ジョギング渡り鳥
「醸造過程」のめずらしい味
鈴木卓爾監督の長篇(へん)作品をふりかえると、いつも人間でないものの存在が、重要な位置をしめている。
「私は猫ストーカー」(2009年)の猫たち、「ゲゲゲの女房」(10年)の画面のそこここに、さりげなく出てくる妖怪たち、「楽隊のうさぎ」(13年)のうさぎ(山田真歩)。妖怪は視線も感じさせ、うさぎは主人公の少年のまえにあらわれて、彼を音楽にみちびいた。
そして、この「ジョギング渡り鳥」では、宇宙人。
舞台は、入鳥野(にゅうとりの)町という、渡り鳥が飛来するほどに自然ののこっている地域。ここでは毎日のようにジョギングにいそしむ人々がいる。
川の土手の上に、元オリンピック女子マラソン金メダリストとそのコーチで夫の二人が、お茶を出す休憩ポイントがあり、人々の交流の場になっている。
そこと、それ以外の場でも発生する群像ドラマが、地味なタッチでえがかれる一方、この土地にUFOが落ちてくる。
宇宙人たちのすがたは、人間には見えない。それをいいことに、彼らは人間の生態を映画に記録しはじめる。自主映画を撮っている人間たちを撮影している宇宙人、という珍なる光景もあり、UFO/宇宙人関係は、思いきりチープにつくってあるので、笑える。
2011年5月にはじまったという映画美学校アクターズ・コース第1期生が演技だけでなく、公開にいたるまでのすべての裏方しごとにまで関わったというこの映画の最大の特徴は、「集団創作」ということにこだわり、現場で、ストーリーもふくめ、手さぐりですこしずつ、つくっていくというめんどうな進行法をあえてとっていることだ。
蒸留したものがたりではなく、それ以前の醸造過程から見せるわけで、時間は長大になり、見るほうもめんどうではあるが、めずらしい味がたのしめる。2時間37分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年3月18日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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