助けてくれる人へ、英語できちんとお礼言えますか?
デイビッド・セイン(8)

NK商社のある日の出来事。いつも無理難題をふっかける、社員泣かせの田中社長。突然の急ぎ仕事をサリーに振ります。サリーは、泣く泣くデートの約束をドタキャンする羽目に。しかし、当の社長は息子の誕生日だという理由で、サリーひとりに仕事を押し付け退社します。いちおう、お礼の言葉を述べた社長ですが、社長の言葉は上手にサリーに伝わったのでしょうか。
皆さんは、英語でお礼の言葉を言えますか?

イラスト Dセイン
Tanaka: Hey, Sally. Are you headed out? Actually, I need to talk to you for a minute.
Sally: Sure, what's up?
Tanaka: I'm afraid an emergency just popped up. I got a request from our lawyer. He needs to have our financial records for the last 10 years.
Sally: Oh, I see. That shouldn't be a problem. I can pull them up on my computer in no time.
Tanaka: I wish it were that easy. We have to go to the warehouse and go through all the documents.
Sally: Oh...we?
Tanaka: Well, by "we," I mean you. It's my son's birthday and I promised him I'd take him somewhere.
Sally: But I have a date tonight. He's not going to be happy if I just cancel at the last minute.
Tanaka: Come on. You're my last hope. Mariko says she has to look after her sick mother.
Sally: Good grief. Well, I guess if I have to, I have to.
Tanaka: Thanks a million. I owe you one.
【対訳】
社長: はい、サリー。もう行くところかい? ええとだね、ちょっとだけ君に話があるんだ。
サリー: ええ、何かありましたか?
社長: 困ったことに緊急事態が起きてしまったんだ。わが社の弁護士から依頼があった。わが社の10年間の財務報告書が必要なんだそうだ。
サリー: 分かりました。それほどの問題ではないでしょう。すぐにコンピューター上に引き出せますよ。
社長: ことはそんなに簡単ではないんだよ。倉庫に行って、すべての書類をチェックしなくちゃいけないんだ。
サリー: まあ…私たちが、ですか?
社長: 何と言うか、私たちではなく、その、君なんだ。今日は息子の誕生日で、どこかに連れて行く約束をしてしまったんだ。
サリー: でも、私だって今夜デートなんですよ。こんな土壇場でキャンセルしたらきっと彼は怒ると思います。
社長: 頼むよ。君にしか頼めないんだよ。まり子は病気のお母さんの介護をしなければならないそうだ。
サリー: 何てことでしょう。私がしなければならないなら、しなければならないんでしょうね。
社長: ありがとう。恩に着るよ。
解説)
▼ be headed out: 出る、出発する
▼ What's up?: どうかしましたか?何か起きましたか?
▼ pop up: 突然起こる、急に発生する
▼ That shouldn't be a problem.: 問題にはならないはず、大丈夫なはずです
*仕事を頼んだ場合、このひと言を聞けば頼んだ人は安心するはずです。
▼ I wish it were that easy.: そんな楽なもんじゃない。
*「それほど、簡単であればいいがなあ」が直訳。すなわち「現実はそんなに簡単なものではない」ということ。
▼ go through: 精査する、ひとつずつ検討する
▼ He's not going to be happy.: 彼は怒るでしょうね。
*この場面でのnot be happyは「怒る」
▼ at the last minute: 土壇場で、ぎりぎりになって
*cancel at the last minute: ドタキャンする
▼ Come on.: ねえ、いいだろう(頼むよ)。
▼ You're my last hope.: 君が最後の希望なんだ、すなわち「君しかいないんだ」ということ。
▼ if I have to, I have to.: もし~しなければならないとしたら、しなければならないのでしょう。
*「仕方がない」のニュアンス。
▼ Thanks a million.: Thank you a million times. すなわち「100万回ありがとう」の意味。感謝の気持ちが深いことを表しています。
▼ I owe you one.: あなたにひとつ借りができました。すなわち「助かりました」の決まり文句。I owe you. の頭文字をとったIOUは「借用書」のこと。
