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空き家に関するトラブルが増えているというニュースを目にするようになったわ。今後、空き家が増え続けるようだと、どんな問題が起きるのかしら。

空き家問題をテーマに岡山由佳さん(47)と畑有美さん(31)が谷隆徳編集委員に話を聞いた。

空き家が増えていると聞きました。

「総務省が5年ごとに調査する住宅・土地統計調査によると、2013年は全国に空き家が約820万戸あり、住宅総数の13.5%を占めています。10年前と比べ約2割、約160万戸増えました。空き家率が最も高いのは山梨県の17.2%で、以下、愛媛県の16.9%、高知県の16.8%と続きます」

「一方で、昨年1年間で約90万9000戸の住宅が新たに着工しました。日本人は新築志向が強いうえ、政府は長年、景気対策の面から住宅建設を後押ししています。工事に伴う直接的な需要だけでなく、家具や家電を買いそろえるなど、耐久消費財の需要も出てくるからです。日本は人口に続いて、19年をピークに世帯数も減っていくと予測されています。そうなると、空き家がさらに増える懸念があります」

空き家が増えるとどんな不都合があるのですか。

「全ての空き家が問題なわけではありません。820万戸のうち、約6割は借家や売却予定の住宅、別荘などが占めます。問題はどう使うか決まっていない残り4割弱の318万戸です。親の家を相続してそのままになっている木造の戸建て住宅などが多いとみられています。さらにそのうちの約210万戸は古い耐震基準であったり、傷んでいたりして、手を入れないと住むことが難しい空き家です。問題なのはこの約210万戸です」

「何も手を付けず老朽化が進んだ空き家は倒壊の危険があります。また、ゴミが散乱したり、立ち木が道路にはみ出したりするなど、衛生面や防犯面、町の景観といった点から、近隣住民や自治体にとって頭の痛い問題となります」

国や自治体はどんな対応をしているのですか。

「使い道が決まっていない空き家は13年の318万戸から23年には約500万戸に増えるという民間予測があります。そこで政府は、25年時点で400万戸程度に抑える目標を掲げています。対策の一つとして15年、空き家対策特別措置法を施行しました。倒壊の恐れがあったり、景観上、問題があったりする空き家を市町村が『特定空き家』と指定し、所有者に修繕や解体を指導や勧告、命令できます。それでも所有者が何もしないようなら、行政が代わりに解体できます。昨年10月に神奈川県横須賀市が倒壊の恐れのある所有者不明の空き家を同法に基づいて全国で初めて、取り壊しました。また、今年3月上旬には東京都葛飾区が所有者がわかっている空き家を解体しました」

「また、特定空き家に指定されると固定資産税の軽減措置が無くなります。家が建っている土地は現在、更地に比べて固定資産税が最大で6分の1安くなります。税金を低く抑えようと空き家をそのままにしている人もいるので、軽減措置をやめて所有者に解体や修繕を促す狙いです。また、今年4月から3年間に限って、一定の条件を満たした空き家を相続人が売却する場合、譲渡所得から1人3000万円まで控除することを認める制度も設けました」

空き家の増加を抑える上で、今後の課題は何ですか。

「まずは有効な活用策を探るべきです。古民家をレストランやギャラリー、宿泊施設などに転用する事例がすでに各地で出ています。都市部だったらグループホームのような介護施設や保育施設などに使う手もあるでしょう。空き家の活用などを手掛けるNPO法人の関係者によると、借り手はいるのに、肝心の貸し手が少ないそうです。家を手放すと空き家にあった仏壇や家具の処分に困るためだそうです。これも解決策を考えなければいけません」

「中古住宅の流通市場を拡大していくことも必要です。欧米では住宅売買の7~9割は中古ですが日本の場合、中古の流通量は売買全体の15%程度にすぎません。リフォーム費用も盛り込んだ中古住宅向けローンの拡充や、建物のひび割れや雨漏りなどを調べる『住宅診断』の普及が大切になります。米国などでは、中古住宅を購入する人の8割は事前に住宅診断をしています」

ちょっとウンチク


空き家、実は共同住宅が多く
 空き家というと古くなった木造の戸建て住宅を思い浮かべがちだが、実際にはマンションやアパートなどの共同住宅の方が多い。820万戸に上る空き家の6割近くは共同住宅だ。
 ただし、共同住宅では賃貸用が多いので、統計上は使い道が決まっていない「その他住宅」に分類される割合は少ない。ただし、貸したくても借り手がいないケースが多いのが実態だろう。
 ここ数年、相続税対策でアパート建設が増えている。節税が目的なので周辺の需要をしっかりと見極めているとは言い難い。このため、昨年以降、首都圏などでは貸家の空室率が上昇している。
 分譲マンションで空き家が増えると、戸建て住宅とは異なる問題が出てくる。空き家の所有者は物件への関心が総じて低いため、管理組合の活動が低下しがちだ。
 管理費や修繕積立金の滞納が増えたり、適切に補修しなかったりする場合もある。建て替えを検討したくても、空き家が多いと住人の間で話し合うことすら難しくなる。
(編集委員 谷隆徳)

今回のニッキィ


岡山 由佳さん 生花店勤務。ふるさと納税を始めてから、寄付した自治体に興味を持つようになった。「どんなところなのか、実際に訪ねてみたいと思っています」
畑 有美さん 小学校教諭。幼い頃から工作好き。今はドールハウスに置くようなミニチュア家具作りにはまる。「寝食忘れて没頭することで気分転換になります」
[日本経済新聞夕刊2016年3月28日付]

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