第1回 真のリーダーに求められること井上オフィス代表 井上 健一郎

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突然ですが、あなたがチームのリーダーであれば、質問をさせてください。

(1)あなたはチームの目標達成に苦しんでいませんか?

(2)あなたは仕事が楽しいですか?

いかがでしょうか。もちろん、できるリーダーであれば、(1)はノー、(2)はイエスと応えるはずです。特に重要なのが(2)です。

成果をあげるためには、「行動管理」は後回しにする

今や「仕事が楽しい」と答えるビジネスパーソンは30代、40代で30%台しかいないというアンケート調査もあります。もし「楽しくない」と感じている70%近くの人の中にチームリーダーが多く含まれているとしたら、日本全体の会社組織が崩壊しかねません。リーダーが楽しんでいないチームの成果が上がるはずがないからです。

確かにリーダーは、チーム成果を管理し、そして、その成果に対する責任を負っています。成果を達成するためには、それに対するメンバーの適切な行動が不可欠であり、その行動を管理することが、リーダーの成果管理業務の中心であると考えられる傾向があります。特に、新人などの教育段階にある部下に対しては「今日はどこに行くのか」、というほど細部にいたる行動管理がされることがあります。

しかし、それは間違いです。確かに成果は、行動の積み重ねによって成しえるものですが、その行動のベースに、人間の意識・思考・感情というようなマインド面が強く影響していることを見逃してはいけないのです。(下図 参照)

納得のいかない目標を与えられ、そのうえ嫌な上司に細かくチェックされたら、その部下の行動は決して前向きで、建設的な行動になることはありません。ノルマを達成するためだけの短絡的な手段に打って出ることも充分考えられます。それはけして会社の継続・発展にとって有意義なものとは言い難い行動となるのです。

チームの成果を高めるために、リーダーが最初にしなければいけないことは、メンバーのマインドを前向きにすること、そのマインドを合わせることです、決して「行動管理」をすることではないのです。

リーダーがやるべきことは「楽しく成果を出すチームビルディング」です。成果だけに目を向け、焦ってその管理をしても、高い成果を出すチームは作れません。

読者の皆さんにはこの「チームビルディング」に楽しんで取り組んでいただきたいと考えています。新米も含めてリーダーとしての経験が浅い方、これからリーダーの役割を担う方に、そのためのポイントや手順を示すのが、この連載の目的になります。

リーダーの最重要責務はチームの「活性化」

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は、成果の質をあげるためには、メンバー間の関係の質をあげなければいけないと説いています。

関係の質が高まれば、思考の質が高まり、それが行動の質へ影響し、その結果成果へと結びつくという理論です。そしてこれはスパイラルのように循環しながらチームを活性化させると言っています。これを成功循環モデルと言います。このサイクルを逆にすると、つまり、成果だけを求めると、行動の質が下がり、その行動を責めると、次に思考の質も下がり、続いて関係の質も下がります。これを逆循環モデルと言って不活性なチームを作る循環であるとしています。

このように、高い成果を創出するチームを作るには、チームの関係性が良く、元気であることが最も大切なのです。つまり活性化したポジティブなチームです。

リーダーの重要責務は、チームの「活性化」だと言って決して過言ではありません。

活性化されたチームが、創造力を勝ち取れる

「生産性の高い」チームとは、成果に向かって「意識、思考」という内的生産性と「行動、創出」という外的生産性を重層的に重ねることができたチームのことです。

決してそれぞれが並行的に位置するものではなく、あくまでも「内的生産性」の上に「外的生産性」が積み重なるのです。

そして、内的、外的生産性の基盤をなすのが、コミュニケーションとモチベーションです。この基盤部分は、成功循環モデルでいうところの「関係の質」に相当し、基盤がしっかりとしたチームが活性化しているチームと言えるのです。

コミュニケーションとモチベーションという基盤の上に、内的、外的な生産がなされ高レベルの成果を創出するのです。特に、昨今のような激しい環境変化と競争激化の中にあっては、単に行動レベルが良いだけではなく、変革・革新をもたらすような「創造力」を持つことが必須条件になってきていることを忘れてはいけません。

そして、図に示したピラミッドの下から順番に整えていくことがリーダーのするべき正しい手順です。もちろんチームの現状がどこにあるかということは大事で、内的生産性の高いチームであれば、外的生産性を高めることから始めても構いませんが、リーダーになりたての時に、いきなり「これからは、創造力を持たなければいけない」などというメッセージを発することは避けるべきです。

創造力を得るために、メンバーを「育成」することがもうひとつの責務

最大の生産性を獲得するために、「創造力」のあるチームにすることが「活性化」とともに重要なリーダーの役割ですが、そのためには、メンバーの能力を高める必要があります。メンバーの「育成」は、リーダーにとって重要な責務なのです。しかし、数多くの現場で育成方法に悩むリーダーが多いのも事実です。それは、何をどのように教え、育成すればいいのかということが体系化されておらず、それぞれのリーダーの感覚知の中だけにある状態だからです。

育成の上手なリーダーは、個々のメンバーの性格や資質にあわせた育成方法を感覚的に知っていて、すべてのメンバーに同じ育成方法をとることはありません。対人スキルの苦手な営業マンと得意な営業マンでは、顧客へのアプローチ方法が違うのは当たり前です。

しかし、多くの場合、リーダーは自分が得意としてきたやり方や自分の考え方を教える傾向にあるため、リーダー本人が気付かないうちに、画一的な育成方法になっているのです。

また、知識や技能を教えれば育成が完了すると考えるリーダーも多く、その知識・技能を生かす力をつけるためには、経験を積ませるしかないと思い込んでいることがあります。本当の育成とは、知識・技能よりもそれを生かす人間力のほうがずっと大切なことであるにもかかわらず、経験させるというと言葉は良いのですが、実態は本人任せにしているのです。

では、チームで働くための人間力とは何でしょうか。その力のベースとなるのは、次の3つです。

協働する意識と力

仕事をこなす意識と力

成長する意識と力

さらに、これを細分化すると

協働する意識と力   →  チーム志向 コミュニケーション

仕事をこなす意識と力 →  思考 行動

成長する意識と力   →  成長意欲 育成

という6項目になります。

この6項目のうち、メンバー個々にとって、どこが成長のための課題であるかを見極めなければ、適切な育成にならないのです。いずれ、連載の中でこの6項目を細分化したものを示しますが、このように「育成すべき人間力」を体系化したものを知っておくことは、育成方針を決める際に大いに有効となります。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年4月9日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

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