頭痛の原因がまぶたに? 垂れてきたら要注意

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まぶたを上げる力が落ちて目を覆い隠し、視力に問題を起こす眼瞼(がんけん)下垂症だが、実は、頭痛や肩こり、さらにはうつ症状の原因にもなる可能性があることが分かってきた。普段の生活でこすりすぎないなど注意をすれば、予防も可能だ。新年度が始まり、仕事で夜中までまぶたをこすって起きている人はすぐに改めよう。

川崎市に住む田辺敏彦さん(63)は、「長年苦しんでいた頭が重いなどのうつ症状を克服できた」と話す。きっかけの1つがまぶたの手術だという。目を開けているのに、まぶたが黒目を覆うほど下がる。気になって形成外科を受診したところ、「眼瞼下垂症」と診断され、手術を受けた。術後数日で「霧が晴れるようにすっきりとしてきた」と話す。

手術を担当した今井皮フ形成外科クリニック(東京都立川市)の今井由典院長は「眼瞼下垂症の手術で、うつ病が100%治るとは限らないが、まぶたの治療で、頭痛や肩こりなどの体の不調から解放される人は多い」と話す。まぶたの動きと体の筋肉は無関係ではないからだ。

目の奥が緊張

上まぶたの奥にはまぶたを上げるために働く「上眼瞼挙筋」という筋肉がある。まぶた周辺で「腱膜(けんまく)」と「ミュラー筋」と呼ぶ組織にわかれる。この3つが連動してまぶたを上げて目は開く(図参照)。まぶた内にある、形を維持する芯のような「瞼板(けんばん)」が開閉をスムーズにしてくれる。

ところが、目を頻繁にこすったり、まぶたに強い刺激を与えたりし続けると、腱膜が瞼板から外れまぶたがたるむ。これが腱膜性眼瞼下垂症だ。

ミュラー筋だけでもまぶたを上げることはできるが、ミュラー筋だけだと、体のいろんな所に無意識に余計な力が入るという。特に目の奥が常に緊張し、目の奥の痛みや眼精疲労が出てくる。首や肩の筋肉が緊張し、コリの原因にもなる。「ミュラー筋にかかる負担を減らす手術で、どの診療科でも解決できなかった頭痛が治まったという人もいる」(今井院長)

さらに、まぶたの動きは脳の働きに深く関わっていることが最新研究で分かってきた。

浜松市で松尾形成外科・眼瞼クリニックを開く信州大学の松尾清特任教授は「まぶたを強く開けると脳の青斑核と呼ぶ緊張の中枢に信号が送られ、意識がハッキリし、目を覚ます働きが増す」と昨夏発表。眠くなると目をこすって起きようとするが「ミュラー筋に刺激を与え、脳へ起きていなさいという信号を送ろうとする自然な行動」だという。

脳の働きを左右

緊張したり、ストレスが加わったりしたときもまぶたを強く開け「ミュラー筋を過度に引っ張って、脳に刺激を送って対処しようとする」(松尾特任教授)。ただ、これが長く続くと、脳に信号が送り続けられ、交感神経が強く働き、体中の過度な緊張、不安感の増加や不眠症状を招く。

一方、腱膜性眼瞼下垂症が進行してミュラー筋が伸びきってしまうと、まぶたが開きにくくなり、脳への刺激が減る。すると常に眠く、やる気が起きず、疲れやすくなる。これらはうつ症状の一部。「ミュラー筋の異常は様々なうつ症状を招くことにもなる」と松尾特任教授は警告する。

下垂症は手術で治療も可能だが、その前に、生活の中で予防や改善を優先してみよう。「手術を避けられることもある」(今井院長)という。

まず、目をこすりすぎないこと。加齢で筋肉が衰えればまぶたは下がってくる。特に「化粧をする機会の多い女性は、男性より10年ほど症状が出るのが早く、40代後半から増える」(今井院長)。化粧を落とす際も優しく洗おう。

コンタクトレンズも、まぶたの裏にある腱膜を内側から刺激して、腱膜を薄くし、瞼板から外れやすくする一因だという。長時間の使用や着脱に注意したい。パソコン作業や車の運転の合間には、意識してまばたきするなどで休ませることも大切だ。また、考え事をするときのような、軽くうつむく動作でミュラー筋は緩む。1時間半に一度実施してみよう。

「強いストレスがかかると、まぶたは閉じていても眼球は上を向き、ミュラー筋は引っ張られて交感神経に刺激が入ったままになることがある」と松尾特任教授。そんなときは「寝ているはずでも、脳は興奮して起きている状態」と指摘する。睡眠時には顎を引き、頭を下向きにするなどの姿勢を取るといいという。

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眼瞼下垂症、治療は何科で?

既にまぶたに異常を感じ、頭痛や肩こりに悩まされている場合、どの診療科に行けばいいのだろうか。日本形成外科学会は「心身の不調と眼瞼下垂症との関係について、学会でもガイドラインを設けている。学会所属医師には知識を持つ人は多い」という。

手術は形成外科だけでなく、眼科や美容外科などでも実施している。ただ、手術の方法も医療機関によって様々で統一されていないのが実情だ。

また、まぶたと心身の不調については、比較的新しい研究分野なだけに、全ての医師が知っているとは限らない。健康保険が使えるかどうかなどを問い合わせ、納得して治療を受けたい。

(ライター 結城 未来)

[日経プラスワン2016年4月23日付]

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