並べ方を意識してご自分でも写真をとったりしているんですよ」(野山さん)
まるでアメとみたらしのようなシュークリーム「D'ANGO!」
日本1号店を出店するにあたり、日本の伝統的なお菓子を模したシュークリームを作り出したのが「ラ・パティスリー・デ・レーヴ」。
2009年秋にパリ7区の高級ショッピングストリートに1号店がオープンした同店は、12年には日本(京都)にも進出。現在ではパリ市内の5店舗の他、ミラノやドバイなどにも出店している。
16年3月、JR新宿駅新南口ビルと新ランドマーク「新宿ミライナタワー」内にまたがる商業施設NEWoMaN(ニュウマン)にオープンした新宿店で東京に初進出。その新宿店とパリの店舗でのみ発売したのが、お団子を模したシュークリーム「D'ANGO!」だ。
大の日本びいきであるオーナーのティエリー・テシエさんが、1号店をオープンするために京都を訪れた際に気に入ったのがお団子。これをお菓子として表現したいと考えたことからお団子そっくりに作られた「D'ANGO!」が誕生した。みたらし団子のようにカラメルがけになった「カラメル」とアメに見せたマロンクリームが絞りだされた「マロン」がお団子のようにパックに詰められ、2本セットでの販売となっている。価格は600円。
「やはりインパクトのあるビジュアルですので、若い女性のお客様がよく足を止めて、購入されていきます。また会社員のようなお客様が手土産に購入されるケースも多いです」(ラ・パティスリー・デ・レーヴ ジャポン広報 石井亜矢子さん)
形は本物の「団子」に見えるように、しかし味は純フランス菓子になるようにこだわっている。また、新宿駅発着の長距離バスが集結する「バスタ新宿」も新宿NEWoMaN内にオープンすることを考え、手を汚さず手軽に食べられることを意識した。
「当店は見た目でも大きな驚きをお客様に与えたいと考えています。だからSNSに関しては、重要な販促ツールとして認識しています」(石井さん)
店頭で注入! 色とりどりのクリームを味わうシュークリーム
かわいいお菓子はもちろんだが、店頭で見られるお菓子作りや専用バッグなどもSNSで取り上げられているのが、シュークリーム専門店「シュー・ダンフェール パリ」。
フランス料理界を代表するカリスマシェフ、アラン・デュカスさんの監修で14年にパリに誕生し、できたてのおいしいシュークリームを提供する同店は、日本に初上陸したばかり。16年5月、新宿のNEWoMaNにオープンした。
シュークリーム自体は丸く小さめのサイズで、「ふた口のぜいたく」を提案している。定番3種類と季節限定を含む日本限定3種類の自家製クリームを、注文に合わせて店頭でシュー生地に詰めて販売する。
店舗はスタイリッシュな工房一体型で、店内で焼き上げたシュー生地にクリームを注入器から詰めるスタイルとなっている。実験器具のような注入器は、日本上陸にあたり、特注で作られた日本オリジナル。この注入の様子を撮影していく人も多い。
フレーバーごとの単品販売は行っておらず、パリと同じレシピのショコラ・キャラメル・アグリュムの定番商品が3個セットになった「トラディション」(290円)、季節限定を含む日本オリジナルフレーバーが3個セットになった「セゾン」(340円)、すべてのラインアップがセットになった「グルマン」(680円)のみでの販売形態を採用。3個セットは三角すい型のケースに、6個セットのものは横長の専用ボックスにて販売されている。行列できている日は1人6個までと購入制限を行っている。
「シューを使ったお菓子は、フランスでは伝統的なお菓子として親しまれています。通常はパティスリーで販売されているシュークリームを、もっと日常的に、カジュアルに楽しんでほしい、そしてアラン・デュカス氏が愛するシューをできるだけ多くの皆さまとシェアしたいと考え、このような販売形態となりました。6種のうち、3種類はパリからそのままのレシピをもってきております。フランスでは当たり前の小ぶりサイズですが、日本の方々には新鮮にうつるかもしれません」(シュー・ダンフェール パリ マネージャー 和田 吉春さん)
飽きさせないためには視覚も重要
新しい商業施設のオープンが相次ぐ中、「日本初進出」の店も数多く登場している。しかし、オープン当初は行列ができても、その人気を継続することは容易ではない。ポップコーンやパンケーキも、オープン当初の爆発的な人気を保っているのは1ジャンルに多くて2つ程度。オープンから時間がたつにつれ、飽きさせない工夫が必要になる。
これまでは新メニューの投入や期間限定商品、他社とのコラボレーションなど新しい味わいの開発をアピールする店が多かったが、インスタグラムをはじめ、写真系SNS全盛の時代だけに、味はもちろん、見た目の魅力も重視すべきポイントとなってきている。「レクレール・ドゥ・ジェニ」のクリストフ・アダンさんの言葉通り、スイーツの世界でも、「視覚から得られる情報」がますます重要になっていくのだろう。
※記事内の価格はすべて税抜き表記
(ライター 北本祐子)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。