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村上春樹、35年間を回顧 「翻訳通じて小説を学んだ」

2017/4/27

 作家の村上春樹氏の翻訳をテーマとしたトークイベント「本当の翻訳の話をしよう」が4月27日、東京・新宿の紀伊国屋サザンシアターで開かれた。「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」(中央公論新社)の刊行を記念するもので、村上氏による講演は珍しい。

 「翻訳について」と題した最初のトークでは約35年に及ぶ自身の翻訳業を振り返った。「この本を作るにあたって、原書を書棚から引っ張り出したが、こんなに翻訳していたのかと驚いた。僕にとって翻訳は暇があるとついついやってしまう趣味のようなもの。最初のうちは細かい部分は分からなくてもごりごり読んでいく。それを積み重ねるうちにスキルも自然と身についた」と話す。その上で「原文のトーンを崩さない形で読みやすい日本語にすることを心がけてきた。自分の文体を意識する余裕はない」とも。

「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」

 それは小説を書く上でも役立ったという。「小説家としては嫌なのは書きたくないのに書かなくてはいけないこと。書くことがないから苦しいし、胃だって痛くなる。でも僕は小説を書きたくない時期は翻訳をしていた。小説を書くうえで呻吟(しんぎん)した記憶はないし、胃もとても丈夫だ」と会場を笑わせた。さらに「翻訳は究極の熟読であって、一行一行テキストを追うのは作家として貴重な経験だった。翻訳を通じて(トルーマン・)カポ-ティや(ジョン・)アーヴィング、(レイモンド・)カーヴァーらから小説の書き方を学んだ。それは文体というより、世界を切り取る彼らの視点だったと思う」と述べた。

 やはり小説とともに翻訳も手掛けていた作家の故・丸谷才一氏に関するエピソードも披露した。自宅に弔問に訪れた際、丸谷氏の英語書籍だけを集めた書庫を見せてもらった。「手にとって読んだ跡がほとんどの本にあった」という。机の引き出しには村上氏がノーベル文学賞をとった場合に備えたお祝いの原稿が残されていたという。「なんか申し訳ない気持ちになりました。でも、僕のせいではないですものね」

 その後、カポーティ「ティファニーで朝食を」など自身が翻訳した作品の一部を、解説をまじえて朗読。女性作家、グレイス・ペイリーの「この国で、しかし別の言語で、私の叔母は、みんなが薦める男たちと結婚することを拒否する」に関しては、作家の川上未映子氏が朗読した。川上氏との対談で村上氏は「18歳で故郷の関西を離れたとき、それまでの自分とは違うフェーズに入ったように感じた。講演も英語の方が借り物でやっているような気がして楽に感じる」と語った。

 最後にアメリカ文学者で翻訳家の柴田元幸氏が登場。レイモンド・チャンドラーの「プレイバック」などの原文の一部と、その村上訳、柴田訳を比較する「翻訳講座」を2人で開講。柴田氏は「僕の訳は正確さに重きを置いているが、村上さんの訳はそこから一歩踏み出しているのがうらやましい」などと評価した。柴田氏との対談で「翻訳したい作品は山ほどある。時間がどれだけあるか」と述べた村上氏。今後も小説のみならず翻訳でも楽しませてくれそうだ。

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