落語会「焦点」 真打ちと気鋭、真っ向勝負
看板真打ちに気鋭の二ツ目が真っ向勝負を挑む落語会「焦点」が熱い。演芸写真家の橘蓮二がプロデュース。北沢タウンホール(東京・世田谷)で昨年9月から2カ月おきに開催し、完売が続く盛況ぶりだ。今年に入り「番外篇(へん)」も開催。落語家の間でも「緊張感が違う」と話題だ。
「間近に落語家たちを見続けてきた橘さんに昨年、写真家生活20周年を機に落語会をしないかと持ち掛けた」(同ホール前館長の野際恒寿氏)。どんなテーマにするか。橘は「いま第一線にいる春風亭昇太さんや立川談春さんらが十数年前、大物と闘うように懸命な高座をつとめていた姿を思い出した。壁に立ち向かった人がいま人気者となって生き残っている。そういう機会をつくりたかった」と振り返る。出演する二ツ目には「負けちゃだめだ」と背中を押し、真打ちには「手加減しないで」とけしかける。
常設の寄席や落語会の多くは、全体のバランスを考慮して演目を選ぶのが暗黙のルール。トリにバトンを渡すべく、持ち時間を守り、似た演目を並べずにメリハリをつけるよう共演者どうし気を配る。
しかし「焦点」は違う。持ち時間の目安はあるが「あくまで内容本位。ベストの高座をやりきるためなら多少あふれてもいい。そのかわり1人の演者には1回しか出てもらわない」(橘)。
これまで真打ちの枠に出演したのは柳家三三、春風亭一之輔、笑福亭鶴瓶、柳家喬太郎。挑む側には講談師や浪曲師も出演。また前回からトリの前にベテラン級の漫才など色物が1組出演している。
真剣バトルをお膳立てする劇場側の準備も周到だ。浪曲の玉川奈々福が出演した際、舞台と演者の背格好に合わせて浪曲台を新調。奈々福は客席が息をのむ熱演をみせ、それを受けて登場した一之輔はマクラも振らずに大作「らくだ」を一気に披露して観客を圧倒した。「演者が意気に感じる会にしたい」という橘の思いが通じている。奈々福の好演は14日の「番外篇 オトコ前女流三人会」の開催につながった。
5月12日の第5回に出演する桂春蝶は「普段の会と違い、賞レースのような緊張感がある。落語家の間でも恐ろしい会だと話題になっている」という。
(雄)
[日本経済新聞夕刊2016年4月13日付]
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