中竹竜二が語る リーダーにいま必要な条件
先日実施された小室淑恵さんの講座「チームで勝てるリーダー術!女性管理職養成講座」に登場したのは、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さん。「リーダーシップでぐいぐい引っ張る」のではなく、「フォロワーシップで相手を支える」という新しいリーダー像について紹介していただきました。
「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」の割合を知る
リーダーにとって最も重要なのはリーダーシップだと考えている方が多いと思います。リーダーシップとは、上へ前へとメンバーを引っ張る行為です。
一方、フォロワーシップという言葉を聞いたことがあるでしょうか。フォロワーシップとは、メンバーを下や後ろから支える行為です。
ここで、普段の自分の仕事ぶりを思い起こしてみてください。部下や後輩を引っ張っているのか、それとも誰かを支えていることのほうが多いのか。いかがでしょう。
このリーダーシップとフォロワーシップが、自分の仕事のうち、どのくらいの割合を占めているかを考えてみてください。5対5でしょうか、それとも1対9でしょうか、9対1でしょうか。この割合について、自分自身で考える機会があまりないと思うので、一度考えてみることをおすすめします。
リーダーという役割には、実はメンバーを引っ張る力と、メンバーを支える力の両方が必要です。支えるというのは、例えば、部下や後輩の悩みを聞いてあげることなどを指します。
またフォロワーという役割を果たすにも、誰かを引っ張る力と、誰かを支える力の両方が必要です。つまり組織内の人の役割は、以下4つのどれかに当てはまります。
(2)リーダーのフォロワーシップ
(3)フォロワーのリーダーシップ
(4)フォロワーのフォロワーシップ
では、役職や立場には関係なく、仕事において自分が果たしている役割を考えてみてください。例えば、自分が部長で、社長や役員と一緒に資料を作成したり、会議を開催したりする場合はフォロワーシップを発揮していることになり、「(4)フォロワーのフォロワーシップ」を果たしているといえます。
自分が係長で、アルバイトやパートの人達に指示を出している場合は、「(1)リーダーのリーダーシップ」を発揮していることになります。
自分の普段の仕事全体を100%とした場合、それぞれ4つの役割はどれくらいの割合になっているでしょうか。パッと考えてみてください。自分の中でどんな役割が多いかを知り、それが自分のスタイルにうまくはまっていれば、個人的にも幸福感が増すでしょう。
私の役割は監督で、役職的にはリーダーでしたが、実際私が果たしていた役割の9割は「(2)リーダーのフォロワーシップ」でした。実は、私は「(1)リーダーのリーダーシップ」はあまり得意ではないのです。私の場合、リーダーシップを発揮する仕事とは、チームの大きな方針を伝えることと選手選考ぐらいで、あとは基本的に選手を後ろから支える仕事に徹していました。
皆さんもぜひ、自分が仕事をするうえでどんな業務をしながら、どう仲間を引っ張り、支えていくのが自分に合っているかを考えてみてください。
NASAでも「フォロワーシップ」が重要視される
これからの時代は、リーダーのフォロワーシップが重視されていきます。
自分の仕事について、先ほど説明した4つの役割を考えてみると、リーダーであっても、リーダーシップ100%ということではなく、意外にフォロワーシップの役割を果たす場面が多い方もいらっしゃるのではないでしょうか。
リーダーシップは外から見ていても分かりやすいので、発揮していると会社からも後輩からも「素晴らしいリーダーだ」と認めてもらいやすいのです。一方、フォロワーシップはなかなか目立たないため、第三者から称賛されることはあまりありません。
しかし、このフォロワーシップがなければ、組織はうまく回らないのです。リーダーが引っ張るだけでなく、時にはメンバーを下から支えることでバランスが取れるのです。
世界で最も優秀な組織の一つといわれるNASAでも、宇宙飛行士の最終選考では「フォロワーシップが発揮できるか否か」をチェックします。ストレスが極限までかかっている状況で、どうやってお互いの最大のパフォーマンスを出すか、ということに注目するのです。
フォロワーシップは皆さんが普段は当たり前のように発揮しているものだと思います。これは組織を動かすうえで、最も重要な能力の一つです。早いうちから部下にもフォロワーシップの重要性を伝えましょう。
例えば、私は試合後にミーティングを開きません。普通は試合が終わった後に、監督が編集したビデオを見せながら、「ここが悪かったな。次はこういくぞ」と話すものですが、私はその作業を選手にやらせているのです。
私は試合が終わると決まってこう言うのです。「お疲れさまでした。明日は10時からミーティングをします。私も分析してきますが、みんながどう分析するかを楽しみにしています」と。すると選手は集まって話し合い、ビデオを編集し、どこがよくてどこが悪かったか、次はどうするかと自ら考えるようになります。つまり選手の自主性が育つのです。ここでの私の役割はやはり「リーダーのフォロワーシップ」だといえます。
普段からフォロワーシップを発揮している方はたくさんいらっしゃると思います。これからの時代は、このフォロワーシップの価値がさらに注目されますので、フォロワーシップを得意とする皆さんも、ぜひ自信を持ってご自分のスタイルに磨きをかけてください。フォロワーシップを組織に根付かせることで、皆さんが所属している組織がさらにいい組織になっていくと思います。
(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター/U20日本代表ヘッドコーチ。TEAMBOX代表取締役。1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、自律支援型の指導法で多くの実績を残す。 現在は、日本ラグビー協会コーチングディレクター(初代)として、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力している。次世代リーダーの育成・教育や組織力強化に貢献し、企業コンサルタントとしても活躍している。主な著書に『自分で動ける部下の育て方-期待マネジメント入門』(ディスカヴァー携書)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP社)など。
(ライター 西山美紀)
[日経DUAL 2016年3月28日付記事を再構成]
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