「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社とリクルートが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです
第12回 メンバーの行動をマネジメントする方法(1)~見本になる、叱る、褒める~
井上オフィス代表 井上 健一郎
PIXTA
チームを活性化し、内的生産性を高めることでメンバーの行動の質は高まり、生み出される成果の質も高まります。しかし、具体的な行動の仕方を教えないで良いということではありません。例えば、他者とのコミュニケーションを高める必要性を理解していたとしても、それで即対人スキルを身につけられるというものではないのと同じです。対人スキルにおける「具体的なやり方」を知っている方がより良いコミュニケーション能力を身につけられることはみなさんもご存じのとおりです。
今回から数回にわたり、メンバーの行動に関するマネジメント法について話を進めていきます。
リーダーが見本を示す
周りの人間が誰も動かないという環境の中にいるよりも、周りの人間が皆一生懸命動いている環境にいる方が動く気持ちになりやすいのは当然です。
リーダーは特にメンバーにとって目に入る存在ですから、リーダーの動きがチーム全体に及ぼす影響は計り知れません。
特に、リーダーの行動習慣、つまり「いつもやっていること」の影響が大きいのです。朝誰よりも早く出社するリーダーと、誰よりも遅くくるリーダーの2つのチームでは、前者のチームの出社状況のほうがより良くなるはずです。
リーダーになったら、他の人が感心するような行動習慣を身につけることを心がけてください。先の例に出た「誰よりも早く出社する」という行動習慣はメンバーの気持ちが引き締まる効果が高いということで、是非お勧めしたい行動習慣のひとつです。その他にも身の周りやみんなで使う場所の整理・整頓・清掃を行うという行動習慣を見せることもいいでしょう。
他には、メンバーと定期的に必ず交流するというのもメンバーが感心を寄せるリーダーの習慣のひとつです。私の知っている社長で、毎日午前中2時間は自ら職場に足を運び、社員ひとりひとりとそれぞれ10分ほど話をするということを習慣としている人がいます。
この会社は非常に結束力の固い会社だと常々感じていますが、社長の地道な声掛け活動はその要因のひとつであることは間違いありません。
誰もがやらないことをやり続けることは、リーダー自身の気を引き締める意味でも大切ですし、その行動習慣を見てメンバーがリーダーの人格を認めるきっかけになるのです。
ドラッカーも「いかなるリーダーも、つねに美徳(道徳的価値と業績)で判断される」(ドラッカーのリーダー思考法 中経出版)と言っています。
きっちり叱る!
メンバーを叱ると、メンバーとの関係が悪くなるのではないかと考えるリーダーも多いと思います。相手にマイナス感情を抱かせることが容易に想像できるからでしょうが、リーダーが気を回さなければいけないことは、チーム全体に対してであって、ある特定個人に対してではありません。
もし、あなたがあるメンバーの行いを良いものだとは思っていないにもかかわらず、叱ることなく放置していた場合、当の本人はマイナス感情を抱かなくても、周囲のメンバーの感情はマイナスに振れるのです。
リーダーは、チーム全体に悪い影響を与える行動を見たときには、見逃さずきっちりと叱る必要があるのです。
また、その他にもリーダーが考えている「やってはいけないコト」をしたときにもしっかりと叱る必要があります。かつて経営の神様松下幸之助は、常日頃「私より部下の方がえらい」と言うほど部下を尊重する態度を強く示していたそうですが、その松下幸之助も絶対許さない範囲のコトを持っていたそうです。そこに触れる行為を部下がしたときは、怒鳴りつけるほどだったということです。
リーダーの妥協を許さない態度によって、メンバーはそのコトに関するリーダーの本気度を垣間見ることになります。そして、そのうち価値基準がチームの中に定着するのです。
どのような範囲のコトがそれにあたるのか、それはみなさんの考えの中にあることですが、基本的にはチームにとって大切な
・目的
・メンバーシップ
・モラル
に関することになるでしょう。
結果を叱ってはいけない
メンバーの結果が思わしくなかったとき、突然「何やってたんだ!」と叱っても何にもなりません。連載の冒頭で述べたように結果(成果)は行動によって引き出され、さらに、行動は意識・思考によって決定されますから、本来叱るべきなのは、結果の前段階なのです。結果は出てしまったらもう取り返しはつきません。
叱らなければいけないのは、まず行動です。そのときの叱り方に決まりはありませんから、もし、本当にみなさんにとって許しがたい行動だった場合などは、怒鳴りつけるということがあっても私はいいと思っています。しかし、行動を叱るだけでなく、他にも必ずしなければならないことがそこにはあります。
それは、なぜその行動をしたのかという考え方を聞き出すことです。つまり、意識と思考を確認するということです。
「今回の君の行動は、私は決していい行動だと思っていない。しかし、君にも何か目的があったんだろうから、それを聞きたい」というような確認です。(拙書「部下を育てるものの言い方」)
その考え方に問題があった場合は、行動よりもその考え方を叱ったほうがいいのです。そしてもし、考え方自体が間違っているわけではない時は、その考え方を実現する行動とはどんなものなのか一緒に考えアドバイスする必要があります。
褒めるのは貢献
良い結果(成果)を出したときに褒めた方が良いと誰もが考えると思いますが、この場合も結果を出したことだけを褒めるのは危険です。
結果は出したが、意識・思考そして行動というプロセスがチームの目指している方針と異なっているような場合に、万が一褒めてしまったら、本人の意識に「これでいいんだ」という認識が強く定着してしまいます。これは結構危険なことで、営業成績の良い営業マンほどチームや会社に対するロイヤルティが低いという現象がまま見られるのも、結果に対してだけ褒められ認められ続けた結果なのです。
褒めなければいけないのは、結果を出したことに対してではなく、その結果や過程においてチームに貢献することができたと認められる場合です。
例えば、
「これでチームがもっとよくなる。ありがとう」
「今回は、途中の君の段取りがよかったからチームが成功できたよ。ありがとう」
というような褒め方をするということです。(拙書「部下を育てるものの言い方」)
貢献を褒めることによって、リーダーがチーム志向に重きを置いていることを理解させることができます。また、結果が出せる中心メンバーに貢献意識を持たせることは、以前示した「成功循環モデル」を例にとると、「結果の質」をよりよい「関係の質」へ向かわせ、新たな成功循環をもたらすために有効なのです。
◇ ◇ ◇
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年9月24日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]