メトロ日比谷線が五輪前に変身 車両長く、新駅も
28年ぶりの車両全面更新 すべて4ドア車に
東京都足立区の北千住駅。午前7時から8時台のラッシュ時になると、ひっきりなしに電車がやってくる。よく見ると、ドアの数が多い。1両につき5つある。全8両のうち、先頭2両と後方2両(1、2、7、8号車)が5ドア車となっている。他の車両は3ドアだ。
「日比谷線は改札がホームの端にある駅が多いので、先頭と最後尾が混みやすい。混雑緩和のため1990年から5ドア車を採用しました」
東京メトロの広報担当者によると、5ドア車があるのは日比谷線だけ。他の路線では4ドアが主流だ。ただし東西線ではドアの幅が広い車両がある。ラッシュ時の乗り降りがスムーズになるらしい。
この5ドア車、実は5年後には完全に姿を消す。東京メトロは2016年度から19年度にかけて、日比谷線の車両をすべて入れ替えるのだ。実に28年ぶりの全面更新となるという。
車両の長さ、18mから20mへ 7両編成に
日比谷線は全部で42編成ある(編成とは全車両をまとめた呼び方で、日比谷線では1編成=8両)。なぜ、一気に変えるのか。
「駅に事故防止用のホームドアを設置するためです。今の車両編成だと両端2両ずつが5ドア車両と8両すべてが3ドア車両が混在していて、ドアの位置が変わってしまう。これをすべて4ドア車両に統一することで、ホームドアが設置できるようになります」
東京メトロ鉄道統括部計画課の佐久間穣さんが狙いを説明する。同時に車両の長さも変えるという。これまで日比谷線は1両の長さが18メートル(m)だったが、これを20mに延ばす。さらに8両編成から7両編成に変えることで全体の長さを抑え、ホームからはみ出さないようにした。
ただ、単にドアの位置をそろえるだけならわざわざ車両の長さを変える必要はない。18mのままでも対応できるはず。実際、丸ノ内線は18mの車両のまま、ホームドアを設置している。銀座線は16mだがそのまま設置する方向だ。なぜ面倒な長さ変更を行うのか。その答えは日比谷線内を走るもう一つの車両にある。東武鉄道の車両だ。
日比谷線は現在、東武スカイツリーラインとの相互乗り入れを行っている(日光線の南栗橋まで)。この東武線、日比谷線のほかにも半蔵門線や東急田園都市線など様々な路線の車両が走っている。日比谷線以外は20mが基本だ。将来的なホームドア設置をにらむと、これを機に20mに統一した方が進めやすい。そんな狙いもあるようだ。
1編成の全長は短くなる
しかし、ドアの数を減らしてラッシュに対応できるのか。車両数が減ることで、さらに混むことはないのか。佐久間さんに尋ねた。
「単純計算だと今の車両編成では18m×8両で全長が144m、新型は20m×7両で140mと短くなります。ただ、今のところ定員はほとんど変わらない予定です。1両減らしたことで車両と車両の連結部分が減り、その分乗客を乗せる余裕が出ます」
ラッシュ時についても、さほど影響はないと予測しているという。5ドア車を導入したころに比べると日比谷線の混雑はある程度緩和している、との見立てのようだ。実際、日比谷線で最も混雑する三ノ輪―入谷間の混雑率は、10年前の170%台から150%台まで改善している。03年に始まった東武線と半蔵門線の乗り入れが一役買ったとみられる。
急カーブ多い日比谷線、長い車両で曲がれるか?
もう一つ疑念が浮かぶ。日比谷線といえば、急カーブが多いことでも知られている。00年3月に中目黒駅で発生した脱線衝突事故はカーブで起きた。車両が長くなると当然、カーブは曲がりにくくなる。
メトロによると、日比谷線内で最もカーブがきついのは人形町と茅場町の間で、カーブの半径は126m。築地―東銀座間、日比谷―霞ケ関間、神谷町―六本木間にもそれぞれ半径130m前後の急カーブがある。半径が短いほどカーブがきつく、一般的に半径200m以下は車両にとってかなりの急カーブとなる。実際、車両を少し傾け、「キーン」という音を立てながら走っている。
地図で確認してみると一目瞭然。ほぼ90度、曲がっているのだ。大丈夫なのか?
「いくつか対策を考えています。検証の結果、トンネル内を20m車両で走行しても問題はなかったものの、一部の標識などが近すぎる懸念がありました。そこで信号機や標識、ケーブルラックなどをこれから2、3年かけて移設します。ダイヤへの影響はほとんどありません。一部の駅ではカーブの区間に設置されたホームと車両の隙間が空きすぎてしまうので、ホーム自体を改良する予定です」
佐久間さんによると、六本木駅などが改良の対象となる。確かに、六本木駅を訪れると「電車とホームの間が広く空いておりますのでご注意ください」と繰り返しアナウンスしていた。ここもカーブは半径130m前後あるという。
ホームの隙間対策、可動式ステップ設置
こうした駅ではホームドア設置と同時に、隙間を埋める可動式のステップを埋め込む。電車が到着したらホームから自動的に板がせり出し、隙間を埋める仕組みだ。既に丸ノ内線の中野富士見町駅などに導入されている。
ただし隙間が埋まるのは19年度以降。新型車両が走り始める16年からの3年間は移行期間となる。20m車両の場合、これまで以上に隙間が空くため、「警備員の配置などで注意喚起していく」とのことだった。六本木駅は今でもしつこいほど注意喚起しているが、これ以上になるのだろうか……。
ところで、そもそも日比谷線にはなぜ急カーブが多いのか。理由の一つは地下鉄建設初期に採られた工事方法にある。メトロによると、日比谷線は地面から穴を掘り下げていく手法がとられた。銀座線や丸ノ内線と同じやり方だ。「この方法だと道路に沿わないと工事が進められない」。このためどうしても何カ所か交差点に沿って大きく曲がる場所が出てくる。地下鉄特有の事情ともいえる。
神谷町―霞ケ関間に新駅 虎ノ門駅への地下道も
日比谷線では新駅計画も浮上している。
新駅の場所は虎ノ門ヒルズの西側、国道1号(桜田通り)の地下。日比谷線神谷町駅から北に約500m、霞ケ関駅からは約800m離れている。銀座線虎ノ門駅とは地下通路でつながる予定で、乗り換えの利便性も高まる。
メトロの新駅は08年の副都心線開通時の北参道駅など以来。既存路線では97年の銀座線溜池山王駅以来となる。20年の東京五輪までの開業を目指している。
それにしても日比谷線は東京五輪と縁が深い。今回の車両更新も新駅も、20年の東京五輪をにらんだ動きだ。歴史をひもとくと、日比谷線そのものが前回の東京五輪前の開業を目指していた。
東京メトロの前身、帝都高速度交通営団が編さんした「東京地下鉄道日比谷線建設史」は「営団は、オリンピック東京大会開催前に日比谷線全線の開通を目標に」建設を進めてきたと記す。全線開業は64年8月29日。まさに五輪直前だった。
日比谷線の開通には、もう一つの意味があった。中目黒駅で東急東横線との直通運転が始まったのだ。これにより、東京北東部と南西部を結ぶルートが完成し、五輪期間中の移動もしやすくなった。
東横線との直通は、副都心線に譲る形で13年に終わりを告げた。今は東武線とのみ乗り入れている。路線の充実とともに混雑率は低下を続け、メトロの軸足は混雑緩和から安全確保に移りつつある。2つの東京五輪を契機とした日比谷線の変化は、この半世紀の時代の流れを色濃く反映している。(河尻定)
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