Mariko: Good morning. Oh, sorry. Did I wake you up?
Sally: Oh, good! You saved my life. I feel asleep, but I have to collect the financial records for the last 10 years by 10:00 this morning.
Mariko: What? You put in an all nighter?
Sally: Yeah. Mr. Tanaka twisted my arm and I had to cancel my date to do this.
Mariko: That's funny. It's for the lawyer, right? The request from the lawyer was for financial records for the last month, and he needs it by the 10th of this month. We still have a week.
Sally: You're not serious, are you? Did he do this on purpose? Is he picking on me?
Mariko: I'm sure it was an honest mistake.
Sally: No, it wasn't an honest mistake-it was a stupid mistake.
Mariko: Why don't you go home and hit the sack? I'll cover for you.
【対訳】
まり子: あら、ごめんなさい。起こしちゃった?
サリー: ああ、よかった! 助かりました。寝ちゃったんですけど、今朝の10時までに、ここ10年間の財務記録をすべてまとめなければならないんです。
まり子: 何ですって! あなた徹夜したの?
サリー: 私にこれをさせるために、社長が強引にデートをキャンセルさせたんです。
まり子: 何か変ね。これって弁護士のため、なのね? 弁護士からの依頼は先月の財務記録で、今月の10日までに必要なのよ。まだ1週間もあるわ。
サリー: 本当なんですか? 社長はワザとこうしたんですか? 私をいびっているんでしょうか?
まり子: うっかりミスだと思うわ。
サリー: いえ、うっかりミスではありません――とてもバカげたミスです。
まり子: さあ、家に帰って、床に就いたら? 私があなたのカバーをするから。
解説)
▼ You saved my life.: あなたは私の命を救ってくれました、すなわち「助かりました」。
*それほど大げさではなく使えます。You are a lifesaver! も同じです。
▼ put in an all nighter: 徹夜する
▼ twist one's arm: 人の腕をひねり上げる、すなわち「強制する、無理強いする」の意味。
▼ That's funny.: 何か変ね。
*funnyは「雰囲気の中に、何か通常でないものを感じる」ときの「変な」の意味。
▼ on purpose: わざと、故意に
▼ pick on: ~をいびる、からかう、いじめる
▼ honest mistake: うっかりミス、悪意のないミス
▼ Why don't you…?: ~したらどうですか?
*提案する場面でのフレーズ
▼ hit the sack: 床に就く(米・話)
セインのビジネスひと口メモ
アメリカには「サービス残業」のようなものはありません。社員は残業すれば、通常、平時の1.5倍の賃金を手にすることができます。アメリカの会社は、残業費を払うことに、非常に気を遣っています。アメリカの多岐にわたる訴因を見ていれば分かると思いますが、もし、その支払いを怠れば、簡単に訴訟を起こされ、罰金を払う羽目になることを、皆よく承知しているからです。
日本では、例えば「課長以上」など、役職がある人は、どれだけ残業しても、残業費は支払われません。アメリカでもその点は日本と同じです。
しかし、日本の会社とアメリカの会社を比べれば、アメリカの経営陣は日本よりもずっと大きな報酬をもらっています。平社員の報酬との比較の差は絶大です。
ちなみに「サービス残業」を英語で説明するにはwork overtime without getting paid for itと言えば、理解してもらえるでしょう。
Keep trying
:D セイン

米国出身。累計売り上げ部数350万部の著作を刊行してきた英語本のベストセラー著者。英会話学校経営、翻訳、英語書籍・教材制作などを行うクリエーター集団「エートゥーゼット」(www.smartenglish.co.jp)の代表を務める。日本で26年以上の豊富な英語教授経験を持ち、これまでに教えた日本人は数万人にのぼる。日本人に合った日本人のための英語マスター術を多数開発している。
東京・文京区のエートゥーゼット英語学校の校長を務めるとともに、英会話教育メソッド「デイビッド・セイン英語ジム」(http://www.david-thayne.com)の監修も行っている。主な著書に、「チームリーダーの英語表現」(日本経済新聞出版社)、「ネイティブが教える英語の語法とライティング」(研究社)などがある。