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孤独なママのストレス解消のため託児付サービスで起業

日経DUAL

2016/6/3

日経DUAL

 起業するまでの経緯や仕事と家庭の両立についてなど、多くの壁を乗り越えてきたママ起業家や社長にインタビューします。今回は託児付きの子連れランチやお出かけスタイルを提案している、ここるく代表取締役の山下真実さんにお話を伺いました。

■日本の製造業に就職後、アメリカでMBAを取得

山下真実 ここるく代表取締役  京都府生まれ。関西学院大学 総合政策学部在学中に学生ベンチャーを立ち上げ、卒業後は大手メーカーや外資金融などで経験を積む。2011年に第一子を出産し「今まで気にも留めていなかった当たり前の事が、産後は一気にできなくなるんだ」と感じたことがきっかけとなり、現代に合った子育て支援を実現するため、2013年にここるくを設立。子連れお出かけ支援事業や、育休明け復帰支援事業などを手がける。ミズーリ大学カンザスシティ校 経営大学院卒(MBA)(写真:小松顕一郎)

 両親や親戚など、周囲にはサラリーマンがいない家庭環境で育った山下さん。

 「父も母もそれぞれ事業を経営していました。その影響もあり、自分もいつかビジネスを切り盛りしたいと自然に人生を描いていました」

 大学在学中に、ファクスでやり取りをする家庭教師事業を立ち上げ。卒業を機に起業を考えましたが、山下さんが選んだのは大手メーカーに就職するという道でした。

 「自分は会社員であり続けることはないと思うけれど、社会勉強として就職しようと思いました。周囲に会社員がいない環境で育ったこともあり、将来的には起業するにしても、会社勤めとはどういうものか一から勉強したいと考えたからです。どうせなら日本企業らしい会社に勤めようと思い、国内大手製造業に就職しました」

 仕事で成果を出し会社員としてうまくいたのですが、ビジネスについて学びたいという想いが強くなり、2年ほどで退職。MBAを取得するため、アメリカのカンザスシティに3年半留学しました。

 「経営学を学んだ後、翌年からMBAに進学しました。クラスの3分の1が合格できないといわれているくらい、周囲には敬遠されていたファイナンスの授業が楽しくて。そこから金融業界に興味を持ちました」

 留学中に海外の留学生を対象にした就職イベント「ボストンキャリアフォーラム」に参加。複数社の投資銀行からオファーを受け、米系投資銀行JPモルガンで働くことを決めました。

■24時間戦っていた外資系投資銀行時代

 帰国後、JPモルガンで働き始めたのは28歳のときでした。

 「仕事の内容や与えられたミッションはものすごく充実感があり、やりがいがありました。英語と日本語が飛び交う丸の内の大きなオフィスビルで何億というディールをさばく、と今から思うとドラマの世界のようでしたが、実際にはものすごく地味な仕事の積み重ね。文字通り24時間常に働いている感覚でしたね」

 仕事そのものには満足していましたが、父親が他界したのをきっかけに母親が体調不良に。そこで家族をケアする必要性を感じたそう。

 「休みなく働いていた当時は、家族からのメールに返信することも出来なかった。自分自身に余裕がなさすぎて、いつの間にか家族を避けるような思考になりつつあったことにがくぜんとしました。それで、金融コンサルティング会社に転職を決めました」

■社内起業に奔走。妊娠、出産、復帰も経験し新たな気づきも

 銀行にリスク管理のコンサルティングを行う会社で山下さんが担当したのはオペレーショナル・リスク・データベースの立ち上げ。

 「人やシステムが業務を回すことでミスや事故が起こる可能性(リスク)に対処するのがオペリスク管理。専門家と一緒に国内で初めてのオペリスク管理のための共同データベースの立ち上げを行いました。社内起業みたいでした。このままオペリスク管理を専門にして深めていけば、大きなことができるという感覚があり、これを軸に頑張ろうと思っていました」

 そのころ妊娠し、長女を出産したものの、3カ月で職場復帰。事業を立ち上げたばかりだったので、すぐに仕事に戻った。

 「産後3カ月で復帰すると、ブランク感がないので業務のキャッチアップは早かったですね。子どもも保育園がおばあちゃんの家みたいな感覚で、新しい環境に慣れるのもスムーズでした」

■お母さんが子どもの愚痴を言う状況をなんとかしたい

 一方、周囲のお母さんを見ていると、交流サイト(SNS)では元気そうにしている人が実は誰にも相談できない育児ストレスを抱えていたそうです。「私は奇跡的になんとかなっただけで、都市部で子育てしているお母さんはとても窮屈な環境に置かれている。ものすごいストレスを乗り越えて子育てしないといけないんだ、と気づきました」

