あってよかった 社内保育所、女性復職の助けに
「この施設があって本当によかった。なければ復職のめどが立たなかった」。ローソンのホームCVS事業推進部で働く佐伯奈美さん(29)は胸をなで下ろす。
安心して働ける
同社は7月、東京・品川の本社があるビル内に「ハッピーローソン保育園」を開いた。生後57日から通えて、定員は20人だ。2013年7月生まれの佐伯さんの長男は、オープン初日に入園した。
佐伯さんは自宅周辺で保育園を探してきたが、預け先は見つけられなかった。「ネットを使った宅配事業を担当しており、変化が速い。ブランクが長くなることに不安があった。子どももすぐに慣れ、安心して働くことができる」
同社は05年から新卒採用の5割を女性にする目標を掲げ、女性社員が増えた。「子どもが待機児童になって職場復帰が遅れたり、産むのをためらったりするという声が出てきた。すぐに戻ってこられるという安心感で、女性のキャリア形成を応援したい」と担当の山口恭子さんは話す。
仕事と子育ての両立を目指す女性にとって、保育園確保は高い壁だ。確保できなければ予定より長く休まなければならなくなったり、仕事をあきらめたりすることになりかねない。キャリアを築く上で、大きなマイナスだ。
特に、一斉入園の時期である4月を逃すとハードルはさらに高くなる。例えば13年4月時点の待機児童数は約2万3千人だったが、10月時点には約4万4千人と倍近くに膨れあがった。早生まれなどで4月に入園できなかった子どもや、その後生まれた子どもが加わってくるためだ。
企業は女性の力を生かそうと、短時間勤務など両立支援制度を整えてきた。だが、安心できる預け先が確保できなければ、制度も生きない。事業所内保育施設が復帰に向けたセーフティーネットになっている。
男性も考える契機
伊藤忠商事の電力プロジェクト部課長補佐、寺内香織さん(40)は3月に出産し、8月に子どもを事業所内保育施設に預けて復職した。「復帰時期を決めておくことができてよかった。仕事にできるだけ早く戻りたかった」という。
寺内さんには4人の子どもがいる。1人目のときは一斉入所に合わせて復帰したが、2人目からは事業所内保育施設を利用して年度途中の復職だ。「ここがなければ、4人も産むこともできなかったかもしれない。育児をしながら働く環境を整備してくれる会社への信頼、感謝が、仕事へのモチベーションにもなっている」
同社の施設はこれまで東京・港の本社から少し離れたところにあったが、9月に本社敷地内に移転した。「昼休みに授乳するのも楽」(寺内さん)だが、移転には別の効果もある。「より社員の目に触れやすくなることで、男性も含め、仕事と子育ての両立について考えてもらう契機になれば」と人事・総務部課長補佐の井上美緒さん。
ここでは特定の日時だけ預かる一時保育もしており、妊娠中の妻が病院に通う日に、子どもを連れてくる父親もいた。同社は残業削減に向け早朝勤務へのシフトも始めている。長時間労働の見直しや意識改革も含め、様々な取り組みをセットにして女性が活躍しやすい環境を整えようとしている。
政府は「女性の活躍」を成長戦略の柱に掲げる。それには、保育サービスの量を増やし年度途中でも入りやすくすることや、職場の意識改革を進めることが欠かせない。事業所内保育施設の利用状況からは、これらの必要性がくっきり浮かび上がってくる。
地域の利用促す
事業所内保育施設は全国で約4300カ所(13年3月)ある。病院内の施設が多いが、病院以外も約1700カ所で前年より72カ所増えた。
15年から始まる新しい子育て支援制度では、事業所内保育も柱の1つに位置づけられた。保育士の数や設備などで一定の条件を満たし、地域住民にも開放する施設を自治体が認可し、公費を投入する。従来の行政の補助は限定的で、企業の負担が重かった。
化粧品メーカー、アルビオンは来年4月から、東京・中央にある同社の施設を新制度に移行させる予定で準備を進めている。定員を増やし、中央区民の「地域枠」を10人分設ける。「もともと社会貢献のために始めた施設。地域の方にも役だってもらいたい」と同社の担当者は話す。神戸市も、新制度を利用する事業所を募集、このほど病院など5カ所が決まった。
ただ、まだどうするか様子見のところも多い。従業員が入りにくくなることなどを懸念する声も強く、ハードルは低くない。
保育サービス大手で事業所内保育施設の運営を手掛けるポピンズの中村紀子社長は「事業所内保育施設は女性の就労継続のために大きな役割を果たしており、企業からの問い合わせも増えている」と話す。しかし「国の補助は不十分で、新制度に移行するための基準も高い。企業を後押しできるよう、税制優遇なども含め、一層の見直しが必要だ」と強調する。
(編集委員 辻本浩子)
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