 それは、産後1年ほど経った友人と久々に会ったときのこと。

 「ママ友と近所の児童館に集まり愚痴を言うしか、ストレス発散の方法がない、と友人が言っていたんです。初めは夫の愚痴かと思って聞いていたら、子どもの愚痴。1歳そこそことはいえ、子どもの前で寄ってたかって子どもの愚痴を言うことはやめて欲しい、と率直に思ったんです」

 友人をよく知っていたこともあり、きっと何か理由があってそうなってしまったに違いない、と思考が回り始めたそう。

 「いきついた結論は、私も彼女と同じ環境だったらきっとこうなっていたに違いないということ。お母さん1人で子どもと向き合っている時間が圧倒的に長く、ちょっとどこかに行こうと思っても預けられる人が身近にいない。環境いかんによって、お母さんが子どもに向き合う姿勢がこんなにも変わってしまうということに問題意識を持ち、それが起業のきっかけとなりました」

■無理矢理大人の時間を共有させることが、子どもに対して失礼

 その時に役に立ったのが、自分自身の経験でした。

 「産後、プライベートで友達と食事に行ったり、ゆっくり大人同士で過ごしたりしたいときに、子どもを連れて行くのがしっくりこなかったんです。子どもが6~7カ月を過ぎると、動きたいし、声も上げる。この子に無理矢理その時間を共有させることが、子どもに対して失礼だと感じました。それを強いてまで友達と会っていても全然楽しくないし、そうしたいとも思いませんでした」

 そこで、山下さんが考えたのが、食事に行く前にレストランに掛け合い、自分達はダイニングで食事をする間、子どもとベビーシッターが過ごせる個室を貸してもらう、ということ。

 「事前にレストランと調整し、ベビーシッターを個別に手配。食事の開始時間に合わせて現地に来て子どもを見てもらう、という時間の過ごし方をしていました。これが今の『ここるく』の原点です」

 2013年、自己資金で「ここるく」を設立。今まで子連れでは行けなかった大人向けのレストランなどが託児付で利用できるサービスを提供している。

 「子育て中のお母さんに来てもらいたいと思っていても、今まで子連れ客を受け入れた経験がなかったり、周りのお客さんがどう思うかを心配していたりして、現状断らざるを得ないレストランは結構多いんです。でも、できればそういうお母さんにもおいしい食事を楽しんで欲しいと思っているオーナーやシェフがほとんど。託児付きであれば実現できるね、と言ってくれますね。お客さんが少ない時間帯に集客したり、新規顧客の獲得やPRなど、お店側にもメリットを感じてもらえる仕組みになっています」

 託児スペースは、レストランの個室を利用する形と「ここるくサポーター」と呼ばれる企業から、昼間空いているスペースを貸してもらう形がある。

 「現在は、関東・関西を中心に30店舗以上のレストランと提携。エステサロン、習い事教室など連携先も広がっています。企業からオファーを受け、社員の福利厚生や企業のイベントやタイアップとして行うこともありますね」

■子どものためを思うサービスというポリシーを守っていきたい

 2015年は全国商工会議所主催の第14回『女性起業家大賞』にて最優秀賞を受賞。経営は今期で3期目を迎え、収益も安定してきました。

 今後、「ここるく」をどのように事業展開していくのでしょうか?

 「『ここるく』は、お母さんのためのサービスと言ってもらうことが多いです。それはうれしいことなのですが、そもそもは子どもにネガティブな影響が出るくらいなら、お母さんに好きな所に行ってもらいたい、お母さんが心のコリをほぐして子どもに愛情を豊かに注ぎ込めるコンディションを維持してもらいたい、というところから生まれました。そのため、子どものためを一番に考え、事業を展開していきたいです」

 託児会場ごとの安全管理やリスク管理はもちろん、保育者である「だっこママ」と定期的に会議を行って、どうすれば子ども達が主体的に楽しめるか話し合ったり、先進的な取組みをしている保育園や専門家から話を聞いたりして、日々ブラッシュアップしているそう。

 「ここるくの託児を通じて出会う子ども達に、託児という保育者やお友達がいる場だからこそ出来る経験を楽しんでもらったり、安心して時間を過ごしてもらえるよう、これからも向上させていきたいです」

(ライター 平野友紀子)

[日経DUAL 2016年4月13日付記事を再構成]

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